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May 26, 2009

1256.さつま今昔(10)

031_640   「黒ジョカ」

 前回述べたように「ダイヤメ」には、「黒ジョカ」が似合う。「黒千代香」と洒落て書く場合もあるが、「チョカ」でないと落ち着かない。

 この薩摩焼酒器を生み出したのは、初代有山長太郎。1900(明32)年に、島津家御庭焼から独立して谷山小松原(鹿児島市)に窯を開いた。
 その後、洋画界の巨匠黒田清輝の知遇を得て「薩摩長太郎焼」を名乗り、現在は三代目が窯を守っている。

 「黒ジョカ」の型は、白薩摩焼の「亀甲型チョカ」がモデルだが、当時TV「さつま今昔」に出演した二代目長太郎さんは、「毎日窯元から眺めた桜島の姿が、父の目に焼きついていたのだろう」と語っている。

048_640052_640  手元にある同じ「苗代川焼」の二つの茶碗。左が錦手の技法で絵付けされた「白薩摩」、右は黒釉の「黒薩摩」である。

 このように薩摩焼きには、二つの大きな流れがある。もちろん現在では、同じ窯元で白も黒も作り誰でも利用できるが、江戸時代までは区分されていた。
 つまり、白薩摩は藩主や上級武士の茶器や装飾品、他大名への贈答品として作られ、黒は庶民の日用雑器として利用されたのだ。

 歴史的に見ると、白も黒もルーツは同じである。文禄・慶長の朝鮮出兵(16世紀末)から撤退の折、かの国から陶工を連れ戻った事に始まる。
 古くからあった瀬戸や備前と異なり、有田・上野・高取・高田・萩焼などと誕生の時を同じくする。  
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 詳しくはブログ1174号('09.2.21)で述べたが、陶工の上陸地によって大きく三つの系統に分けられる。

 まずひとつが、「苗代川系」。東シナ海の串木野に上陸した43人の陶工達は、粘土や釉薬を求めて苗代川(日置市)に定着した。
 そして藩の保護政策もあって、江戸末期には黒薩摩から錦手など白薩摩の生産へと製品の幅を広げていった。

 左上の「金襴手大花瓶」は、薩摩を代表する苗代川系の作品だが、1867(慶応3)年のパリ万国博覧会や1873(明6)年のウイーン万国博覧会には、沈壽官窯、鮫島訓石窯、東郷壽勝窯からの作品が出品されている。
 現在も、沈壽官窯をはじめ荒木陶窯、佐太郎窯などが健在である。

 次が、鹿児島湾奥前の浜に上陸した20余名である。関ヶ原の戦いで西軍に加担して破れた島津義弘が、蟄居先の帖佐に窯を開かせた。
 義弘はリーダーの金海を瀬戸や上方に派遣し、茶陶の技術を学ばせた。いわゆる「竪野系」の誕生である。
 宇都窯、御里窯(加治木)ともっぱら茶碗・茶入・花生を焼き、博多商人で茶人の神屋宗湛などに愛用された。

034_640  義弘の子・家久が藩主になると鹿児島・冷水窯、さらに江戸後期、島津斉彬は洋式工場群・集成館事業の一環として磯窯(磯御庭窯)を築く。
 この窯は、1863(文久3)年の薩英戦争で灰燼に帰すが、明治になって田ノ浦窯、慶田窯、隈元窯、仙巌窯と竪野系の伝統を引き継ぐ。
 冒頭の「黒ジョカ」長太郎焼もこの流れである。
 右の写真「金彩龍耳香炉」(銘文薩摩・慶田)は、竪野系の作品。

040_640  最後が「龍門司系」。串木野に上陸した一部が加治木に山元窯を開いたのが始まりである。
 修験者小野元立が肥前の陶工に開かせた元立院窯で学び、龍門司窯を開く。
 刷毛目、三島手、三彩、ドンコなど多彩な技法を使って椀・皿・徳利など小型の日用品を焼いた。

 明治以降、本窯のほか小野窯、東組窯と続いたが、現在は「龍門司焼企業組合」としてその伝統を守っている。

 2月、江戸東京博物館で開催された「日仏交流150周年記念・薩摩焼」展で、「鹿児島の現代陶芸~伝統と創作~」が併設され、現在活躍している陶芸家たちの作品、60余点が展示されていた。
 苗代川系、竪野系、龍門司系の流れを汲む伝統窯、新しく各地の窯や窯業試験場で陶芸の技法を学んだ新興窯と多士多彩の作品に、意を強くした。

 しかし、日本伝統工芸展や日展などでの入選作は、有田や伊万里、萩焼等に比べると少なく、薩摩焼の作家たちの知名度はもうひとつである。
 また、日用の食器にしても、東京や大阪ではなかなか手に入らない。産業としての薩摩焼も有田や砥部、瀬戸、益子などに比べると弱い。
 パリ万博で日本を代表する焼物として、世界に評価された伝統の技。その再起を期待したい。

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