May 17, 2012

2100.BestSelection2012

120510_640 先月リニューアルオ-プンした東京都美術館。ここで今「BestSellection2012」展が、開催されている。

120510_006_640_5120510_010_640_4   東京都美術館は、1926(大正15)年に上野公園に開館して以来、多くの美術団体による「公募展」会場として親しまれてきた。
 いわばここが、日本の「公募展発祥の地」である。

 そこで美術館は再開館を記念して、全国の主要な公募美術団体が「団体の顔」として選んだ3~6人、あわせて171人の「旬の作家」による合同展を企画した。

120510_029_640  ベストセレクション審査会が選定したのは、「日本美術院」(1898年創立)「日展」(1906)「光風会」(1912)「二科会」(1914)「国画会](1918)「春陽会」(1922)「独立美術協会」(1926)「東光会」(1932)など27団体。
 バラエティーに富んだ出品作品は、油彩画、水彩画、日本画、版画、彫刻など178点にのぼる。

 アマチュアからプロまで、私の友人には絵画を嗜む人が多い。
 このブログでも、たびたび友人たちの絵を紹介してきたが、初夏に入って「春陽展」「東光展」と続いた。

  今回も二人の画家の作品が、美術団体を代表して展示されているので、先々週に続いて東京都美術館に足を運んだ。

120510_007_640110901_047_640 「二科会」を代表して展示されているのは、鹿児島在住の画家・西健吉の「浜の娘」。

 詳しくはブログ1967号('11.9.2)「二科展」で紹介したので省くが、高校時代からの友人で、二科会現役リーダーとして若い後輩を育てている。

 東京で月末に開催する同窓会にゲストとして招待したので、久しぶりに彼と作品について懇談できる。

120510_008_640  もう一人が、独立美術協会を代表する絹谷幸二画伯。
 彼とは20年ほど前に、友人の紹介で盃を交わして以来の仲である。

120510_030_640  彼についても、ブロク1454号('10.1.14)「生命の軌跡」展で詳しく述べているので省くが、前東京藝術大学教授・日本芸術院会員の大家である。

 イタリア・フレスコ壁画で学んだエネルギッシュで奔放自在な画が、今回も展示されていた。
 タイトルは、「蒼に染まる想い(巡りくる時)」。

 「公募団体ベストセレクション・美術・2012」展は今月27日まで、東京都美術館[上野公園]公募展示室ロビーおよびギャラリーで。
 観覧料600円。

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May 15, 2012

2099.幸せの教室

25_002_640  ハリウッドにしては珍しい地味なストーリーだが、学歴差別・リストラ・サブプライム・ローン問題などアメリカの「いま」を鋭くついた映画である。

  「フィラデルフィア」('93)「フォレスト・ガンプ/一期一会」('94)と2年連続してアカデミー賞主演男優賞受賞したトム・ハンクスが、若い頃の実体験をもとに脚本を書き、監督・主演した。

 ハンクスの相手役、こちらもオスカー女優(「エリン・ブロコビッチ」'00)のジュリア・ロバーツ。
 2大トップスターがそれぞれの「ミリョク」を十分に発揮して、佳作だが「魅力」ある作品に仕上がっている。

 お話は、スーパー・マーケットを首になった中年男の再起への道。
 リストラの理由が高卒だからというので、主人公はバイトをしながら「コミュニティー・カレッジ」に入学する。
 そこで出会ったのが、家庭の不和もあってやる気のない大学教授。中年版・学園ロマンスの行く末は・・・。

20120209003fl00003viewrsz150x  映画は「すべてをあなたに」('96)に続く、トム・ハンクスの2本目の監督作品。
 少々の事にはめげず、ユーモアを大切に、いつも前向きに生きる彼自身のイメージを十分生かした。
 いわば「トムの、トムによる、トムのため」の映画である。
 その彼を相手に、ジュリアがチャーミングにからむところがいい。

 もうひとり、ジュリア教授の同僚・経済学の先生が面白い。日系俳優ジョージ・タケイが怪演する。
 実務経験十分のハンクス学生だから、難しい経済理論もよく解る。

 ハンクス夫人のリタ・ウイルソン(「恋するベーカリー」'09)がローン担当の銀行員に、息子がピザの配達人と、一家総出演。

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May 13, 2012

2098.水の消防ページェント

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 晴海客船ターミナルで開催中の「第64回東京みなと祭」。
 例年だと帆船「日本丸」や「海王丸」が寄港して、学生たちによる「展帆イベント」が行われるのだが、今年はない。
 そこで、東京消防庁により「水の消防ページェント」を紹介しよう。

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 カラフルな水による「一斉放水」は、一番の見所だが、1時間にわたる「消防演技」はなかなか面白かった。

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 消防少年団やカラーガーズ隊、音楽隊パレードのあとは、東京消防庁に所属する9隻の消防艇と水上スクーター、3機のヘリコプターによる「分列航進」。

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 「みやこどり」「すみだ」「ありあけ」「かちどき」「はまかぜ」「きよす」「はるみ」「しぶき」「はやて」、いつも隅田川で目にするわが町の臨海消防署の船や、日本橋と高輪消防署に属する消防艇が航進する。

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 続いては、被災船からの救助活動。
 高速消防艇の演技等々・・・。
 日ごろの訓練の成果を披露してくれた。

120513_002_640  72年前の5月、東京港が国際貿易港として開港したのを記念して開かれている「東京みなと祭」。

 昨年は東日本大震災で、消防士や警察官、海上保安庁巡視船の多くが支援に出かけたので中止したが、今年は晴天のもと「熱気球体験搭乗」や、地元「月島五神太鼓」「築地リバーサウンズオーケストラ」演奏会など、盛りたくさんのイベントがまだ続いている。     

  

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May 11, 2012

2097.ひとまく映画会

 歌舞伎座で最後の一幕を楽しんできた「ひとまく会」。歌舞伎の方は休会中だが、ウォーキングやゴルフ、俳句や狂言など、同好の集いはたびたび開催されている。
 先日は、武蔵小杉で開催された「古典映画鑑賞会」に久しぶり参加した。

Mv5bmja4nje1mzm5mf5bml5banbnxkftztc  最初に上映されたのは「第17捕虜収容所」、「7年目の浮気」('55)や「アパートの鍵貸します」('60)などで知られる巨匠ビリー・ワイルダー監督(1906~2002)が、1953年に撮ったアメリカ映画である。

Mv5bmta2mdc2mdiwmzfeqtjeqwpwz15bb_2  ブロードウェイでヒットした舞台劇をもとに撮った異色の戦争ドラマで、ワイルダー監督の数多い作品の中でも傑作の一つに数えられている。

 舞台は第二次世界大戦中のドイツ。スイス国境に近い第17捕虜収容所の第4キャンプは、米空軍の軍曹だけが収容されている。

 その中でドイツ兵に上手く取り入るなど、要領よく生きているのがウイリアム・ホールデン扮する主人公。
 脱走した仲間が途中で殺された事件がきっかけとなり、彼にドツ軍スパイの嫌疑がかけられが・・・。

Mv5bmja2nda3mzm1nv5bml5banbnxkftzty 「大脱走」など、捕虜収容所を舞台にした映画は多いが、閉ざされた空間でのサスペンスと人間ドラマ、前半はコミカルだが後半になるとシリアスに展開するストーリーは流石である。

 この作品では、ビリー・ワイルダー監督とウイリアム・ホールデン、捕虜仲間役のロバート・ストラウスがアカデミー賞にノミネイトされ、ホールデンが主演男優賞を受賞している。

Mv5bmtiynjg5nzm3mv5bml5banbnxkftzty  出演はほかにドン・ティラー、ピータ・グレイヴス(「スパイ大作戦」シリーズのリーダー)など。
 「帰らざる河」('54)の監督として有名なオットー・プレミンジャーが、捕虜収容所長として出演しているのが面白い。
 彼はワイルダーと同じオーストリアの出身で、共にナチスに追われ活動の舞台をアメリカに移した「戦友」である。

 ビリー・ワイルダー監督、アカデミー賞には20回ノミネイト。「アパートの鍵貸します」など3本の作品で、監督賞・脚本賞など5つのオスカーを受賞している。

33_461066  2本目は懐かしい「寅さんシリーズ」。49作品のなかの32番目、これもシリーズでは傑作といわれた「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」(1983年)である。
 もちろん渥美清のフーテンの寅に監督は山田洋次、脚本も朝間義隆と二人で書いた。

 今回のマドンナは、出戻り娘役の竹下景子。彼女はこれを最初に、「知床慕情」('87)「心の旅路」('89)と3回マドンナになる。

 舞台は、さくら(倍賞千恵子)の夫(前田吟)の故郷・備中高梁。
 ひょんなことから、この町の高台にあるお寺さんの住職(松村達雄)と知り合い、寅さんはアルバイトの坊主になる。
 この寺に住むのは、跡取りになるのを拒む息子(中井貴一)と、出戻りの娘(竹下景子)。

100318_045_3   寅さんが娘に慕情を募らせ娘もまた・・・・といつものパターンだが、今回は「フラれる」のではなく、自ら身を引くという流れ。
 柴又駅での寅さんとマドンナの別れのシーン、これは泣かせる。見守る妹さくらの表情がいい。

100318_035100318_037    そう云えば一昨年、「ひとまく会」の「下町散策&グルメの会」は、柴又界隈だった。
 矢切の渡しを渡って「寅さん記念館」、帝釈天題経寺から参道のだんご屋、グルメは幹事役の友人が経営する川千屋での川魚料理。

 「ひとまく映画界」、いまではベテラン俳優となった若い出演者や鬼籍に入った名優たち、30年前の懐かしい柴又の風景を見ながら、涙して笑い転げた。

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May 09, 2012

2096.孤島の王

25_001_640  「人は誰でも、王になれるー」と、たった一日だけバストイ島の王になった少年の、短い人生の物語である。

 バストイ島は、ノルウェーの首都オスロの南75キロに浮かぶ島。
 1896年、政府は非行少年を収容する目的で島を買収、11歳から18歳までの150人を収容する矯正施設を作った。
 今で言う少年院である。

 島では通常の教育のほか、社会復帰後のための職業訓練として農作業などの労働実習も行った。
 刑務所とは異なる更生を第一目的とした取り組みは、周辺の国から高く評価され、モデル矯正施設として見学者も多かったという。

341759_01_03_03_3   ただ外界から隔離された島の実態は異なる。
 規則違反者に対する懲罰は過酷を極め、監督官による暴行や見せしめの重労働は日常茶飯事で、時には性的陵辱が行われていた。
 島を脱出しようとした者は徹底的に追及され、厳罰をもって処された。

 1915年5月20日午前、収容されていた少年たちがついに決起する。
 彼らは、院長や監督官たちを追放し島を占拠、リーダーが「孤島の王」となった。
 しかし午後には、ノルウエー軍の兵士150人がバストイ島に上陸、少年たちを銃撃するなど完全に鎮圧する。

341759_01_02_03 この事件は、完全に闇の中に葬られた。
 モデル矯正施設の欺瞞性が、暴露される事を恐れたからである。
 前の年には第一次世界大戦が勃発しており、ノルウェー国民の目がそこに向けられていたためか、今日までほとんど知られる事はなかった。

 映画は、かってこの暴動に参加した一人の老人を知ったマリウス・ホルスト監督の手で製作された。
 彼は、島に送られた少年たちの友情と自由への渇望を、瑞々しい心理描写で描く。
 それが、「孤島サバイバル」と「監獄脱出サスペンス」のドラマを生み、大きな衝撃を呼び起こした。

20120301002fl00002viewrsz150x_2  出演は矯正院院長に扮したステラン・スカルスガルドほかは、オーディションで集められた無名の俳優たち。
 スエーデン出身の名優スカルスガルドは、春に公開された「ドラゴン・タトゥーの女」に続いて今回も敵役である。

 雪と氷に閉ざされた孤島の風景が美しい。 

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May 07, 2012

2095.初夏・浜離宮

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 昨年の初夏は「つつじ」の紹介。「皇居東御苑」「根津神社」「六義園」を散策した。

 今年は毎月一回歩く「浜離宮」の花暦。

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 「フジ」「ボタン」「ツツジ」「ドウダン」「コデマリ」「シャクヤク」「ハクウンボク」「カントウタンポポ」「ヤマボウシ」「ムラサキケマン」「クロマツ」・・・、いま一斉に花開く。

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 「御鷹狩場」(江戸初期)~「甲府浜屋敷」「海手屋敷」(甲府藩下屋敷)~「浜御殿」(6代将軍家宣以降)~「海軍伝習屯所」(江戸末期)~「外国人接待所・延遼館」(明治初期)~「浜離宮」(明治・大正・昭和)~「旧浜離宮庭園」(戦後)~「浜離宮恩賜庭園」(現在)。
 およそ400年の歴史を数えるこの地、初夏の新緑と花々は変わらない。

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May 05, 2012

2094.わが母の記

25_640 昨年秋のモントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリ受賞、釜山、シカゴ、ハワイ、インドなどの国際映画祭で感動と賞賛を浴びた「わが母の記」が、満を持してこのゴールデン・ウイークに公開された。
 久しぶりに見る本物の「邦画作品」である。

340543_100x100_006  原作は、昭和の文豪・井上靖の自伝的な短編三部作「花の下」「月の光」「雪の面」を一本にまとめた同名小説。
 年老いた母と向き合う日々を丁寧に綴った、井上靖60代の代表作品といえる。

 幼少の頃自分を捨てた母への拘り、そのトラウマがエネルギーとなって次々と名作が生まれる小説家の世界、それが「昭和を生きた日本の家族の物語」として昇華していく。

340543_100x100_001  3人の主役の名演技が、作品を重厚にした。

 先ごろ紫綬褒章を受賞した役所広司は、大作家としての貫禄と亭主関白ぶりを見せながらも、母や娘との距離に戸惑いオロオロする。

 私より若い樹木希林が、呆けていく母親の凄さと無償の愛のいとおしさを自然体で見せ、老いの極致を表現した。

340543_100x100_003  父親や祖母をクールな目で見つめる三女役の宮崎あおいは、可憐な中学生から職業カメラマンに成長する10年を、しっかりと演じた。

340543_100x100_010  ほか、役所の姉妹を南果歩とキムラ緑子、宮崎の二人の姉をミムラと菊池亜希子などベテランと若手が脇を固める。

 初めて映画に出演した役所の妻役は、赤間真理子。舞台で活躍している彼女は無名塾出身だけに、同塾出身の役所と息が合う。

 脚本・監督の原田眞人は、「クライマーズ・ハイ」('08)など社会派作品で知られるが、原作者・井上の高校後輩だけに力がこもる。
 また撮影監督の芦澤明子は、映画界では数少ないカメラマン。光の捉え方が優しい。

340543_100x100_004  撮影は、井上が実際に家族と過ごした東京・世田谷の自宅や、伊豆・湯ヶ島の実家、軽井沢の別荘などで行われた。
 数々の名作が生まれた実際の書斎での執筆シーンは、さすがその雰囲気を捉えている。

 井上靖(1907~1991)、毎日新聞記者から芥川賞受賞(「闘牛」'50)を機に作家として独立。1976年には、文化勲章を受章している。
 彼の作品で映画化されたものは「氷壁」など32本、テレビは生誕100周年記念の大河ドラマ「風林火山」など11本にのぼる。

 映画を見た後、母を亡くした人は墓参りに出かけ、遠く離れて暮らす母には電話をかける。そんな気持になった作品である。 

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May 03, 2012

2093.裏切りのサーカス

24_007_640 日本の配給会社が付けた「裏切りのサーカス」というタイトルに、異論が多い。
 原題は原作と同じ「TINKER TAILOR SOLDIER SPY」。「鋳掛け屋」「仕立て屋」「兵隊」とは、イギリス秘密情報部MI6諜報部門〈サーカス〉最高幹部たちのコードネイムである。

341569_100x100_005 ミステリー映画ではあるが、ストーリーはそんなに複雑ではない。
 3人の幹部にもう一人、「プアマン(貧乏人)」を加えた4人の中にソ連の二重スパイ〈もぐら〉が潜んでいる。
 その裏切り者を、主人公である引退した老エージェント(スパイ)・スマイリーが探り出していくというお話。

341569_100x100_004  しかしストーリーの展開は単純ではない。いたるところに伏線が張られ、登場人物の相関関係が複雑である。
 原作を読んだ人や、イギリスの観客は馴染みがあるので、その謎解きに興奮するが、日本の観客には少々無理な部分もある。
 劇場では、相関図や背景を説明したパンフを入場者に配っていた。

341569_100x100_008  イギリス秘密情報部MI6を舞台にしたスパイ小説は、イアン・フレミングの「007」が有名だが、この映画の原作者ジョン・ル・カレも多くの作品を書いている。
 冴えない初老のスパイ、ジョージ・スマイリーを主人公にした「スマイリー3部作」は、70年代の東西冷戦下の情報戦が描かれる。

 フレミングやカレに共通するのは、二人ともMI6の幹部級のエージェントだった事である。
 だから作品には、実在の事件をモデルにしてフィクションを膨らませていったものが多い。

 例えばソ連KGBが、MI6に潜り込ませた〈モグラ〉キム・フィルビー事件。
 MI6の長官候補でもあった彼は、オクスフォードの学生時代からの二重スパイで、1963年ソ連の亡命、晩年にはレーニン勲章を受けている。

341569_100x100_002  今回の作品に話を戻そう。
 スパイ映画ではあるが、派手なアクションやガンファイト、カーチェイスなどはない。映像はあくまでクールでリアリティに溢れている。
 なかでも主役のスマイリーを演じたゲイリー・オールドマンの存在感が大きい。

 オールドマンは、イギリスの怪優とも評される悪役のベテラン。今回はプロフェショナルでクールな元スパイを淡々とした演技で見せ、今年のアカデミー賞主演男優賞にノミネイトされた。

341569_01_03_03 「もぐら」の疑いで追求を受けるMI6の現役幹部・仕立て屋に、「英国王のスピーチ」('10)のオスカー俳優コリン・ファース。
 同じく鋳掛け屋トビー・ジョーンズ(「ブッシュ」'08)、兵隊アラン・ハインズ(「ジョン・カーター」'12)、貧乏人デヴィッド・デンシック(「72時間」'08)とベテランが顔を並べる。

 監督は「ぼくのエリ」('10)で国際的な注目を浴びたトーマス・アルフレッドソン。スエーデン出身の異色の監督を抜擢した。

 ジョン・ル・カレ原作の映画化は、これで7作目。
 「寒い国から帰ったスパイ」('65)「ナイロビの蜂」('05)が印象に残っている。 

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May 01, 2012

2092.第78回東光展

205_001_640205_640_2  ゴーデンウイークの一日、上野公園に出かける。改装なった東京都美術館で、「東光展」が開催されているからだ。

 このブログでも毎年紹介しているが、この絵画展には高校の先輩と大学の後輩の作品が並ぶ。
 お二人とも東光会会員、女流画家である。

205_010_640  左の絵が先輩の阿久根律子さんの「蓮(夏の終わり)」。
 ここ2回は日本アルプスの風景画だったが、今回は「蓮」に戻った。

205_012_640  40代になってから油絵を描き始めた阿久根さんのライフワークが「蓮」。
 昨年秋には銀座で個展を開き、100号の大作から小品まで、およそ20点の「蓮の絵」を並べた。
 70代とは思えぬ力強い筆捌き、主婦画家としての腕が光る。

205_004_640205_005_640  後輩の木原容子さんの作品は「夏の終わり」。
 大学で美術を学び、高校で教えていた彼女は大病を患って退職、長い間筆を折っていたが8年間から再び描き始めた。

 以来、彼女の画材は「枯れたひまわり」。体調が回復するにつれ、明るいトーンになっていくのがうれしい。
 遠く広島で暮らす彼女のため、会場の様子を写真に撮って送っている。

205_018_640205_002_640  「光は東方より、輝かしい夜明け」を合言葉に、1932(昭和7)年に結成された美術団体も、今年で78回の公募展となる。
 文部科学大臣賞には、佐藤龍人さんの「画室」(右の写真)が選ばれた。

 「東光展」は今月10日(木)まで、上野公園内・東京都美術館で。 

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April 29, 2012

2091.オレンジと太陽

24_006_640_2 イギリス最大のスキャンダルといわれる「児童強制移住」。この真実を追い、彼らの家族との再開に務めたソーシャル・ケースワーカーの物語である。

 「児童強制移住」とは、19世紀に始まり1970年まで続いたイギリスの「福祉政策」のひとつで、孤児院や貧困家庭の子供たちを、オーストラリアやカナダ、ニュージランド、ローデシアなど英連邦各国に移住させ、修道院や教会などで成人になるまで育てたことを指す。

 移住させられた子供の数は13万人を数え、オーストラリアがもっと多い。
 役人は「オーストラリアに行けば、明るい太陽の下、オレンジを腹いっぱい食べられる」と、子供たちを誘った。

 しかし子供たちを待っていたのは、過酷な労働や虐待、なかにはレイプを受けたケースもあった。
 さらにイギリス時代の名前や出生などを示す書類は廃棄され、成長した彼らが自らのアイデンティティを求めるすべはなかった。

341717_01_01_03  成長した子供のひとりに偶然出会ったのが、映画の主人公であるマーガレット・ハンフリーズ。
 「母親探し」を頼まれて調査を進めるうちに、「児童強制移住」という信じられない実態を知り、家族を犠牲にしながらも英~豪を駆け回る。

 夫と共にトラストを設立、移住させられた子供たちの家族を粘り強く探し出し、数千の家族を再開させた彼女の手記が「からのゆりかご~大英帝国の迷い子たち」。
 宗教団体からの妨害や中傷を受けながらも、ひるまず行動する彼女に、3年前にはオーストラリアの首相が、2010年2月にはイギリスの首相が過去の政策の誤りを認め謝罪した。

 手記を映画化したのは、ジム・ローチ監督。このブログでも紹介した「ルート・アイリッシュ」の社会派監督ケン・ローチの息子である。
 テレビ・ドキュメンタリーやドラマのディレクターだった彼らしく、歴史に埋もれたままだった真実を声高ではなく、静かにかつ真摯に描いて感動を呼び起こす。

20120221006fl00006viewrsz150x  ケースワーカーの主人公には、「奇跡の海」('96)でアカデミー賞にもノミネイトされたエミリー・ワトソンが、移住させられた子供たちの現在をヒューゴ・ウイーヴィングとデイビット・ウエナム(いずれも「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズに出演)が演ずる。

 映画のキーワードは「Who Am I ?」。
 この作品を見て、私は日本における「中国孤児問題」お思い起こす。

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April 27, 2012

2090.湘南に義経の故地を訪ねる

120424_005_640120424_003_640  悲劇の英雄として今もファンが多い、平安末期の武将・九郎判官源義経。
 屋島・壇ノ浦の戦いで平家を打ち滅ぼしたが、なぜか兄・頼朝の怒りに触れて、奥州で自刃した。

 今月の「ひとまくウオーキング」は、江ノ島電鉄「腰越駅」をスタートして、「義経」湘南の故地を訪ねた。

120424_011_640120424_017_640  腰越駅の裏手の山、踏切を渡って参道の階段を上る。
 「龍護山医王院満福寺」、真言宗大覚寺派の寺である。
 創建の歴史は古く、寺伝によると744(天平16)年に聖武天皇の命を受けた行基が、疫病を除くために建立したという。

120424_012_640120424_014_640  この寺を有名にしたのは、義経の「腰越状」。
 義経は頼朝の勘気を解こうと鎌倉入りを願ったが、腰越で止められてしまう。
 彼は満福寺で「嘆願書」を書き、公文所別当の大江広元に託し京・吉野へと去るのである。

120424_016_640120424_015_640_2 寺には下書きの写しや、筆を執るための水を汲んだ「硯の池」、弁慶の腰掛石、義経が手を洗った井戸など、縁のものが残っている。

 ここ腰越の満福寺は、義経悲劇のスタートとなった地と言える。

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  悲劇の終点が再び腰越となる。

 奥州平泉で自刃した義経と弁慶の首は、藤原泰衡の手で関東に送られてきたが、頼朝は首であっても鎌倉入りを認めず、「首検分」は江ノ島を臨む腰越の浜で行われた。

 その後浜に打ち棄てられた首は境川の満ち潮に乗って逆流し、現在の藤沢・白旗付近に漂着したという。
 白旗には、村人がその首を洗い清めた井戸や、葬った首塚が残っている。

120424_039_640_2120424_042_640  地名の元となった「白旗神社」。
 もともとは相模一ノ宮の分霊を祀った祠だったが、義経の怨霊に苦しめられた頼朝が、源氏の旗印を名に義経を祭神として祀る神社を再建した。

 現在の社殿は、1835(天保6)年に造営された流権現造りで、江戸の匠の技による彫刻は美しい。
 毎年夏の例大祭では、「義経守り本尊・毘沙門天」と「義経・弁慶神輿」2基が町を勇壮に渡御する。

120424_054_640120424_047_640  白旗神社の別当寺は「白王山般若院荘厳寺」、古義真言宗の寺である。
 ここも創建は古く1184(元歴元)年、覚憲が建立したと伝えられている。

 運慶の作として伝えられる不動明王の前に、寺宝である義経の位牌がある。
 表には「白旗大明神 神儀」、裏には「清和天皇十代御末源義経公」と記されてる。

120424_056_640120424_065_640  「湘南に義経の故地を訪ねる」今回のウオーキング、最後の訪問地は「八王山摂取院常光寺」。
 鎌倉光明寺の末寺、浄土宗の寺である。

 この寺の本尊「阿弥陀如来」は、快慶の作と伝えられる。
 もともと鎌倉・扇ヶ谷の阿弥陀堂にあったもので、頼朝や北条氏が深く信仰した如来といわれる。

120424_070_640120424_072_640  寺の裏山に残る庚申塔のひとつに、「弁慶塚」と刻まれた石碑がある。
 ここはかって弁慶の御霊を祀った「八王子権現社」の跡で、義経の首と一緒に送られてきた弁慶の首塚があった。
 その首塚は、白旗神社の義経の塚と真っ直ぐに対面している。
 
120424_060_640 京で主従の契りを結んだ義経と弁慶、源平合戦はもちろん流亡の旅となった吉野~安宅関~奥州・平泉、そして湘南の地まで、二人はひとときも離れる事はなかった。
 首を切り取られた二人の胴体も、宮城・栗駒山に一緒に葬られているという。

 常光寺境内は藤沢でも珍しい森で、大きな樹木が多く残されている。
 神奈川の銘木のひとつといわれる、樹齢400年の「カヤの木」が大きく枝を広げていた。       

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April 25, 2012

2089.ジョン・カーター

24_005_640_3 ウォルト・ディズニー生誕110周年を記念して、3億5千万ドルの巨費を投じて製作したスペクタル巨編。

 莫大な宣伝費も投じたが興業収益は上がらず、このままいくと2億ドル(160億円)の映画史上最大の赤字になると、アメリカの新聞や週刊誌が伝えている。

 「なぜこの大作がコケてしまったのか」、そんな興味と子供の頃から原作にはなじんでいたので、映画館に足を運んだ。

341436_100x100_004  原作はエドガー・ライス・バローズの処女作「火星のプリンセス」。
 1912年に雑誌に掲載されたこの作品は、ヒロイン・ファンタジーの傑作、古典的SF小説のさきがけとして高く評価された。 

341436_100x100_003  作品は「火星シリーズ」として11巻も連載され、多くの映画人が映画化を試みたが、宇宙冒険活劇としてのスケールの大きさのため、なかなか実現しなかった。

 しかしこの物語に刺激を受けたジョージ・ルーカスやジェームズ・キャメロンは、「スター・ウオーズ」「アバター」という作品を生み出す。

341436_100x100_006  100年ぶり、初めて映画化された「ジョン・カーター」は、「火星のプリンス」の主人公の名前。
 瞬間移動でバルスーム(火星)に送られた元南軍の英雄・騎兵カーターが、三つ巴で争う火星の人々を救うというシンプルなストーリーである。

341436_100x100_002  主人公にティラー・キッチュ(「バトル・シップ」'12)、ヒロインのプリンセスにリン・コリンズ(「X-MEN ZERO」'09)とやや地味な役者を配し業界を驚かせたが、異形の人種にはサマンサ・モートンやウイレム・デフォーなどアカデミー賞にもノミネイトされたスターが、モーション・キャプチャーで出演している。

341436_100x100_005  ディズニーがこの作品で「賭」に出たのが、実写映画は始めてというアンドリュー・スタントンの監督起用だろう。

 スタントンは、子会社ピクサーの著名なクリエイターで、プロデューサー・脚本家・監督として次々と大ヒット作品を送り出してきた。

 監督した「ファイティング・ニモ」('03)「ウオーリー」('08)、製作総指揮の「Mr.インクレディブル」('04)「レミーのおいしいレストラン」('07)、脚本の「トイストーリー3」('09)は、いずれもアカデミー賞アニメーション作品賞などを受賞している。
 しかし、今回の作品の評価はどうだっただろうか。

341436_100x100_001   ある評論家は、「ジョン・カーター」は「グラディエーター」「タイタンの闘い」「スター・ウオーズ」「アバター」のごった煮になってしまった、という。
 ユタ州の砂漠でロケした現実離れした実写風景と、リアルなCGの組み合わせは素晴らしいが、所詮既に過去の映画で見てしまった風景に過ぎない。

 原作者エドガー・ライス・バローズは、「ターザン」の生みの親でもある。若い頃楽しんだ「ターザン映画」を、もう一度見てみたい。

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April 23, 2012

2088.第89回春陽展

120420_001_640120420_002_640 友人から、今年も作品が入選したとのメールが届いたので、六本木の国立新美術館に出かけた。
 第89回春陽展、美術館の2階と3階の40室に展示されている大絵画展である。

120420_024_640 会場の入り口に掲示されている趣意書によれば、展覧会を主宰する春陽会は、日本でも歴史ある芸術団体のひとつで、1922(大正11)年に結成されている。

 創立当時のメンバーは、岸田劉生、中川一成、梅原龍三郎、木村荘八、小杉放庵、森田恒友ら日本の近代絵画を支えてきた錚々たる画家たちで、現在は会員・会友700人を超える組織だという。

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 友人の作品は「されど希望を打ち鳴らせ(Ⅱ)」と題する油彩・アクリル。
 東北出身の彼が、被災した友人や親戚へのメッセージを、絵に託したようだ

 リタイアした60代から本格的に絵を学んだ彼、70代半ばとは思えぬ力強いタッチの作品である。

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 今回の展覧会では、左から「小さな願い」(江口美幸)「夜行性の庭」(川野美華)「KAWARA(1)」(沢修一)の3点が、春陽会賞を受賞している。

 「春陽展」東京会場は、今月30日まで六本木・国立新美術館で。そのあと名古屋~大阪と巡回する。観覧料は70歳以上は無料。   

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April 21, 2012

2087.ドライヴ

24_003_640  ロンドン在住の詩人で評論家のジェイムズ・サリスがロサンゼルスを舞台に書いたクライム小説の映画化。
 監督がデンマーク出身のニコラス・ウインディング・レブンだけに、ハリウッド作品にしては一味違う。
 昨年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したのも、そんな作風からか。

341123_100x100_005_2  サスペンス+アクション+バオレンス+ノワール+ラブストーリー映画。クールでスタイリッシュな撮り方だが、狂気も漂う。
 残酷・絶望感・悲壮感・一匹狼・・・、北野映画の世界に通ずる。

341123_100x100_007  昼は映画のスタントマン、夜は犯罪者の「逃し屋」、二つの顔を持つ孤独の「ドライバー」が主人公。
 同じアパートに住む子持ちの人妻にひと目惚れ、ムショ帰りの旦那を助けるためマフィア相手の狂気の世界にのめりこんで行くお話。

341123_100x100_004_2  ドライバーの役は、カナダ゙出身の売れっ子ライアン・ゴズリング(「スーパー・チューズデー」'12)。「ハーフネルソン」('06)でアカデミー賞にもノミネイトされた彼が、寡黙で狂気を漂わす男を見せる。

 惚れた相手は、「17歳の肖像」('09)で同じくアカデミー賞にノミネイトされたイギリスの女優キャリー・マリガン。粗暴な夫と優しい隣人の間で揺れ動く。

341123_100x100_006_2  ひと癖もふた癖もあるマフィアの役は、怪優ロン・ベールマン(「ヘルボーイ」'00)とアルバート・ブルックス(「ブロードキャスト・ニュース」'87)。
 冷酷な殺しを、次々と見せてくれる。

 名前もないドライバーが主人公だから、もちろんカーチェイスのシーンは多い。
 「フォードマスタングGT」「クライスラー300」「シボレーノバ」など、車好きには応えられない名車が疾走する。

 静謐さとバイオレンス、計算し尽くされた映像美とシンセサイザーのサウンドが、見る人の心を揺さぶる。
 過激な暴力描写でR15+。

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April 19, 2012

2086.桜・浜離宮

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 昨年は深川界隈、一昨年は千鳥が淵の桜を紹介したので、今年は浜離宮にした。

 庭園は、今週からゴールデンウイーク過ぎまで、「花と緑の集い」という事で中央区民は入場無料、そこで観光客を避け開園と同時に散策した。 

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 左から「白雲」「開山」「駿河台均等」「一葉」。
 いわゆる園芸種サトザクラの仲間である。

 お花見の定番「ソメイヨシノ」は、明治に入って育成された桜。ヤマザクラの一種「オオシマザクラ」と「エドヒガン」を掛け合わせて、染井の植木職人たちが開発した。
 「ヨシノサクラ」として売り出されたが、奈良・吉野の山桜と混同しないよう「ソメイ」の名をかぶせた。

120417_075_640120417_077_640   江戸時代、庶民を楽しませた飛鳥山の桜は将軍・吉宗が植えさせたヤマザクラだったが、将軍家の庭園である「浜御殿」には、様々な品種改良や突然変異で生まれたサトザクラが多い。
 これから咲き始める花弁が緑色の「御衣黄」(写真左)や「ウコン」(右)も、そんな仲間だ。

120417_011_640120417_037_640   因みに「日本三大桜」として天然記念物にも指定されている「淡墨桜(岐阜)」「神代桜(山梨)」は、エドヒガンの1500年・2000年の老木。
 福島の「三春滝桜」は、樹齢1000年のベニシダレである。

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 「浜離宮恩賜庭園」の桜は、あと10日ぐらいは楽しめる。   

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April 17, 2012

2085.アーチスト

24_002_640  「作品賞」「監督賞」「主演男優賞」「衣裳デザイン賞」「作曲賞」5部門の受賞と、今年のアカデミー賞の話題を一手に集めた作品。
 サイレント時代のモノクロ映画から抜け出してきたような登場人物が、現代のサイレント・モノクロ映画でノスタルジックに演じる。

341445_100x100_009_2 フランス映画界のスタッフが、1930年前後のハリウッドを舞台に、主役のフランス人俳優二人以外はアメリカの俳優を配して、ハリウッドのスタジオで撮った作品である。

 ストーリーはシンプルなメロドラマ。
 サイレント時代の大スターの栄光と挫折、愛と復活の物語が、モノクロの映像でサイレントに綴られていく。
 それが、CG・3D時代の映画界に新鮮さと感動を生み出したのだ。

341445_100x100_003  といっても、撮影は現代の最高技術を駆使する。
 カラーで撮影された映像は、デジタル技術でモノクロにコンバートされる。
 その事で、独特の「グレー」が生まれる。

 そのグレーと白・黒によって、人生の輝きと失意を表現する「モノクロ」のテクニック。それに加えて、表情とアクションで全てを語る「サイレント」のテクニック。
 計算されつくした演出である。

341445_100x100_007 監督はCMディレクター出身のミシェル・アザナヴィシウス。
 往年の大スター、ダグラス・フェアバンクスやルドルフ・バレンティノ、グレタ・ガルボらが出演しているサイレント映画を、徹底的にリサーチして脚本を練った。
 監督は、いくつかのシーンで彼らへのオマージュを捧げる。

341445_100x100_002341445_100x100_004  二人の主役、サイレント時代の大スターにフランスのコメディ俳優で作家・監督でもあるジャン・デュジャルダン、彼に見出されトーキー時代に輝く新進女優にベレニス・ベジョが扮する。

 二人は、アザナヴィシウス監督のヒット作品「OSS177私を愛したカフォオーレ」('06)にも出演した仲間。そしてベジョは監督夫人でもある。

341445_100x100_008 さらに脇を固めるのが、執事兼運転手役のジェームズ・クロムウエル(「ブッシュ」'08)や映画プロデューサー役のジョン・グッドマン(「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」'11)など、ハリウッドのベテラン俳優たちである。

 そしてもう一人、いやもう一匹ジャックラッセルテリアのアーギが準主役級で登場、名演技を見せる。
 彼(彼女?)はこの演技で、栄えある第1回“金の首輪”賞・最優秀俳優犬賞を受賞した。

 フィナーレを飾る主役二人の華麗なタップダンス、ジーン・ケリーを彷彿させる2分間のダンスは、4ヶ月の特訓によって生まれたという。

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April 15, 2012

2084.ヘルプ

24_001_640  ドリームワークスが丁寧に製作した佳作。
 シリアスな人種差別問題を扱いながら、決して声高でなく軽やかにユーモラスに描く。ハリウッドの懐の深さを感じさせる作品である。。

340956_100x100_002  全米の中でも特に黒人差別が色濃かった、ミシシッピー州ジャクソン出身のキャスリン・スケットが書いた処女小説「THE HELP」が原作。
  9.11でショックを受け5年かけて書いたが、どこの出版社も見向きしなかった。

 同郷の友人で映画監督のテイト・テイラーが、原稿を読んで感動し映画化を企画、ペンギン・ブックスにかけ合って出版したら大当たり、NYタイムズの書籍ランキング103週連続ランクインのベストセラーとなった。

  340956_100x100_001  映画の方も大当たりである。観客の口コミで広がり、アメリカでは3週連続No1の大ヒットとなった。

 ゴールデングローブ賞5部門(作品賞など)、アカデミー賞に3人がノミネイトされ、ひとりが両方の助演女優賞を受賞している。

340956_100x100_003_2 「黒人差別」が当たり前だった、1960年代前半のミシシッピーが舞台。
 「ヘルプ」と呼ばれる上流白人家庭の黒人メイドたちと、その差別の実態を取材する大学新卒の女性との交流の物語である。

 きっかけは、「差別トイレ」。
 家族用のトイレを使って解雇された「ヘルプ」を、ハリウッドで最も面白い女優といわれるオクタヴィア・スペンサー演じてオスカーを手にした。
 最初に真実を語り始めた「ヘルプ」が、アカデミー賞主演女優賞にノミネイトされたヴィオラ・ディビス(「ダウト~あるカトリック学校」'07でもノミナイト)。
 上流白人家庭出身ながら、差別問題に取り組む若い女性を、エマ・ストーン(「ラブ・アゲン」'11)が演ずる。

340956_100x100_004  バリバリの差別主義者で社交界のボス、「ヘルプ」をクビにした主婦役ブライス・ダラス・ハワード(「ヒアアフター」'10)の憎憎しい演技が上手い。
 そしてもう一人、美人だが鈍感な白人貧困層出身の主婦ジェシカ・チャスティン(「ツリー・オブ・ライフ」'11でアカデミー賞ノミネイト)が面白い。

340956_100x100_005_2 子守は一切「ヘルプ」に任しておきながら、「子供を守るため」に「ヘルプ専用」のトイレ設置を義務付けようと州政府に働きかけるセレブ・ママたち。
 「子供を守る」というスローガンが、いま日本のどこかでも聞こえるだけに、この「差別意識」が空恐ろしい。

 ミシシッピー出身の白人(原作・監督・脚本・製作)たちが、まだ差別意識が強く残るミシシッピーでオールロケで製作したのは偉い。

 日本の配給会社が付けた副題、「心がつなぐストーリー」は蛇足。 

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April 13, 2012

2083.「幻のモダニスト堀野正雄」写真展

204_640204_008_640_3  ポスターの写真は「風」(1936年)、飛行機に乗ろうとする女性のスナップ。
 左下は、右の写真のカット。「女学生の行進、ガスマスク行進、東京」のタイトルが付いた昭和10年代に撮った写真である。

 幻のモダニストと呼ばれる写真家・堀野正雄(1907~1998)の写真展が、東京都写真美術館で開催されている。

 堀野は日本の近代写真史を語る上では、欠かす事の出来ない写真家でありながら、これまではその活動軌跡はあまり知られていなかった。

204_009_640  戦前に軍の嘱託とし、朝鮮・旧満州・中国などで生活や風俗の報道写真を撮ってきたが、敗戦で全てのネガを現地で焼却して引き揚げ、 以後写真界から姿を消したためである。

 今回の写真展では、彼の昭和初期の写真集や「主婦の友」や「婦人画報」に発表した報道写真、遺族が保管してきた未公開のオリジナル・プリントなど200点が展示されている。

204_003_640 右の写真は「ポーズ(崔承喜)」(1931年)、堀野の初期の頃の作品である。
 東京高等工業(現在の東工大)で学んだ彼は、学生の頃から築地小劇場を中心とした舞台写真やポートレイトを撮ってきた。

204_005_640 左の「横山大観」(1933年)もそのひとつで、会場には長谷川伸や松方幸次郎、舞台姿の夏川静江や石井獏・石井栄子の若い頃の写真が並ぶ。

 彼がプロのカメラマンとして社会の注目を浴びたのが、写真集「カメラ・眼×鉄・構成」(1932年刊)である。

Tky201203160323  「優秀船に関する研究」「鉄橋に関する研究」などと題された作品は、関東大震災の復興期にあって勃興する機械文明を、客船や鉄橋・ガスタンクなどメカニックな構造物の持つ美しさで表現している。

 また雑誌に発表した「大東京の性格」(1931年・中央公論)、「首都貫流~隅田川アルバム」(1931年・犯罪科学)は、ドキュメンタリー写真の先駆といえる。

204_001_640  近代日本の新興写真の旗手、日本写真史に重要な地位を占める堀野の全貌を明らかにする初めての写真展であると同時に、今注目されるモダニズムの感覚を十二分に堪能できる展覧会だった。

 「幻のモダニスト・写真家堀野正雄の世界」展は、5月6日まで東京都写真美術館で。観覧料は700円。 

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April 11, 2012

2082.ルート・アイリッシュ

24_640 世界で最も危険な道路「ルート・アイリッシュ」。イラクのバクダッド空港から中心部のグリーンゾーンを結ぶ12キロの道は、'03米軍イラク侵攻以降テロ攻撃の第一目標とされた。

Img_pn01  この道路で親友を殺されたイギリスの若者が、死の謎に迫る物語である。

 主人公も親友も、元イギリス兵士のコントラクターである。
 つまり民間の軍事請負会社と契約した傭兵なのだ。

 貧しく学歴のない若者たちは高給に釣られて、死と隣り合わせの危険な仕事に就く。その数はイラクでのべ16万人といわれる。

Img_intro04  イギリスの社会派映画監督の巨匠ケン・ローチが、コンビを組む脚本家のポール・ラヴァーティと綿密なリサーチを行って脚本を書いた。
 5年前アメリカの民間軍事会社のコントラクターたちが、バクダッドで市民17名を射殺した事件がきっかけだったという。

 ケン・ローチは今年75歳になる。労働者の家庭に生まれ、兵役後にオクスフォード大学で学ぶ。
 BBCでテレビドラマのディレクターを経験した後、映画界に入る。

 彼の監督作品は、一貫して労働者階級や移民たちの日常をリアルに描いてきた。
 「レイニング・ストーンズ」('93)「大地と自由」('95)など製作した作品は、毎回カンヌ国際映画祭パルム・ドームにノミネイト、「麦の穂をゆらす風」('06)で受賞している。

20120126005fl00005viewrsz150x 「ルート・アイリッシュ」は、彼にとっては珍しい戦争映画である。
 出演者は、敵役のジョフ・ベル(「戦火の馬」'11)以外みな無名の俳優たちである。
 彼らをベテランのスタッフが支え、リアルな戦闘シーンや骨太なストーリーを展開した。

 「イラク戦争」を描いた映画は、アカデミー賞を受賞した「ハートロッカー」('08)をはじめ「告発のとき」('07)「グリーン・ゾーン」('10)など、話題作が多い。
 しかしケン・ローチは、それがアメリカ側の視点から描かれている事に、不満を抱いていた。

 彼は、イラク戦争の「民営化」という「軍事ビジネス」の闇を炙り出すことで、「イラクの民衆に大きな傷痕を残した」戦争の残虐さを明らかにしてく。

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April 09, 2012

2081.スーパー・チューズデー

341570_100x100_004  「スーパー・チューズデー」とは、4年に一度のアメリカ大統領「党候補」選びで、多くの洲が予備選や党員集会を開く日のこと。
 2月~3月の火曜日に開催されるので、こ呼ばれる。
 そしてこの日の結果が、候補決定の大きな鍵となる。

 今年は、3月6日がスーパー・チューズデーだったが、オバマ大統領の対立候補を選ぶ共和党の予備選は、まだ決着していない。

341570_100x100_002  映画の原作は「Farragut North」。
 2004年の民主党予備選挙で、元ヴァーモント州知事のハワード・ディーンの選挙スタッフだった、ボー・ウイリモンが書いた戯曲である。

 予備選の裏側を、スキャンダラス且つスリリングに描いたこの戯曲を読んだアメリカの人気俳優ヨージ・クルーニーは、自ら脚色して映画化する。
 タイトルは「The Ides of March」。古代ローマ歴3月15日、カエサルが暗殺された日を意味する。
 まさに政敵を倒す「スーパー・チューズデー」(邦題)である。

341570_100x100_001  映画の主人公は、民主党進歩派候補(ジョージ・クルーニー)事務所の戦略担当の若きコンサルタント(ライアン・ゴズリング)。

341570_100x100_008  彼に絡むのが、上司であるベテラン選挙参謀(フリップ・シーモア)やスタッフのインターン女子学生(エバン・レイチェル・ウッド)、敵陣営の選挙参謀(ポール・ジァマッティ)、勝敗の鍵を握る大物政治家(ジェフリー・ライト)、スクープを追う女性記者(マリサ・トメイ)の面々。

 彼らによって描かれるのは、理想の欠片もない選挙参謀たちの実態や権謀術数の駆け引き、勝つためには手段の選ばぬモラルなき世界である。

341570_100x100_007_2 「コンフェッション」('02)「グッドナイト&グッドラック」('05)「かけひきは、恋のはじまり」('08)と続いて、クルーニーにとっては4本目の監督作品となる。
 そしてこの作品が、彼の政治信条を最もストレートに表したものといえる。
 だから、政治サスペンスをリアルに描きながらも、優れたエンタ-ティンメントに仕上がっている。

 映画は、あくまでもフィクションだとうたう。
 しかし'04年のジョン・ケリーに敗れたディーン陣営のごたごた、ブッシュ対ケリーの大統領選、'08年のオバマ対ヒラリーの民主党予備選、さらにはクリントン大統領のインターン女子学生との性的スキャンダルなど、「事実」がフィクションンとして盛り込まれているのが興味深い。

 これから秋まで、アメリカでは「勝者なき闘い」が続く。

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April 07, 2012

2080.築地・佃、文明開化の跡を巡る

120406_640 昨年の大震災で延期した「ひとまく・散策&グルメの会」のイベント、好天に恵まれた昨日開催する事が出来た。

 この企画は、「ひとまく会」世話人から指名を受け、私が準備した「築地・佃、文明開化の跡を巡る。グルメはスペイン料理フルコース」。
 中央区商店街連合会が発行している「街歩きマップ」をガイドブックに、のべ5時間の散策&グルメを楽しんだ。

110101_047_640110331_052_640  スタートは「築地本願寺」。
 明暦の大火で焼失した京都西本願寺の別院が、日本橋の横山町から移って来たのが1679(延宝7)年。
 門徒衆の佃の漁師たちが、江戸湾の土砂で築いた「築地」の上に建つ。
 
 現在の古代インド様式の建物は、関東大震災後に建てられたもの。境内には琳派の画家・酒井抱一の墓や、赤穂浪士・間新六の供養塔がある。

110101_040_640110331_038_640  本願寺裏の築地川を埋め立てた公園を抜けると、明石町に入る。

 「聖路加国際病院」があるこの地は、赤穂藩浅野家の上屋敷跡。
 明治の初め「外国人居留地」になり、ここから「文明開化」が始まった。

110331_025_640110331_031_640_2  最初の「アメリカ公使館」もここに設けられ、来日した宣教師たちは教会や学校をつくった。
 「明治学院」「青山学院」「立教女学院」「暁星学園」など、周辺には発祥の地を記す記念碑が多い。

110331_027_640_2  道を隔てて、豊前中津藩奥平家の中屋敷跡。
 中津藩医・前野良沢は杉田玄白と刑死人の腑分けを行い、この屋敷で「解体新書」を書いた。
 また福沢諭吉は、1858(安政5)年にここで蘭学塾を開いた。それが「慶応義塾大学」へと発展する。

110331_048_640110331_049_640  聖路加タワー近く、「タイムドーム明石」で常設の郷土資料を見学。
 これから訪ねる佃・石川島の歴史を予習する。

 満開の桜の下を抜けて佃大橋へ、橋を歩いて隅田川を佃に。

110331_005_640110331_006_640_2  「佃島」は、もともと江戸湊の河口にあった中洲。
 徳川家康の関東下向に従って江戸にやってきた、摂津国佃村33人の漁師が築いた。

 島の名物が、村の名をとった「佃煮」。
 漁師たちは、白魚など江戸前の魚を獲って将軍家に献上した。その残りを醤油で煮詰めたのが「佃煮」である。
 現在も3軒の店が、名物を作っている。

0808011_041_640110331_008_640_3  佃の「住吉神社」は、摂津国から分社した漁業の神様。3年に一度の本祭りは、江戸の頃から続いている。
 今年の夏は、昨年の大震災で中止した本祭りが再開される。
 新しく造られた「八角神輿」、担ぎ手の一人として今から楽しみにしている。

120405_043_640110331_015_640   佃島の隣が「石川島」。
  火付け盗賊改め方・鬼の平蔵が設けた、人足寄場として知られる。
 江戸末期には水戸藩の洋式造船所となり、日本最初の軍艦「旭日丸」が建造された。

 明治になると民間に払い下げられ、「石川島重工」となる。
 そして現在、ここは「大川端リバーシティ」と呼ばれる高層マンション群、4000世帯1万人が住む街となった。

120406_008_640110331_003_640 夕暮れ、風も冷たくなったのでグルメの会場「スペインクラブ」へ。
 月島にある倉庫の一階を改造したレストランは、200席もある都内有数のスペイン料理店として知られる。

 オリーブ、イベリコ豚、スペイン風オムレツ、サーモンのフリットそしてシェフ特製のパエリアを肴に、スペイン産の赤ワインを楽しんだ。

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 「築地・佃、文明開化の跡を巡る」。
 昨日の「散策&グルメの会」は、参加者22名。満開の桜のもと、歩いた距離は、およそ5キロだった。

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April 05, 2012

2079.マンク・破戒僧

T0012726p94x94 18世紀の「暗黒文学」の傑作「マンク(修道士)」。
 禁欲生活から情欲の世界に身を落とした破戒僧の姿を描いたゴシック小説だが、その残虐性やエロティシズム、カトリックに対する背徳の描写が批判され、長い間禁書とされた。

41kd1m6ptel__sl160__2 作者は、イギリスの下院議員も務めた詩人・小説家マシュー・G・ルイス。
 といっても執筆したのは、まだカレッジの学生だった19歳の時。
 出版をめぐって、ヨーロッパ文学界では賛否両論の渦がまいたが、サドやホフマンなど異貌の作家たちは作品を高く評価した。

341889_100x100_006  映画化は始めてである。
 「ハリー、見知らぬ友人」('00)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールにもノミネイトされた、ドイツ出身のドミニク・モルが脚本を書いて監督した。

341889_100x100_002_2  主役である破戒僧を演じたのは、フランスの俳優ヴァンサン・カッセル。
 「ジャック・メスリーヌ」('08)で東京国際映画祭主演男優賞を受賞、一昨年には「ブラック・スワン」にも出演した売れっ子である。

341889_100x100_004 物語は、スペイン・マドリッド郊外にある修道院の門前に棄てられた男の赤子から始まる。
 修道士に育てられた子供は、やがて清貧なマンクとして信者たちの尊敬を集めるようになる。

341889_100x100_005  しかし修道士に化けた黒魔術の女に誘惑され、戒律を破る。悪魔に身を委ねた破戒僧は、実の妹を犯し母親を殺す・・・・。

 明るい太陽に照らされた「真昼」の光景と、暗く陰鬱な「夜」の世界の対比で、精神と肉体の乖離とい古典的な問いかけをスリリングに描く。

341889_100x100_003  しかし、原作を読んだ時受けた様な、強烈なメーセージ性は薄い。
 映画では、自分の出生の秘密を捜し求め、汚れなき乙女(実は妹)に恋焦がれる「男」としてのモンクの悲哀が主題となる。

 黒魔術の女にベルギーの女優デボラ・フランソワ(「譜めくりの女」'06)。妹役は、フランスの新進女優ジョセフィーヌ・ジャビ。

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April 03, 2012

2078.マリリン・7日間の恋

341417_100x100_005_3  1956年のロンドン・ヒースロー空港、タラップを降りてきたのは「世界のセックス・シンボル」マリリン・モンローと大作家アーサー・ミラーの新婚夫妻。
 多くの報道陣が見守る中、イギリス演劇界の大御所ローレンス・オリヴィエと妻で大女優のヴィヴィアン・リーが二人を迎える。

2_012_640_2   マリリンがプロデュースしてオリヴィエが監督、二人が共演する「王子と踊り子」の撮影のための来英だった。

 しかし、パインウッドのスタジオでの撮影は難行する。
 オリヴィエの伝統主義的な演出と、マリリンの「メソッド・アクティブ」にもとづく演技がかみ合わないのだ。

 消耗する二人、なかでもマリリンは精神不安定になり薬に頼る。さらに、仕事が出来ないとミラーは帰国してしまう。

2_011_640  この撮影現場でサード助監督だったコロン・クラークが、自分だけの胸に秘めていた実話を綴った回顧録が原作である。

 一週間の撮影期間中、マリリンが何を求め何に苦しんだのか、そして安らぎを求めた23歳の映画青年との、秘められた恋が語られていく。

341417_100x100_002_2  マリリンに扮したミシェル・ウイリアムズの演技が光る。
 今回もオスカーは逃したが、「ブロークバック・マウンテン」('05)など3回アカデミー賞にノミネイトされた演技派女優である。
 「まさに神業!これまでで最高のマリリン・モンローだ」(NYポスト紙)と多くの新聞が賞賛した。

341417_100x100_011341417_100x100_012  共演陣も、イギリスの演技派が顔を並べる。

 ローレンス・オリヴィエ役は、「オリヴィエの再来」と言われるケネス・プラナー(「ヘンリー五世」'89など4回アカデミー賞ノミネイト)が演ずる。

 さらに往年の名女優シビル・ソーンダイクをオスカー女優のジュディ・デンチ、ヴィヴィアン・リーはジュリア・オーモンド。
 「ハリー・ポッターシリーズ」のエマ・ワトソンは、撮影所の衣裳係。

341417_100x100_010  そしてこの作品の語り部、マリリンが「初恋の人」となったサード助監督は、エディ・レッドメイン(「ブーリン家の姉妹」'08)である。

 マリリン・モンローは、私たちの世代にとって憧れのスターだった。
 「イブの総て」('51)にはじまり、「ノックは無用」('52)「ナイヤガラ」('53)「紳士は金髪がお好き」('53)「ショウほど素敵な商売はない」(54)「七年目の浮気」('55)「バスストップ」(56)、「王子と踊り子」('57)はもちろん、「お熱いのがお好き」('59)「荒馬と女」('61)と、彼女が主演した作品はほとんど見ている。

Image  なかでも最も好きな映画が、ロバート・ミッチャムと共演した「帰らざる河」('54)である。

 10年前に、この作品をロケしたカナディアン・ロッキーを訪ねた。
 コロンビアの氷河から流れてくるボー河のほとりに立つと、激流を下る筏の上のマリリンが幻影として目の前に浮かんだ。

 彼女が不慮の死を遂げた年、私は大学を卒業した。
 「世紀のスター」マリリン・モンロー、わが青春である。 

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April 01, 2012

2077.「初つばめ」・深川散策(2)

090_640  藤沢周平の短編集「初つばめ」の付録、「江戸下町の散歩マップ」に沿って、さらに足を運ぼう。
100904_122_640_2  大川の左岸「萬年橋」からのスタートである。

 「萬年橋」は、小名木川に架かる最初の橋。
 1590(天正18)年、関東平野の米や野菜、行徳の塩などを運ぶために、中川まで幕府の手で開削された。
 工事を指揮したのが小名木四郎兵衛、運河の名は彼の功績を残すために付けられた。

084_640075_640   橋の袂には、松尾芭蕉の「庵跡」が記念館として残されており、大川に向っては芭蕉翁が鎮座している。
 「古池や 蛙とびこむ 水の音」は、ここで詠まれた。
 1689(元禄2)年、芭蕉はこの庵から「奥の細道」へと旅立った。

078_640_2  小名木川を渡って清澄に向う。
 道に沿って「北の湖部屋」や「大獄部屋」「錣山部屋」「尾車部屋」など、相撲部屋が散見する。

110611_001_640  そして、下総国関宿藩久世大和守の広大な下屋敷跡に着く。
 以前は豪商・紀伊国屋文左衛門の屋敷、明治維新後は三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎が買収して庭園にした。
 回遊式林泉庭園は、現在都の名勝「清澄庭園」となった。

026_640033_640  清澄庭園と道をはさんで「霊巌寺」がある。
 ここには、「寛政の改革」で知られる老中・松平定信の墓がある。
 
 将軍吉宗の孫として生まれたが、田沼意次に疎まれて陸奥・白河藩松平家を継いだ。
 この地域が、「清澄白河」と呼ばれる由縁である。

024_640_2041_640   隣には「深川江戸資料館」がある。
 江戸時代末期の佐賀町の町屋が、実物大で再現されている。
 表店から裏長屋、白壁の土蔵、船宿など町人の暮らしをここで体験。

110407_062_640 020_640  その佐賀町の前を流れるのが「仙台堀」。
 大川沿いにあった仙台藩・伊達家の蔵屋敷に、物資を運び入れたことに由来している。

 「おのぶの娘がさらわれたという橋」(「夜の道」)は相生橋。
 仙台堀に流れ込む亀堀に架かっていた橋だが、今はもう堀も埋め立てられ公園になった。

014_640_2009_640 海辺橋を渡って、清澄通りを門前仲町へ。
 永代橋通りとの交差点あたりに、昔は「一の鳥居」があった。永代寺・富岡八幡宮への入り口で、この左右が門前町である。

 藤沢周平短編集のタイトルとなった「初つばめ」の舞台、松村町の長屋も一の鳥居の近くにある。
 付近をぶらぶら歩いていたら、「深川東京モダン館」にぶつかった。「旧東京市深川食堂」、国の有形文化財建造物である。

110407_029_640080330_047_640  門前仲町周辺には運河が多い。今も残るのが大島川・大横川・古石場川・平久川、桜の季節にはここで和船の川遊びが楽しめる。

 江戸のころ、参詣客は大川を渡って、永代寺の門前に直接舟を付けたという。

008_640005_640  参詣客のもうひとつの目的は、茶屋や小料理屋での遊びでもあった。

 石島橋の「火ノ見櫓の東にひろがる町が、俗に櫓下と呼ぶ吉原を模した遊所」( 「時雨みち」)。
 「江戸辰巳芸者」の発祥の地でもある。
 震災と戦災で深川は壊滅したが、遊所の面影はスナックや居酒屋として残っている。

20120101_002_640  「チャンネル銀河」の人気番組、「松平定知の藤沢周平をよむ2」に登場する深川の町。
 散策マップに沿って、「江戸東京博物館」から「富岡八幡宮」まで歩いた。

 何度も訪れている界隈だが、庶民の哀歓を描いた短編を読みながらの散策は、また新しい深川を発見する。

 藤沢周平著「初つばめ」(実業の日本社文庫) 定価(本体619円+税)

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March 31, 2012

2076.「初つばめ」・深川散策

_640 「チャンネル銀河」の社長・副社長を退任した昔の仕事仲間と、日本橋の蕎麦屋で杯を交わした。
 その折頂いたのが左の文庫本。「チャンネル銀河」の人気番組、「松平定知の藤沢周平をよむ2」が選んだ、庶民の哀歓を描く名作短編集である。

110722_043_640  本には、物語の舞台を巡る散策マップが付いている。
 その舞台・深川は私の隣町、そこでマップに沿って歩いてみた。
 スタートは、両国駅前「江戸東京博物館」から。

062_640060_640  「おもんが重吉に送ってもらい橋のたもとで手を握られた」(「遅いしあわせ」)のは、「両国橋(大橋)」。

 隅田川では2番目に架けられたこの橋は、明暦の大火がきっかけ。
 「武蔵」と「下総」両国を結ぶので両国橋と呼ばれた。

110722_073_640 068_640  その「火除け地」の東広小路にあるのが、「回向院」。
 明暦の大火で亡くなった人々の霊を弔うために、創建された。

 天保の頃から勧進相撲の定場所がここで興業され、現在の「両国国技館」に引き継がれる。

054_640057_640_2    回向院のすぐ近く、相撲部屋が並ぶ一角にあるのが「本所松阪町公園」。
 赤穂四十七士討ち入りでお馴染みの、吉良上野介の屋敷跡。
 なまこ壁や「吉良首洗い井戸」が残る。

 直心影流の剣客、男谷精一郎の屋敷跡もすぐ近くにある。勝海舟が生まれたのも、この屋敷である。現在は両国公園。

052_640_2  清澄通りを南に下ると、竪川「二ツ目橋」に。首都高小松川線に覆われた先に見えるのが「三ツ目橋」。
 藤沢周平の「驟り雨(はしりあめ)」で、「嘉吉と母子が渡った橋」である。

 「竪川」は、利根川と江戸を結ぶ運河として17世紀に掘削された。本所を竪(たて)、東西に貫くことからその名がついた。
 橋の右「旧徳右衛門町」は、「おしなが作次郎と引っ越すことにした町」(「消息」)。

050_640_2  さらに南へ。都営新宿線と大江戸線が交差する駅「森下」につく。
 ここは「おすぎの恋人幸吉が住む町」(「夜の道」)。

 徳川譜代大名・庄内藩酒井家の下屋敷があり、深い森に囲まれていたことから、「森下」の名がついた。

110407_058_640  大川(隅田川)の河口だったこの一帯は、葦の生い茂る三角洲だった。
 江戸に入って、ここを干拓したのが摂津生まれの深川八郎右衛門、家康の命により以後「深川」と呼ばれようになる。

                            (続く)  

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March 29, 2012

2075.おとなのけんか

203_028_640  一見折り目正しい紳士淑女の、うわべに隠されたそれぞれの偽善を暴く、ヤスミナ・レサのコメディ戯曲「God of Crnage」(修羅場の神様?)。

 パリ・ロンドン・NYブロードウェイで大ヒット、オリヴィエ賞やトニー賞を受賞した舞台劇を、巨匠ロマン・ポランスキーが映画化した。

 舞台劇はノンストップ・リアルタイムの展開で90分。
 巨匠はさらにテンポアップして、映画は79分のマシンガン・トーク劇にした。

341534_100x100_001 それもこの作品、ニューヨーク・ブルックリンのアパート一室を舞台に、2組の夫婦のトーク・バトルだけで描くのだから、演技派でないと務まらない。

 アカデミー賞に4回ノミネイトされ、「戦場のピアニスト」('02)でやっと監督賞を受賞したポランスキーだけに、4人の役者もアカデミー賞で並べた。

341534_100x100_004  作家を自認する妻と台所用品卸業を営むインテリ夫婦は、ジョディ・フォスター(「告発の行方」'88「羊たちの沈黙」'91でオスカー)とジョン・C・ライリー(「シカゴ」'02ノミネイト)。

341534_100x100_007  投資ブローカーの妻と企業弁護士のセレブ夫婦を、ケイト・ウインスレット(「愛を読む人」'08)とクリストフ・ヴァルツ(「イングロリアス・バスターズ」'09)のオスカー俳優という組み合わせ。

 こどもの喧嘩に親が出て、冷静に話し合う筈がエスカレート。
 「チクリ、チクリ」の会話が「グサリ、グサリ」となって収拾不能となっていく。
 それも、「夫婦×夫婦」が「男×男」「男×女」「女×女」の四つ巴のバトルなのだから、まるで「こどもの喧嘩」なのだ。

341534_100x100_006  それにしても、美女たちのマシンガン・毒舌が凄い。
 劇場内では度々爆笑が広がるが、中年以上の観客には思い当たる節が多いのだろう。

 舞台劇を観たポランスキーが、原作者のヤスミナ・レザと一緒に脚本を書いただけにノンストップ劇は痛烈なセリフで埋まる。

 もともとパリが舞台だったが、それをニューヨークに移してセリフは英語。
 アメリカを追われたポランスキーが、「戦場のピアニスト」のヨーロッパ・スタッフと組んだフランス・ドイツ・ポーランド合作映画というのも面白い。

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March 27, 2012

2074.マーガレット・サッチャー

2_010_640  ロンドンのある街角にあるコンビニ?、老婆が牛乳ワンパックを求める。生気のない顔、弱弱しい足取り・・・・。
 ショッキングな映像から物語は始まる。

341452_100x100_005  アパートメントを抜け出してきた老婆は、元イギリス首相マーガレット・サッチャー。
 86歳の認知症の彼女を演じたのが、実年齢62歳のメリル・ストリーブ。
 圧倒的な演技力で、今年のアカデミー賞主演女優賞を受賞した。
 同時にこの老いた姿を造ったマレーズ・ランガンも、メイキャップ賞を受賞している。

 現存するサッチャーが、8年前に亡くなった夫の幻影と語り合いながら、激しく生きた現役時代を振り返るストリー。
 ストリープが見せる「老いの孤独」が胸に迫る。

341452_100x100_003  イギリスの階級社会と男性社会を這い上がり首相となった彼女、不況のさなか緊縮財政を強行して国民の反感をかった彼女、強行にIRAと闘いフォークランドで勝利した彼女、福祉国家を棄て新自由主義へと突き進んだ彼女・・・。
 大義・野心・孤独・不信を抱える「鉄の女」を支えた、夫と家族の物語に観客は「涙」するのだ。

 政治家の伝記ではなく、「人間」として「妻」として「母親」としてのサッチャーを描こうとしたのは、フィリダ・ロイド。
 デビュー作「マンマ・ミーア!」('08)でメルリ・ストリープを主演に大ヒットさせた、BBCディレクター出身の女性監督である。
 今回もまたストリープの存在が、作品の全てを決めた。

2_009_640 1977年のデビュー以来、出演した映画は50本を超える。'
 '78年に「ディア・ハンター」でアカデミー賞にノミネイト、以後毎年のようにノミネイトされ「クレイマー・クレイマー」('79)で助演女優賞、「ソフィーの選択」('82)で主演女優賞、今回3回目のオスカー受賞となった。

 共演した夫役のジョム・ブロードベンドも、イギリスの有名な舞台俳優でアカデミー賞を受賞(「アイリス」'01)している。

341452_100x100_006  「鉄の女」サッチャーの政治姿勢、政策の是非には映画は触れない。
 当時のニュース映像を多用することで、表層的に事実を伝えるに留めた。

 社会から完全に姿を消した彼女が、この映画を見るとすればどんな感慨を持つだろうか。そこに思いをはせる。

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March 25, 2012

2073.フェリーチェ・ベアトの東洋

203_017_640 従軍カメラマンのパイオニア、フェリーチェ・ベアトの写真展が、東京都写真美術館で開催されている。

 1832年にイタリア・ヴェネチアに生まれた彼は、トルコで写真技術を学び、激動する19世紀後半のアジアを撮り続けた。

203_025_640 来日したのは1863(文久3)年。スイス外交使節団に加わり江戸に滞在、密かに市中の様子などを撮影している。

 また翌年の馬関戦争では、英・仏・蘭・米連合艦隊の公式カメラマンとして雇われ、下関砲台占拠の写真など幕末の戦乱の様子を記録している。

203_019_640  写真展は、クリミア戦争(1855~1856)、インド・セボイの乱(1858~1859)、第二次アヘン戦争(1860)、辛末洋擾(1871年の米朝戦争)など、彼が撮影した戦場写真や、日本滞在中に撮った風景・肖像作品など145点が出品されている。

203_027_640_2  展示されている写真の多くは、ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館蔵のものだが、東京都写真美術館が所蔵するこのパノラマ写真(部分)が注目を集めている。

 愛宕山から見た江戸の風景で、中央の長い建物は長岡藩の下屋敷、左奥には築地本願寺や有馬屋敷の火の見櫓、右奥遠くにはお台場も写っている。
 イギリス軍と深い関わりがあったペアトは、徳川幕府の軍事拠点もきちんと押さえていたのである。

203_018_640  中東からインド・ビルマ・中国・朝鮮、さらにはアフリカまで転々としたペアトは、漂泊の写真師とも呼ばれている。
 その彼が最も長く滞在したのが、日本である。維新後は横浜にスタジオを設け、伝統的な日本人の暮らしや鎌倉や長崎などの風景をカメラに収めた。

 右の写真はスタジオで撮影した「冬着姿の女性」。
 素鶏卵紙に手彩色したこの写真は、広重の浮世絵「雪中美人」に想を得たものといわれる。

203_022_640  その彼が、不動産投機に失敗して日本を離れたのが1884(明治17)年。
 その後スーダン・ビルマと渡り歩き、1905年故郷のイタリア・フェレンツェで波乱万丈の生涯を閉じた。

 「フェリーチェ・ベアトの東洋」展は、5月6日まで、恵比寿の東京都写真美術館で。観覧料800円。

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March 23, 2012

2072.シャーロック・ホームズ

2_008_640  シャーロック・ホームズは、イギリスの作家アーサー・コナン・ドイルが創作した私立探偵。
 19世紀後半、「緋色の研究」を第1作として56の短編と4っの長編が書かれた。
 小説は、これまでも度々映画化・テレビ化され、世界中に多くのフアンを持つ。

340799_100x100_001_2  ロンドン・ベーカー街のアパートに、アフガン戦場帰りの医師ワトソンと住む彼は、天才的な観察眼と推理力で数々の難事件を解決してきた。
 今回は、史上最悪の天才知能犯、数学教授のモリアーティーとの闘い。

 ドイルが一旦筆を置いた断筆作品「最後の事件」を下敷きに、「シャドウゲーム」の副題で二人のコンビが大活躍する。
 ラストの「スイス・ラインバッハの大滝」での天才二人の闘いは、原作通りだが。

 3年前に、イギリス出身の監督ガイ・リッチーがハリウッド版第1作目を製作した時、ホームズ・ファンは仰天した。

 作品がミステリーというよりアクション・アドベンチャー映画になっていたからである。
 シャーロック・ホームズは、19世紀のジェームス・ポンドかランボーに変身していた。
 その路線は、今回の第2弾も変わらない。というより、さらにアクション化した。

340799_100x100_002  タフでファイトマンのホームズと、彼をサポートするワトソン医師は前作と変わらない。

 「チャーリー」('92)「トロピック・サンダー」('08)とこれまで2回アカデミー賞にノミネイトされたロバート・ダウニー Jrと、同じく「リプリー」('99)「コールドマウンテン」('03)のジュード・ロウのコンビ。

340799_100x100_006 二人に絡む女優陣も、レイチェル・アクアダムスとケリー・テイラーとお馴染みだが、今回はジプシーの占師というヒロイン役にスエーデン女優ノミオ・ラバスが登場する。
 スエーデン版「ミレニアムシリーズ」のヒロインだった、あの彼女である。

340799_100x100_007  そして敵役モリアーティー教授は、イギリスの舞台俳優出身のジャレッド・ハリスが務める。

 映像はなかなかお洒落でカッコいい。スローモション多用のアクションシーンは、ガイ・リッチ監督のサービス精神が生きる。

 知能派ではなく、肉体派のシャーロックに戸惑いの向きもある様だが、原作でも彼はボクシングはプロ級、フェンシングも得意とあるので仕方がない。

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March 21, 2012

2071.アリラン

2_007_640 監督・脚本・撮影・編集・音響・美術・出演・主題歌:キム・ギドク。
 いわゆるセルフドキュメンタリーといえる韓国映画だが、キムはファンタジーだという。

201203023603191n_2  これまで、このブログではネイチャー作品以外のドキュメンタリーは紹介してこなかった。元ドキュメンタリー製作者として躊躇するものがあったからだ。

 しかし「アリラン」は、まさに異色のエンタテインメントに昇華した映画となった。

 日本からオダギリ・ジョーを主演に迎えて撮った「悲夢」('08)が、キム・ギドクの人生の挫折となった。
 撮影中に、女優の一人を死の寸前まで追いやってしまった。それが引き金となって、「メランコリア」に陥った彼から、信頼するスタッフが去っていった。
 彼は消息を絶つ。

341098_100x100_002  とある村はずれの丘の上にある山小屋。重苦しい「アリラン」の唄声が流れる。
 氷を割って炊飯器に入れ、米を炊く。キムチをぶっ掛けた食事、赤々と燃える薪ストーブ・・・・。
 ハンディカメラで撮った映像が、カット割りされる。出演者キム・ギドクのアップ。

341098_100x100_004 彼がもがき苦しみながら、繰り返ししゃべる「自己弁護」と「自己批判」。ただそれは、独白ではない。
 次のカットでは、キムを厳しく問い詰めるインタビュアーのキム。
 さらにその映像を、クールな監督の目で捉えて編集するキム。

341098_100x100_003 人里離れた山小屋での隠遁生活だが、元機械工の腕を持つ彼は、旋盤を使ってエスプレッソマシンまで作り、文化的な自給自足生活に浸る。
 そして最後は、拳銃までも。それが映画のクライマックスに繋がる。

515hgasqspl__sl160_   特異な設定で、人の心の極限に迫ってきたキム・ギドクは、鬼才と呼ばれた監督である。

 自らも出演した「春夏秋冬そして春」('03)で世界の注目を浴びた彼は、続く「うつせみ」('04)でヴェネチア国際映画祭監督賞、「サマリア」('04)でベルリン国際映画祭監督賞を受賞する。

341098_100x100_006   そして3年ぶりに発表した今回の「アリラン」は、昨年のカンヌ国際映画祭 〈ある視点〉部門で最優秀作品賞を受賞する。
 まさに世界三大映画祭を制覇した「マランコリア」の鬼才なのだ。

 朝鮮民謡の名曲として知られる「アリラン」は、恨を解き放つ唄といわれる。
 アリランコーケーロ(峠)を上り下っていく姿は、人生そのものでもある。
 映画「アリラン」の製作は、彼を「メランコリア」から解き放つための治療だった。 

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March 19, 2012

2070.春・浜離宮

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 左は昨年の「浜離宮・菜の花」、右が今年の写真。
 お彼岸前、偶然にも同じ日の写真である。

 およそ30万本の菜の花は、庭園にとって春の名物だが、今年は20日ほど遅れているという。

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 例年なら、もう見頃を終える「梅の花」が、まだ5分咲きというから、今年は異常気象なのだろう。

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 「カンヒサクラ」「サンシュウ」「ユキヤナギ」「レンギョウ」「ジンチョウゲ」「ヒュウガミズキ」「ハナモモ」と、この季節に咲き乱れる花木の蕾は、まだ硬い。

120315_039_640120315_033_640  「潮入の池」では、春の陽を浴びてスケッチを楽しむ姿も見られたが、池を取り巻く「桜の蕾」はご覧の通り。
 例年4月上旬が、浜離宮のお花見。
 さて今年はどうなるのだろうか。

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March 17, 2012

2069.ヒューゴの不思議な発明

Hugo_n_2 前号に続いて観た巨匠の作品は、マーティン・スコセッシ監督の「ヒューゴの不思議な発明」。
 今年のアカデミー賞で最も多い11部門にノミネイト、作品賞・監督賞は逃したものの撮影賞・美術賞など5部門でオスカーを獲った。

Hugo_n_3  1930年代のパリ、モンパルナス駅を舞台に孤児ヒューゴが、不思議な「機械人形」を通して、過去を棄てた老人ジョルジュの「夢」を取り戻すお話。

 ファンタジー映画の装いだが、スコセッシ監督が描いたのは映画創成期へのオマージュ。
 フランスの偉大な映画監督・プロデューサー・俳優・スタジオ経営者だった、ジョルジュ・メリエスの伝記である。

340877_100x100_007  「タクシー・ドライバー」('76)でカンヌ国際映画祭パルムドール受賞したスコセッシは、「レイジング・ブル」('80)「最後の誘惑」('88)「「グッドフェローズ」('90)「ギャング・オブ・ニューヨーク」('02)「アビエイター」('04)と次々と傑作を発表しアカデミー賞監督賞にノミネイトされたが、いずれも受賞を逃した。
 そして6回目、「ディパーテッド」('06)で初のオスカーを手にしている。

 スコセッシは「映画狂」とも呼ばれている。映画史を研究するだけでなく、自ら会長となって「フイルム・ファンデーション」を設立、過去の映画の復元と保護に資金を投じている。

340877_100x100_006 この作品でもメリエスのスタジオを再現し、史上初のSF映画「月世界旅行」の撮影風景を見せるほか、20世紀初期の名作をストーリーの中に生かしている。

340877_100x100_005  出演は、主役のヒューゴにエイサ・バタフィールド(「縞模様のパジャマの少年」'08)、仲良くなった少女にクロエ・グレース・モレッツ(「モールス」'10)と話題の子役を。

 少女の養父で、実は映画王だったジョルジュ・メリエスを名優ベン・キングスレー(「ガンジー」'82でオスカー受賞)、少年の父親をジュード・ロウ、鉄道公安官をサシャ・バロン・コエンが紛するなど、豪華なキャストが顔を並べる。

340877_100x100_001  ハリウッドでの原題は「ヒューゴ」なのだが、邦題に「不思議な発明」を付け加えたことに異論が多い。
 たしかに、作品の中に「不思議な発明」は、ひとつも登場しない。
 ただ映画の原作となった本の表題は「邦題」と同じ、これは宣伝を考えた配給会社の選択というしかない。

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March 15, 2012

2068.戦火の馬

2_005_640  ハリウッドの巨匠の作品を、2本続けて見た。いずれもアカデミー賞各部門にノミネイトされた映画。

 まず1本目は「戦火の馬」。
 ドリームワークスを率いて次々とヒット作品をプロデュースしてきた「映画青年」、スティーブン・スピルバーグが久しぶりにメガホンを執った。

 受賞は逃したが、作品賞・作曲賞など今年のアカデミー賞では6部門にノミネイトされた。

340426_100x100_002_3 第一次世界大戦を舞台に、戦火を生き抜いた一頭のサラブレッドと馬を育てた少年との、別れと出会いの物語である。

 原作はイギリスの作家、マイケル・モーパーゴが1982年い発表した同名小説。
 子供たちのために書いたファンタジックな児童文学は舞台でも上演され、昨年トニー賞5部門を受賞した。

 この舞台劇をロンドンで観て感動し、映画化したのがスピルバーグ。
 彼らしい壮大なスケールのスペクタルな作品に仕上げた。

340426_100x100_003_2  「プライベート・ライアン」('98)など迫力ある戦場シーンを得意とする監督だけに、フランスの原野で繰り広げられるイギリス軍とドイツ軍との戦いは、リアルで凄まじい。

 しかし彼は「この作品は戦争映画ではない。馬と人との奇跡の物語」だという。

340426_100x100_001_2  その人、主人公である少年をジェレミー・アーヴァインが演じる。イギリスの新人俳優らしく瑞々しい演技で、涙を誘う。

 少年の母親が、「奇跡の海」('96)でアカデミー賞にノミネイトされたエミリー・ワトソン。
 飲んだくれの小作人の父親が、カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞(「マイ・ネーム・イズ・ジョー」'98)した俳優、ピーター・ミュランである。

340426_100x100_004_3  イギリスのベテラン俳優に加えて、フランス出身のニエル・アレストリュブも顔を見せる。
 戦場となったフランスの農夫で、戦火を逃れた奇跡の馬を孫娘と匿う。
 このエピソードが、クライマックスの伏線となる。

 第一次世界大戦は、今に続く大量殺戮の緒となった戦争である。
 それまでの騎兵や歩兵による戦いから、戦車や大砲・機関銃、さらには毒ガスを用いた戦争に変わった。
 「戦火を駆け抜ける馬」は、その歴史を象徴的に見せる。

 絵に描いたような美しいイギリスの田園から、寒々しいフランスの戦場、ラストは「風と共に去りぬ」を彷彿させる美しい夕景のシーン。
 「童心」に返ったスピルバーグの、詩情豊かな映像美も楽しめる。

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March 13, 2012

2067.東洋陶磁の美

203_007_640 「悠久の光彩」と形容される大阪市立東洋陶磁美術館のコレクション展が、六本木のサントリー美術館で開催されている。

 東洋陶磁美術館開館30周年を記念して開かれたもので、収蔵する4000点のなかから、国宝2点・重要文化財13点のすべてを含む名品140点が展示された。

800pxthe_museum_of_oriental_ceramic  美術館は、当時の安宅産業や創業2代目にあたる安宅英一会長が蒐集した陶磁器、「安宅コレクション」をもとに大阪市が設立した。

 石油ショックで倒産した安宅産業のコレクションを買い取った住友グループが、貴重な陶磁器の散逸を防ぐために大阪市に寄贈したのである。

203_009_640_2  展示品で目を引くのは、やはり2点の国宝である。

 左の「油滴天目茶碗」は、高野山で自刃した悲運の関白・豊臣秀次が所有していた中国・南宋時代(12~13世紀)の建窯の作品。

 ポスターの写真「飛青磁花生」は、鴻池家に伝わった中国・元時代(13~14世紀)の龍泉窯のもの。

203_010_640  国宝ではないが、右の「木葉天目茶碗」(重要文化財)も話題を集めている。
 油滴天目と同じ時代に、中国江西省吉洲窯で焼かれたもので、漆黒の釉面に黄土色の木の葉が一葉と、なかなか洒落ている。
 加賀藩前田家が所有していた茶碗である。

203_011_640203_013_640  元時代の「青花蓮池魚藻文壷」(左)、明時代の「瑠璃地白花 牡丹文 盤」(右)、いずれも有名な中国の官窯・景徳鎮で焼かれた需要文化財指定の作品である。

203_015_640_2203_014_640  中国だけでなく韓国陶磁の逸品も70点近くが展示されている。

 写真は、12世紀の高麗時代の作品「青磁彫刻童女形水滴」の2点、左は重要美術品に指定されている。

203_008_640_3   作品は、中国陶磁が後漢時代(2世紀)から明の時代までを、「緑」「青」「白」「紅」「三彩」「五彩」と色で分類、釉薬の使い方や窯の温度による変化を比較してみせる。

 韓国陶磁は、高麗時代の「緑」と朝鮮時代の「白」でまとめられている。

203_016_640  大阪勤務時代、幾度となく足を運んだ「大阪市立東洋陶磁美術館」。20年ぶりに多くの逸品と再会できた。

 「悠久の光彩・東洋陶磁の美」展は、4月1日まで六本木ミッドタウン・サントリー美術館で。入館料1300円。   

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March 11, 2012

2066.メランコリア

2_003_640 メランコリア(憂うつ症患者)のラース・フォン・トリアー監督が、その魂の救済を究極の映像で訴えた野心作。
 荘厳な叙事詩である。

 冒頭8分間の詩的映像美に酔う。
 ワグナーの「トリスタンとイゾルデ」の甘美で濃厚な大音響の中で、観客はメランコリックな感情の世界にに浮遊しながら、地球の終焉を見る。

 ここに登場する「メランコリア」とは、巨大惑星の名。その惑星がやがて地球を飲み込む事を、冒頭の映像が見せる。
 そして物語は、二人のヒロイン「浮遊」によって綴られていく。

340955_100x100_002  第1部は妹が主人公。
 この作品でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞したアメリカの女優、キルスティン・ダンスト(「マリー・アントワネット]'06)が演じる。
 彼女自身の豪華絢爛な結婚披露パーティー、惑星「メランコリア」が近づくにつれて、彼女はメランコリックになっていく。

340955_100x100_001  第2部は姉とその一家の物語。
 トリアー監督の「アンチクライスト」('09)で、同じく主演女優賞を受賞したイギリスの女優シャルロット・ゲンスブールがヒロインである。
 憂うつ症の妹を家に引き取ったが、自らは世界の終末への恐怖に苛まれていく。

340955_100x100_005  この作品は「絶望」ではなく、「ハーッピーエンド」の物語だというトリファー監督は、デンマーク出身の鬼才。

 「奇跡の海]('96)でカンヌ国際映画祭グランプリ、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」('00)でパルムドール受賞、「ドッグウイル」('03)「マンダレイ」('05)「アンチクライスト」と毎回パルムドールにノミネイトされてきた。
 今回の「メランコリア」のカンヌでの審査では、「異常な親ナチス」の発言をして会場から追われた。
 メランコリックな彼の精神状態が、その発言に繋がったと彼は弁解している。

340955_100x100_006  人類すべての死が必然となった時、あなたはどんな「終末」を迎えようとするのか。

 「地球は邪悪よ。構えても嘆く必要はないのよ。」
 監督は、ヒロインにこう語らせる。
 「メランコリア」から開放されたとき、私はロマンチックになる、と。

 「ハンター」に続くブロードメディア・スタジオの配給映画。

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