2040.善き人
病身の母を介護する「善き息子」。妻の代わりに家事をする「善き夫」。子供たちの面倒を見る「善き父親」。文学を情熱を持って教え子たちに語る「善き教授」。第1次世界大戦を共に闘ったユダヤ人医師の「善き親友」。
書いた小説がヒットラーに気に入られ、ナチに入党させられた「善き人」は、権力に屈して友人を裏切り、家庭をも崩壊させていく。
オーストリア生まれのブラジル人監督ヴィセンテ・アモリンは、これを「誰にでも起こりうる寓話」として映像化する。
イギリスを代表する劇作家C・P・テイラーの、絶筆となった戯曲が原作。
ロンドン・ブロードウエイ、日本でも2回上演され、「20世紀の舞台劇100本」にも選ばれた人気戯曲である。
「善き人」を演じたヴィゴ・モーテンセンの抑制された演技が、友情と生存という究極の選択を迫られたインテリの弱さと強さを繊細に見せる。
「イースタン・プロミス」('07)でアカデミー賞にノミネイトされた彼は、アメリカ生まれだが父親がデンマーク人。北欧人独特の風貌が、「善き人」の心の内の葛藤を見る人に迫る。
昨年公開された「黄色い星の子供たち」、先々週見た「サラの鍵」など、ナチスのユダヤ人迫害をテーマにした作品は多い。
しかしナチス時代の「普通のドイツ人」を描いた作品は、あまり見ることがない。
と同時に、この戯曲が改めて映画化された意味はその「普遍性」にある。
「優柔不断」「確固たる信念はない」「誘惑に弱い」「現実逃避」「傍観者」「長いものには巻かれる」・・・・・・、私たちは作品の中に自分の姿を見る。
アモリン監督が言う通り、これは極めて今日的寓話なのである。
4年前に製作された映画をようやく私たちの目の前に持ってきた、配給会社ブロードメディア・スタジオの選択を多としたい。
有楽町スバル座の、開館65周年記念作品である。


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