1217.フロスト×ニクソン
1974年ニクソン大統領辞任。アメリカ史上初めて任期途中で辞めた、唯一の大統領という不名誉を背負った。そして3年間、彼は沈黙を守る。
1977年3月、ニクソンがテレビ・インタビュー番組に登場する。軽量級のテレビ司会者を利用して、政界への再登場を試みたのである。
軽量級といわれた相手は、イギリス出身の元コメディアンのフロスト。軽いノリでのセレブ相手のトーク・ショーで受けてはいるが、アメリカの三大ネットワークからはお呼びがない。
しかしインタビューで、「ウオターゲート事件」の首謀者ニクソンから、「アメリカ国民への謝罪」を引き出せば、男が上がる。アメリカ進出という野心が適うのだ。
だから借金までして制作費はもちろん、ニクソンへの謝礼6000万円をかき集めたのだ。
25年後、フロストを追ったドキュメンタリーが放送された。ハイライトは、あの5回にわたったニクソン・インタビューである。
その作品を見たピーター・モーガンが、1992年舞台劇「フロスト×ニクソン」を書いてロンドンで上演する。さらにその舞台を見たロン・ハワード監督が、映画化したのだ。もちろん脚色は、モーガンその人である。
舞台もそうだが、映画もニクソンとフロストのスリリングな「心理挌闘劇」となった。「言葉を武器」にしたボクシングに例えられる。
1回戦、フロストが軽いジョブを飛ばすが、ニクソンにいなされる。
2~4回、ニクソンの一歩的な勝ち。まさに彼の独演会。
「私は君にとって最も手ごわい敵だ。スポットライトは私を照らすが、君は荒野をさまよう」と、ニクソンはフロストを挑発する。
そして5回戦、最後のゴングが鳴った。

舞台でも映画でも、ニクソン役はアニューヨークの舞台出身フランク・ランジェラ(「グッドナイト&グッドライク」'05)。またフロストも、イギリスの舞台俳優マイケル・シーン。「クイーン」('06)でブレア首相を演じたあの役者が、舞台・映画とフロストになりきった。
それにしてもランジェラは上手い。モノ真似でないニクソンの心の中を表現した。ラストのクローズ・アップの顔、これだけの表現は誰も出来ないだろう。アカデミー賞にノミネイトされたのは当然である。
一方マイケル、まだ現存しているフロストを演ずるのだから難しい。軽薄で虚栄心の塊のような役、それをフロスト自身が付きっ切りで支えたと言う。
特にドラマチックな色恋が描かれるわけではない。見せ場たっぷりのアクションシーンがあるわけでもない。
しかし、これだけスクリーンに引き込まれた作品は、久し振りである。
さすがロン・ハワード、「ビューティフル・マインド」('01)で2つのオスカーを獲得した監督だけはある。
インタビューが行われた年の4年後、私たちはテレビ・ドキュメンタリー「マネー」の取材で、ニクソンにインタビューを申し込んだことがある。現在の経済危機の遠因でもあるあの「ニクソン・ショック」を問い正すのが狙いだった。
しかしそれは、体よく断られる。代わりに彼の部下だったコナリー財務長官へのインタビューで終わった。
今回この映画を見て、ニクソンへのインタビュー料が6000万円だった事を知る。
あの時断られて良かったと、今胸をなでおろす。


Comments
知人に薦めら今日初めて『フロスト×ニクソン』を見ました。「モノ真似でないニクソンの心の中を表現」確かにそうでしたね。動揺したときの目の細かい動き、一体どうしたら演技でできるのでしょうか。素晴らしい映画でした。
Posted by: ETCマンツーマン英会話 | January 13, 2012 at 03:21 AM