2027.無言歌
前号の「灼熱の魂」に続いて、歴史に翻弄された人間の尊厳を問う「重い作品」である。
映画は戦後中国史の「恥部」、タブーとされている「反右派闘争」と「大躍進政策による大飢餓」に真正面から取り組んだもので、いまだ中国本土では公開されていない。
脚本・監督はワン・ビン(王兵)。山形国際ドキュメンタリー映画祭で、「鉄西区」('03)「鳳鳴~中国の記憶」('07)と2回のグランプリを受賞した中国・西安出身のドキュメンタリストである。
ヤン・シェンホイの小説「告別夾辺溝」を読んで映画化を企画、「右派」と決め付けられゴビ砂漠の強制労働所に収容されたが、辛うじて生き延びた人たちを3年にわたって取材して製作した。
作品は昨年のベネチア国際映画祭でサプライズ上映され、世界中の映画人にショックを与えた。
北京のスタッフを中心にゴビ砂漠でロケした全編中国語の映画だが、香港・フランス・ベルギー合作のクレジットとなっている。
「反右派闘争(1960年)とは、毛沢東が奨励した「百花斉放・百家争鳴](1956年)で国の政策に様々な提言をした科学者や知識人を、「右派分子」「反革命分子」と決め付け粛清した事件。
中国共産党は、彼らを思想改造の名目で辺境の強制労働所に送り込んだが、「大躍進政策」の失敗による大飢餓でほとんどの人たちが病死している。
作品はゴビ砂漠に掘られた「溝」(原題・THE DITCH)の中で、毎日の強制労働と、餓えに苦しみながら死んでいく知識人たちを凝視する。
轟々と鳴る砂と風、荒涼とした砂漠の大ロング。ドキュメンタリー・タッチの映像は、光と影による美を映し出す。
その映像を編集したのは、ベルギー出身のマリー=エレーヌ・ドブー。「ある子供」('05)「ロルナの祈り」('08)など、日本でも知られている世界的な名編集者である。
出演しているのは、中国戯劇学院出身の若手俳優(ル・イエ、シュー・ツェンツー)と実在の生存者(リー・シャンニエン)たち。
音楽など人工的なサウンドを一切廃した作品の最後に、「無言歌」が流れる。
現代中国の政治的過去を鮮やかに解き明かしたこの作品は、中国インディペンデント映画の金字塔といえよう。


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