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September 29, 2012

2172.天地明察

29_010_640 江戸の頃、「暦」は人々の生活の中ではひとつの希望だった。「暦」はまた、当時の政治や経済にも大きな影響を与えてきた。
 その暦の「改暦」は、朝廷の権威の中にあり大きな利権をもたらした。それゆえ、改暦は聖域とされていた。

29_012_640  604年百済の僧がもたらした「唐暦」、朝廷はそれを頑なに守り一部の修正だけで800年も守り続けてきた。
 その暦、「宣明暦」の定説を覆し、1684(貞亭元)年に独自の暦を作り上げた、江戸初期の天文学者の半生を描いた映画である。

 原作は冲方丁の同名小説。コミックの原作者、アニメの脚本家として知られる冲方が、初めて書いた時代小説である。
 作品は2年前の「本屋大賞」を受賞、吉川英治文学新人賞や舟橋聖一文学賞も受賞してベストセラーになった。

342231_100x100_004  岡田准一が扮する主人公の安井算哲をはじめ、登場人物のほとんどが、歴史上実在した人たちである。

 本因坊と並んで囲碁の将軍家指南役の名家である安井家に生まれた彼は、幼少の頃から天文・算術に強い興味を持ち、のちに徳川御三家の一人、水戸の光圀の庇護のもと改暦の大事業に身を挺していく。

342231_100x100_005_2 彼に大きな影響を与えたのは、師で儒者・神道学者の山崎闇斎(白井晃)と、日本ではじめて円の計算や行列式を考えた和算の創始者・関孝和(市川猿之助)だった。

342231_100x100_007 山崎が、当時の会津藩主で4代将軍家綱の補佐役・保科正之(松本幸四郎)のブレーンだった事から、算哲は幕府の天文方の役人となり天文学者への道を歩むこととなった。

342231_100x100_001  映画はこうした歴史的な事実を背景に、妻(宮崎あおい)との愛情物語や朝廷の公家たち(市川染五郎)との権力争いを描きながら、真っ直ぐな青年科学者の成長を綴っていく。

 時代劇を意識したのか、忍者との闘いという異質なシーンもあったが、私たちが知らなかった「暦」の持つ大きな社会的影響と、江戸の初期にほぼ確立していた「天文学の基礎」を興味深く知ることが出来た。

342231_100x100_006 「おくりびと」('08)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田洋二郎監督が、金環食や金星食など「天文ゴールデンイヤー」となった今年を意識して、江戸の金環食をきっちりと見せてくれた。

 幕府天文方役を演じた笹野高史と岸部一徳と、岡田准一の 「天地明察」の旅が印象に残る。

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September 27, 2012

2171.扇ヵ谷・雪ノ下、秋の花を愛でる

120924_015_640120924_017_640120924_041_640120924_042_640 
 「ひとまく鎌倉ウオーキング」、猛暑続きの7月・8月はパスしたが、朝夕涼しくなったので秋の花を求めて古刹四ヵ寺を訪ねた。

 この季節、鎌倉の寺社を彩る草花は、紅白の「萩」を筆頭に同じ紅白の「彼岸花」、「キンモクセイ」「シュウメイキク」「コスモス」「紫苑」などなど。

120924_003_640120924_023_640  最初に訪ねたのは「泉谷山浄光明寺」、真言宗の寺である。

 鎌倉駅から亀ヶ谷阪の切通へ向って10分、扇ヵ谷にあるこの名刹は、源頼朝が立てたふるい堂が始まり。
 1251(建長3)年に鎌倉幕府5代執権北条時頼と6代長時が建立した。

 幕府滅亡後は足利尊氏がここに篭り、後醍醐天皇が差し向けた新田義貞に対抗して、挙兵した寺としても知られている。

120924_013_640120924_006_640  寺院には、「 十六夜日記」で有名な阿仏尼の子息、歌人の冷泉為相の墓や鶴岡八幡宮25坊の住職、神主大伴家の墓所がある。

 浄光明寺の秋の花は、「萩」「彼岸花」。

120924_033_640120924_035_640  二つ目は「扇谷山海蔵寺」、臨済宗の寺である。
 これまでも度々訪ねた寺院だが、山門へ上る階段の両脇を紅白の萩が覆っている光景は初めてだった。

  もともとは、宗尊親王が1253(建長5)年に建立した伽藍だったが、鎌倉幕府滅亡時(1333年)の戦火で壊滅。
 室町時代になって、第2代鎌倉公方・足利氏満の命で新しく建立された。

120924_055_640120924_049_640  江戸時代に建てられた茅葺の庫裏は、鎌倉寺院建築を代表するものとして知られ、本堂裏にある心字池とともに参拝者の心を癒してくれる。

 門前には、鎌倉十井のひとつ「底脱ノ井」が、境内奥のやぐらの中には、弘法大師が掘った「十六ノ井」があり、今もきれいな泉が湧き出している。

 「海蔵寺」の秋の花は、「萩」「「キンモクセイ」「紫苑」「りんどう」「紫式部」「ホトトギス」。

120924_059_640120924_068_640  三つ目は「東光山英勝寺」、浄土宗の寺院である。
 鎌倉で現存する唯一の尼寺で、今回訪ねた寺では最も新しい。
 といっても創建は1636(寛永13)年、徳川家光の時代である。

 建立したのは、徳川家康の最も若い愛妾お勝の方。家康没後出家して英勝院と号した。
 彼女は、江戸城を築城した太田道灌の子孫で、ここは道灌の旧跡だった。

120924_063_640120924_072_640  家康との間に生まれた息女を亡くした英勝院は、のちに水戸家初代となった頼房の養母をつとめた縁で、開基の住職にその娘を迎えた。
 以後この寺は水戸徳川家の寺院として、代々水戸家の息女が庵主となった。

 「英勝寺」の秋の花は、「萩」「紅白彼岸花」「シュウメイキク」「コスモス」「紫苑」。

120924_086_640120924_091_640  最後は「萩の寺」として知られる「金龍山宝戒寺」、扇ヵ谷から鶴岡八幡宮を抜けて雪ノ下へ、鎌倉幕府執権・北条得宗家の屋敷跡に建つ。

 寺院への参道の両脇はもちろん、境内いたるところに紅白の萩が咲き乱れている。

 創建は1335(建武2)年。新田義貞に攻められて北条一門が滅んだ後、一族の霊を弔うため後醍醐天皇が足利尊氏に命じて、天台密教の戒壇院を建立させた。

120924_095_640120924_093_640 この地は、新田軍と北条軍の最後の決戦の場で、裏山には北条高時が切腹したやぐらも残っている。  

 毎年5月22日には、境内にある徳宗権現社に安置してある高時像を本堂に運び、12人の僧が大般若経を唱え、北条9代の霊を慰めている。

 「宝戒寺」の秋の花は、「紅白の萩」を筆頭に「酔芙蓉」「ホトトギス」など。

120924_061_640120924_058_640_2   扇ヵ谷から雪ノ下まで、秋の花を訪ねた今回の「ひとまく鎌倉ウオーキング」は、直線距離では3キロの道程だったが、花を愛でるため境内をよく歩いたため、ドアtoドアの歩数は13,428歩だった。

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September 25, 2012

2170.夢売るふたり

29_009_640  「蛇イチゴ」('03)「ゆれる」('06)「ディア・ドクター」('09)と、3年ごとに問題作を作って数々の国内外の映画賞を受賞してきた西川美和監督。
 その骨太のストリーテリングが評価されてきた彼女の4本目は、結婚サギを描くヒューマン・サスペンス映画である。

342623_100x100_002  火事で小料理屋を失ってしまった夫婦が、その再建資金を稼ぐため結婚サギを始めた。
 浮気した夫(阿部サダヲ)の「もてる才能」を知った妻(松たか子)は、引っかかりそうな女を物色して夫に実行させる。

 それは生活の実利を兼ねた、夫への復讐なのかも知れない。
 妻に操られながら女を騙す夫もまた、イキイキと本物の結婚サギ師に変身していくが、やがて・・・・。

342623_100x100_004  松たか子の体当たり演技が、凄い。
 女の情、厚かましさ、醜さ、悲しみ、孤独を、微妙な表情の変化と漆黒の眼で見せる。

342623_100x100_010  阿部サダヲも、それを上手く受け止める。コミカルに始まった彼の演技は、次第に重くなっていく。

 少しずつバランスを崩していく夫婦の中に、一筋縄ではいかない人間の業と闇が描かれていくのである。

342623_100x100_011  西川監督がこれまでも追い続けてきたのが、人間の内面にはらむ愛憎や欲望が、他人と関わることで揺らいでいく様だった。
 今回はそれを、妻と夫そして被害者たちの関係の中で表現した。

 「今回の作品では、いかに女という生き物が複雑で滑稽で魅力的かということを伝えたかった」と、西川は語る。
 自慰や生理のシーンなど、女性監督でしか描けないカットがそれを物語る。

342623_100x100_008 阿部サダヲを取り巻く女たち、田中麗奈、鈴木砂羽、安藤玉恵、江原由夏、木村多江が赤裸々な演技を見せる。
 西川作品でお馴染みの香川照之(「ゆれる」)と笑福亭鶴瓶(「ディア・ドクター」)も、短いシーンだが存在感を示す。

 練りに練ったストーリー、練達の演技、細部まで丁寧に撮る演出、映像の背景に我が家のマンションを捉えながら、都会のけだるさを感じる。

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September 23, 2012

2169.凍える牙

29_008_640  前号に続いてこちらも「刑事もの」、韓国映画である。しかし、原作者は日本の作家・乃南アサ。
 '96年に第115回直木賞を受賞した「女刑事・音道貴子シリーズ」の第1作「凍える牙」を、詩人・脚本家としても知られる韓国の監督ユ・ハ(「マルチュク青春通り」'04)が映画化した。

343099view002 ヒロインの女刑事は、「悲夢」('08)でオダギリ・ジョーと共演したイ・ナヨン。
 彼女とコンビを組む中年刑事に、ベテランのソン・ガンホを配した。

343099_100x100_003  ソン・ガンホは、「シュリ」('99)「JSA」('00)「グエルム漢江の怪物」('06)「シークレット・サンシャイン」('07)「青い塩」('11)など、話題作で知られる大物俳優である。
 そこでユ監督は、ヒロインを新米刑事にし、原作では脇役だった中年刑事を主人公に昇格させ、そのダメ男ぶりを際立たせた。

 16年前に刊行された「凍える牙」の映画化は、これが初めてである。ただ日本では、既にテレビドラマとして2回放送されている。
 '01年のNHK・BSではヒロインを天海祐希、中年刑事を大地康男。'10年のテレビ朝日では、木村佳乃・橋爪功のコンビである。

343099_100x100_004 物語は、孤高のウルフドッグ(狼犬)が引き起こす連続殺人と、それを追う二人の刑事を描くクライム・サスペンス、加えてヒューマンドラマがにじむ。
 韓国映画らしく、今も色濃い男社会と女性蔑視、覚せい剤や人身売買、少女売春などの闇世界が背景として描かれていく。

343099_100x100_001  原作シリーズでは次々と難事件を解決していくベテン女刑事も、ここでは新米刑事としてセクハラ・パワハラが日常の所轄署で甚振られる。

 映画のクライマックスは、傷つきながらも刑事としての意地を見せるヒロインと殺人犬との疾走。

343099_100x100_006_2  犬でも狼でもない「はぐれもの」と仲間たちから疎外された「はぐれ刑事」、追い追われながら次第に心を通わしていく姿に、哀愁と感動を覚える。

 3Dなど超大作ではなく、「私が、生きる肌」「プレイヤー」など、隠れた話題作を発掘してくれる「ブロードメディア・スタジオ」が、「テイク・ジス・ワルツ」についで提供した問題作である。

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September 21, 2012

2168.秀山祭大歌舞伎

Shinbashi201209b  このところ歌舞伎から遠ざかっていた。今年初めての新橋演舞場である。
 連れ合いが吉右衛門の大フアンなので、都民劇場の優待券を手に入れて「秀山祭九月大歌舞伎・夜の部」を観た。1等A席15,000円が、およそ半額だった。

120918_009_640 「秀山」とは初代中村吉右衛門の俳号、2代目吉右衛門を中心に「播磨屋」が総出演する。また彼の従兄弟など、親戚の役者たちも加わる。

 今回は、昨年亡くなった人間国宝・七世中村芝翫を偲ぶ演目もあり、「成駒屋」「高砂屋」「加賀屋」も並んだ。

120918_004_640_2  最初の演目は、「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)」。
 「桔梗」は明智光秀の花紋、「旗揚」は挙兵、つまり「本能寺の変」前夜の光秀と信長の相克を題材にした純歌舞伎である。

 第一幕「饗応」。
 勅使饗応の役目を命じられた光秀(吉右衛門)が、客殿に桔梗をあしらった幕を張ったために信長(歌六)の怒りをかい、その命を受けた森蘭丸(歌昇)が打った鉄扇で、額を割る。

120918_001_640 第ニ幕「本能寺馬盥」。
 信長が陣を構える本能寺で、光秀はさらに「いじめ」に晒される。
 馬を洗う盥で酒を飲まされ、所領は取上げられ森蘭丸に、欲しがっていた名刀は新参者に、その代りは光秀が貧しかった頃売った妻(魁春)の切り髪、という次第。
 苛めに苛められ、それに耐え忍ぶ吉右衛門が見所。

 第三幕「愛宕山連歌」。
 愛宕山の光秀の宿所に、所領取上げの「上使」が。白装束切腹姿の光秀、上使を切り捨て刀を構え、いざ出陣の大見得。全幕通しての最大の見せ場で幕となる。

120918_006_640  四世鶴屋南北がが書き、1807(文化5)年江戸・市村座で初演された演目。初代吉右衛門の代表作のひとつである。

 歌舞伎上では明智が武智に、信長は春永、秀吉は久吉とネイミングされている。
 出演は、他に光秀の妹・芝雀、腹心に梅玉と又五郎などなど。

120918_002_640  二つ目の演目が「京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)」。故・七世中村芝翫代表作といわれる舞踊劇である。
 彼は、若い頃に6代目菊五郎のもとで演技修養を行ったが、1948(昭和48)年20歳で菊五郎直伝の「娘道成寺」を初演している。

120918_640  今回、白拍子花子を舞うのは芝翫の長男・中村福助。1時間10分の舞台のほとんどを、彼が占める。

 歌舞伎舞踊では最も有名な演目である「娘道成寺」は、恋焦がれた僧・安珍を蛇体となって焼き殺した清姫の説話「道成寺縁起」の後日譚。
 能舞台で演じられたその後の清姫亡霊物語を、初代中村富十郎が女形の長編舞踊に変え大好評を博した。

120918_003_640 白拍子花子に化けた清姫の亡霊が、再建された鐘供養の前で奉納の舞を披露、最後は鐘に飛び込み蛇体となって恋の恨みを、という流れ。
 その間に「道行」「中啓の舞」「手踊り」「鞠唄」「花笠踊」「手拭踊」「鈴太鼓」と、衣裳と道具を変えながら所作の異なる踊りを次々と舞っていく。

120918_007_640  20年前に、この歌舞伎舞踊で9代目福助を襲名しただけに、父・芝翫譲りの正確な振りを1時間にわたって見せてくれた。

 「娘道成寺」は、これまでも「奴道成寺」「二人道成寺」などのバリエーションもふくめ数多く観てきた。
 しかし今回は、蛇体となった清姫の亡霊を退散させる「押し戻し」という部分が加わる。
 松緑が亡霊退治の武士役だが、そんなラストシーンがあった事を始めて知った。

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September 19, 2012

2167.踊る大捜査線

29_007_640_2   大ヒットした作品を、「何時」「どんなタイミング」で打ち止めにするか、その判断は難しい。ファンの気持ちを慮りながら、製作側や出演者の事情、さらには経営的な判断も絡む。

 15年続いたフジテレビの「踊る大捜査線シリーズ」、「THE FINAL」は果たして「新たなる希望」を見出せるのだろうか。

29_006_640_2  製作・亀山千広、監督・本広克行、脚本・君塚良一のトリオは、変わらなかった。
 多くのテレビドラマ・シリーズ、スピンした2本も加えると6本の劇場版である。
 スピン作の1本、「容疑者 室井慎次」('05)は脚本の君塚が監督するというトライもあった。

 犯人逮捕までを追う従来の「刑事ドラマ」とは違い、警察組織の矛盾を逆手にとったテーマ設定が、ヒットの背景にある。
 それは、普通の会社組織、サラリーマンの生き方とも共通するからであろう。

342205_100x100_005   支店(所轄署)×本店(警視庁)という縦社会での綱引きや手柄争い、ノンキャリ×キャリアの不信感と官僚主義、ドラマは「規則」「階級」「命令」と「使命」「正義」との葛藤が、コメディタッチで描かれていく。

342205_100x100_002  15年間、主要メンバーを代えなかったのもヒットにつながった。
 途中鬼籍にはいったベテラン刑事・いかりや長介の代わりには、甥の役で伊藤淳史を加わえるなど設定を工夫しながら、架空の所轄「湾岸警察署」の刑事・織田祐二と深津絵里のコンビが物語を引っ張る。

 さらに同署の刑事、ユースケ・サンタマリアと水野美紀の存在を、年を経るごとに変化させたのも、ドラマを連続さえる牽引となった。

342205_100x100_004  そして、ノンキャリアの主人公に対するキャリアの代表に、柳葉敏郎を置く。
 彼は警察庁や警視庁のキャリアのなかで、ただ一人の「悩めるキャリア」となって物語を締めた。
 そう、交渉人となった小泉元総理の長男、考太郎も重要な役。

 一方、コメディ部分を担当したのが「スリーアミーゴス」(北村総一郎・小野武彦・斉藤暁)。湾岸署の冴えない署長・副署長から定年後も指導員となって、画面に登場し続けた。

342205_100x100_009 それぞれの回の敵役も、話題の役者が顔を見せてフアンを喜ばせる。
 今回の「THE FINAL」では、捜査一課の刑事でありながら殺人犯となるのが香取慎吾、それを裏で操る警視庁管理官に小栗旬という顔ぶれ。交渉人・小泉考太郎もその一味だった。

342205_100x100_007  劇場版第2弾「レインボーブリッジを封鎖せよ!」('03)は、観客動員数1260万人、興行成績173,5億という驚異的な数字をあげた。
 この記録は、アニメを除く日本映画はまだ打ち破る事はできない。その名誉を抱えて、シリーズは終わる。

 しかし、今回の最終版にかけるフジテレビの意気込みは凄い。朝日新聞8面全面カラー広告をはじめ、メディアへの露出には目を見張る。
 テレビ視聴率3位から抜けだせないフジの意地を、そこに見る。

342205_100x100_003  15年前はまだ空地が多かったお台場は、大観光地になった。架空の湾岸署も現実の警察署となった。
 テラスからレインボーブリッジを眺めながら、'98年に公開された劇場版第1弾を思い出している。

 東宝スカラ座での鑑賞、一部音声不具合があったせいか、観客全員にお詫びとして招待券が配られた。なにか儲かった気がする。

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September 17, 2012

2166.敬老の日

142_640  今日は「敬老の日」。
 「国民の祝日に関する法律」によって、9年前からは9月の第3月曜日が祝日となった。いわゆるハッピーマンデー制度、皆さん連休を利用してお出かけください、である。

 面白くないのはお年寄りたち。これまでは15日に祝ってもらったのに、孫たちは我々を留守番にして旅行に出かける。
 そこで政府は、老人福祉法を改正して15日を「老人の日」に定め、以後1週間を「老人福祉週間」とした。
 という事で、何かとややこしい。

120917_017_640  私の住む東京・中央区は毎年人口が増え、今年9月現在で昨年プラス3,393人の122,798人となった。
 そのうち70歳以上は14,600人で、全体の12パーセントを占める。
 近隣に新築される高層マンションが人口増の背景だが、ここには30代・40代の働き盛りが入居するので、老人比率は毎年若干下がる。

 因みに、東京都の老人比率は15.5パーセント、全国は17パーセント。(老人福祉法上の統計は、65歳以上を高齢者として括るが、ここでは70歳以上としてデータを修正)

 働き盛りの増は、特別区民税の増収につながる。中央区ではこれまで街を支えてきた老人たちに、少しでも労いたいと予算を組む。

120917_007_640120917_006_640  中央区は、45年前から区内に住む70歳以上の老人に声をかけて「敬老大会」を開催してきた。
 会場は歌舞伎座・新橋演舞場・明治座と、区内にある三つの大劇場を順繰りに借り切る。

 敬老大会といっても、参加者の目的は観劇。今年は参加希望者が8000人を超えたので、明治座の昼の部を1週間借り切った。

120917_640 観劇は、明治座創業140周年を記念しての「藤あや子&坂本冬美・特別公演」 。
 山本周五郎原作「さぶ」を題材にした「おさんとおしの」を第1部に、続いては「冬美とあや子の麗しのショータイム」。休憩をはさんで4時間の公演だった。

 本来なら13,500円する1~2階席への招待だからたまらない。その上「幕の内弁当」付きである。
 ただし我々のような70代前半は、参加者の中では若輩の部類、当然ながら6,000円相当の3階席となる。

 「敬老の日」の招待は「観劇」だけではない。
 先週末には、近くの敬老館での寄席に招かれ、金原亭伯楽や柳家緑太らの落語に新内やお囃子というプロの芸を楽しみ、帰りは町内の子供たちからの花束のプレゼントである。

120917_014_640120917_011_640  プレゼントといえば、中央区からは「観劇招待券」に加え、「敬老買物券」が届いた。
 70~74歳が3,000円、75~98歳8,000円、99歳以上20,000円、そして喜寿・米寿の方は5,000円の「お寿司券」がプラスされる。
 さらに町内会からは、お赤飯と2,000円のお小遣いも届いた。

 昨年も、都内各自治体の状況を調べてみたが、どうも中央区だけが別格のようだ。
 今年は連れ合いも古希を迎えたので、それぞれダブルでいただいた。 

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September 16, 2012

2165.最強のふたり

29_004_640 2作目は、前号とはガラッと異なるヒューマン・コメディ。

 パラグライダー事故で首から下がマヒした大富豪と、ひょんな事からその彼の介護にあたるスラム出身のアフリカ系青年との、心温まる物語である。

341701_100x100_003 作品は、昨年の東京国際映画祭で「サクラ・グランプリ」を受賞したが、主役の二人も最優秀男優賞を受賞した。

 まずは大富豪役、フランスの実力派俳優フランソワ・クリュゼ(「PARIS」'09)が、車椅子に座りきりで難しい役を演ずる。

 一方の黒人青年、コメディアン出身のオマール・シー(「ミックマック」'09)が、天衣無縫な元ワルガキぶりを見せる。

341701_100x100_005 全く環境の違う世界で育った二人、片やクラッシックこちらはソウル、高級スーツにスエットスタイル、詩的会話にはシモネタで対応。
 個性と個性、異文化の衝突と融合が描かれていくのだが、決して説教くさくないのがいい。

 フランスはもちろん、ドツ、オーストリア、スペイン、イタリアと、ヨーロッパ各国で驚異の大ヒットを飛ばしたのもうなずける。
 東京の映画館も、ほぼ満席だった。
 ハリウッドでは、もうリメイク版の準備がはじまっているそうだ。

341701view002_2 モデルが現存している「実話」だというのもいい。

 障害者の元貴族の富豪とスラムの青年の友情物語を、ドキュメンタリーで知ったエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカッシュが、共同で脚本を書き監督した。
 20年前に出会った二人の映画青年は、いつも二人で短編映画を製作してきた。
 長編はこれが4作目、うち3本は今回も主役のオマール・シーというのも面白い。

 宣伝では、「最強のふたり」の監督が「最強のふたり」を撮ったとアッピールする。
 しかし原題は「UNTOUCHABLE」。身体的マイノリティーと社会的なマイノリティー、いまもアンタッチャブル視されるふたりのお話である。
 邦題に違和感を持つ人が多いのもうなづける。

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September 14, 2012

2164.コロンビアーナ

29_005_640  今週はフランス映画を2本見た。それぞれジャンルは違うが、ハリウッドとは違うテイストがある。

 1作目は「コロンビアーナ」、アクション・ドラマである。
 両親を惨殺した麻薬マフィアに復讐するために、殺し屋となった女性の運命を描く。
 シカゴを舞台に、FBIとCIAを手玉に取った美しき暗殺者のコードネイムは「カトレア」。生まれ故郷コロンビアの、美しい国花の名前である。

Intro_2   ヒロイン「カトレア」は、3D映画「アバター」('09)でナヴィ族の娘を演じ注目を集めた女優。しなやかで、精悍な素顔を見せる。

 彼女が狙う敵役は、「エリザベス ゴールデンエイジ」('09)でスペイン国王を演じたスペインのベテラン、ジョルディ・モリア。
 ヒロインの叔父で彼女を殺し屋として育てたのが、「ダイハード4」('07)のクリフ・カーティス。こちらはニュージランドの俳優である。

 映画の前半、ヒロインの少女役を演じたアマンドラ・ステンバーグが上手い。デンマーク出身の父、アフリカ系アメリカ人の母の間に生まれた彼女、目の前で両親を殺されても目の色変えずに敵を睨みつける姿、ゾーイ・サルダナへとうまくつないだ。

 監督は、スタイリッシュな映像と緊迫感満ちたハードアクションを得意とするオリヴィエ・メガトン。
 その映像感覚をプロデューサーのリュック・ベッソンに見出され、「トランスポーター3」を監督したテレビ・ディレクターである。

20120517003fl00003viewrsz150x_2  今回も製作と脚本は、リュック・ベッソン。
 「ニキータ」('90)で少女殺し屋アンヌ・バローを、「レオン]('94)では両親を殺されたナタリー・ポートマンと、過酷な世界での愛を描くハードボイルド・アクションを撮ってきた彼である。
 今回の「コロンビアーナ」は、この2作の姉妹編とも呼べる作品と言えよう。

 ベッソンも若い頃は自らメガホンを執ってきたが、ここ10数年は製作会社「ヨーロッパ・コープ」を率い、プロデューサーとして「TAXi」シリーズや「トランスポーター」シリーズなどのヒットを飛ばしてきた。
 一度は監督業からの引退を発表し、脚本・製作に専念して若手監督の育成に務めてきたが、最近親友のミシェル・ヨーの要望に応えて「The Lady」を監督して話題を呼んだ。

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September 12, 2012

2163.「東洋の白いやきもの」展

29_017_640  重要文化財「白天目」、美濃窯で作られた大名物の名器である。
 器の形は唐物の天目だが、本来黒釉で覆われるべきところを、志野の白濁の釉薬をかけた。
 この作品には、茶の湯の道具として日本独特の美意識を見る。

 最初の所有者は、千利休に茶道を伝えた武野詔鴎。堺の商人で茶の湯はもちろん、和歌・香・禅を学んだ室町後期の文化人である。
 やがてこの器は、尾張徳川家の祖・義直の手にわたり、現在は名古屋の徳川美術館が所蔵している。

29_016_640  特別出品された「白天目」をはじめ、出光コレクションを中心とした「東洋の白いやきものー純なる世界」を一同に並べたた展覧会が、丸の内の出光美術館で開かれている。
 12年ぶりという東洋白磁展は、テーブルウエアなど現在の「白いうつわブーム」のルーツを、判りやすく紹介する。

 「白いやきもののはじまり」は、中国・商(殷)の時代の白陶。もともとは陶器なのだが、白い粘土や白土を塗った器に透明な釉をかけて焼いたもので、唐時代の作品は「白磁」の一部とされている。

29_020_640  やがて中国北部で、陶石を用いた素地に透明釉をかけ高温(1300℃)で焼き上がる本格的な「白磁」が誕生、江南の景徳鎮白磁へと展開していった。(左は「白磁獣文弁口水注」唐時代・邢窯)

 宋から元の時代にかけて、景徳鎮は白磁の大産地になる。優れた陶土やカオリン土に恵まれ、また水運の便もあったほか、元の時代になると白磁は皇帝の「御用器」となったからである。
 支配者となったモンゴル民族にとって、「白」は純な色として尊ぶべき存在だった。

29_019_640_2  右の「蓮華文深鉢」(北宋・景徳鎮窯)も、「白磁」の名品である。
 純白の素地にかける透明釉に若干の鉄分が残るため、彫文様や型押文様の深い部分に青味が出てくる。
 純白を尊ぶ「白磁」としては失敗作だが、景徳鎮ではこれを逆手にとって「青白磁」「影青」と名付け特産品にしている。

29_018_640  展示は、「白土がけの庶民の白磁」「輸出で飛躍した明・清のブラン・シーヌ」「朝鮮王朝の白磁」「日本の白いやきもの」と続く。

 今回の展覧会は、出光美術館の「やきものに親しむシリーズ」の9回目。
 来月21日まで開催中。入館料は1000円。

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September 10, 2012

2162.THE GREY

29_003_640  石油採掘現場で働く男たちを乗せた飛行機が、アラスカの原野に墜落した。
 生き残ったのは7人。マイナス20度の大雪原は、オオカミたちのテレトリーだった。
 究極のサバイバル・アクションは、ここから始まる。
 酷暑の中で見た、極寒の映画。

341837_100x100_004 リドリー&トニー・スコット+ジョー・カーナハン+リーアム・ニーソン、「特攻野郎Aチーム」('10)でタッグを組んだヒットメーカーたちが、翌年再びタッグを組んだ。

 イギリス出身のリドリー・スコットは72歳、久々に「プロメテウス」で監督として腕を振るったが、今回は弟でメジャー監督のトニーと共に製作担当の裏方にまわった。
 残念ながらそのトニーは、先月サンペドロのヴィンセント・トーマス橋から身を躍らせて自殺した。享年68歳、不治の脳腫瘍を患っていた。

341837_100x100_001  脚本家で俳優、プロデューサーでもあるジョー・カナハンは43歳。監督としては、これが4作目である。

 そして北アイルランド出身のリーアム・ニーソンが、60歳という年齢を忘れさせる不死身のハンターを演じた。
 「シンドラーのリスト」('93)で主役を演じ、アカデミー賞にノミネイトされて国際スターとなった彼である。

341837_100x100_002_3  正統派アニマル・パニック映画といってもいい。白とグレイのコントラストが、観客に見えない緊張をもたらす。
 撮影は日系カメラマンのマサノブ・タカヤナギである。

341837_100x100_006  舞台となったアラスカの石油採掘現場は、その昔取材で訪れたことがある。
 12月、アンカレッジから石油会社のチャーター便で飛んだ先は、北極の氷原の滑走路だった。昼はグレイ、夜はオーロラ、オオカミの遠吠えをマイナス40度の中で聞いた。

341837_100x100_005  懐かしい光景に出会えるかと思ったが、実際のロケ地はカナダBC州北部のスミザース。コースト山脈の麓で極寒のアラスカを再現した。
 1月から3月までの40日間、マイナス20度の寒さをスタッフ・キャストは体験したという。

 ただ一つ、石油現場では決して酒は飲めなかったはずだが。それとも現在は・・・・。

Pro02  ラスト、長い長いクレジット・タイトルの最後にワンカット。見逃してはならない。

 別件だが、リドリー・スコットは今、東日本大震災をテーマにしたドキュメンタリーを製作中。上映は来月の予定だそうだ。

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September 08, 2012

2161.プンサンケ

29_002_640  「プンサンケ(豊山犬)」とは、希少な北朝鮮の狩猟犬。獰猛で力が強く、一度噛んだ獲物は決して離さない。

 そのプサンケ、と呼ばれる謎の運び屋が主人公。
 危険を冒し38度線上の非武装地帯を往き来して、離散家族の手紙やビデオレターを、時には人間まで運ぶ。

341300_100x100_005 その彼が、亡命した北の要人の愛人を、厳重な警戒の網をかい潜って南へ連れ出した事から、話は始まる。

 「おまえは北と南、どっちの犬だ」
 南北両方の工作員が入り混じり、やがて分断国家60年が生んだ悲劇へと突き進む。

341300_100x100_009  韓国映画界の異端、キム・キドクが3年間の沈黙を破って製作した作品。
 今回は、愛弟子チョン・ジュホンに監督を託した。

 キム・キドク監督作品「サマリア」('00)で、ベルリン国際映画祭銀熊賞。「うつせみ」('04)がヴェネチュア国際映画祭監督賞。「プレス」('07)はカンヌ国際映画祭パルムドール賞ノミネイト。

341300_100x100_008 以後、寒村に引きこもり隠遁生活をおくりながら書いたのが「プンサンケ」。
 その日常は、ドキュメンタリー映画「アリラン」で自ら描き、カンヌ〈ある視点〉部門でグランプリを獲っている。

 その脚本を読んだ韓国映画界の有志たちが、無報酬で参加してこの映画は完成している。

341300_100x100_002  主役のプサンケは、韓国の若手俳優ユン・ゲサン(「執行者」'09)。最後までセリフのない難しい役をこなした。
 愛人役のヒロインが、モデル出身のキム・ギュリ(「美人図」'08)。体当たりの演技である。
 韓国の俳優に混じって、キム・ドクの親友オダギリ・ジョーもカメオ出演している。

341300_100x100_004_2  スリリングなシーンの中に、キム・ギドク独特のブラック・ユーモアがある。
 プンサンケに誘拐された南北の工作員が、一緒に閉じ込められた密室の中で殺し合いを始めるお話。
 同じ民族が北と南に分断され、今も殺し合うという不条理に対する痛烈なメッセージである。

 「キム・キドク、お前は北と南、どっちの犬なのだ」。
 犬(プサンケ)は、噛み付いた獲物を決して離さない。

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September 06, 2012

2160.第97回二科展

120905_640_2  左の絵は、二科展入り口近くのメイン会場に展示されている、西健吉画伯の「浜の休息」(F130)。
 今年春から筆を執った新作である。

 旧友の西君から今年も招待状が届いたので、六本木・国立新美術館に出かけた。
 昨日が初日、オープニングセレモニーの直後だったので彼にも会え、自作や入賞作品について、解説してもらった。

120905_029_640  西君は高校の1年後輩、30年ほど前に二科会会員に推挙されたが、現在は14人の理事のひとりとして若い画家たちを育てている。

120905_017_640 今回も、彼が鹿児島で教えた祝迫正豊さんの作品「大地回想」(左の絵)が、会員賞に選ばれている。

120905_002_640  二科会は、在野の美術団体としては最も古い。
 1914年、石井伯亭・梅原龍三郎・有島生馬らパリ留学組の絵画・彫刻などの新進芸術家たちが設立した。
 戦後になると、デザイン部門・写真部門も発足、今日に至っている。

120905_020_640_2  戦後は、東郷青児や吉井淳二ら鹿児島出身の画家たちが理事長として会を運営してきたせいか、会員には同郷の画家たちも多い。
 今回も犬童次男さん(90歳)、鳥取政昭さん(85歳)ら大長老の作品が展示されていた。(左の絵は鳥取政昭「薩摩富士」)

120905_022_640  若手では同郷(南さつま)在住の画家、会友・有馬広文君の作品「記憶の淵Ⅴ」が。
 彼も西君同様に、南日本美術展で海老原賞を受賞してパリに留学した画家である。

120905_015_640  今年の二科展、絵画部門の応募総数は2,756点。うち入選した作品は726点、86人が初入選だった。
 その中から会場写真の作品、粕谷正一の「ハコブネ」が総理大臣賞に選ばれた。

 「第97回二科展」は、今月17日まで六本木・国立新美術館で。そのあと、名古屋~大阪~京都~広島~鹿児島~福岡と巡回する。

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September 05, 2012

2159.あなたへ

29_640 健さんがスクリーンに戻ってきた。チャン・イーモー監督の「単騎、千里を走る」('05)以来6年ぶりである。

51zgx3xt0el__sl160_ 中国ロケである想いを抱いた高倉健は、映画界から遠ざかっていた。しかし今回盟友・降籏康男監督の登場で、腰を上げた。
 若いスタッフたちに、巨匠・降籏の映画作りの真髄を引き継いでもらいたいとの気持もあった。

 もうひとつ「あなたへ」は、親友で「あ・うん」('89)のプロデューサーでもあった故・市古聖智が、長い間暖めてきた企画でもあった。
 こうして大人の映画「あなたへ」が完成した。

341849_100x100_002 高倉健が演ずる主人公は、富山刑務所の元刑務官。定年後も、嘱託の技官として、収容者の「ものづくり」を指導している。

29_001_640  彼は亡くなった妻(田中裕子)の遺言で、彼女の故郷の海に散骨するための旅に出かける。
 富山から長崎・平戸までのワンボックスカーの旅、途中で出会った人々(ビートたけし、草なぎ剛、佐藤浩市)、平戸で世話になった人たち(余貴美子、大滝秀治、綾瀬はるか、三浦貴大)との出会いを通して、愛妻の本当の想いを知る。

 芸達者たちが脇を固める。なかでもビートたけしと大滝秀治は、秀逸だった。

341849_100x100_005_3  キャンピングカーでの一人旅、不思議な男ビートは「放浪と旅との違いは、買えるところがあるかないかです。」と、山頭火の句を語る。
 老船頭の大滝は、高倉の散骨を見届け「久しぶりに、きれいな海ば見た。」と、呟く。

341849_100x100_004_2   富山、飛騨高山、京都、瀬戸内、兵庫・和田山、関門海峡そして平戸・薄香 、1200キロのロードムービーである。
 ワンカット、ワンカットと計算しつくした風景の映像が美しい。天空の城、和田山の竹田城址の川霧には息をのむ。

51g5p1zpvwl  降籏監督と高倉健とのタッグは、「単騎、千里を走る」の共同監督も含め20本になる。

 高倉主演の「昭和残侠伝」('65)で助監督を務めた降籏は、翌年「地獄の掟に明日はない」で初めてタッグを組んだ。
 以後「新網走番外地シリーズ」('69~)、「駅STATION」('87)「居酒屋兆治」('83)「あ・うん」('89)と名作を残してきた。
 そして「鉄道員ぽっぽや]('99)は、日本アカデミー賞を総なめする。

51nlq2gwel__sl160_  今世紀に入っての最初の作品「ホタル」('01)も、話題をよんだ。
 この作品に田中裕子が、妻役として登場した。
 降籏作品では、すでに「夜叉」('85)で顔を会わしているが、今回同様に夫婦の静かな絆をしっとりと見せてくれたのは、初めてだった。
 不器用で寡黙な男を自認する高倉には、ピッタリの役だった。

 高倉健今年81歳、降籏監督も78歳。
 二人のタッグによる「大人の映画」、「古きよき時代の日本映画」に、次は何時出会う事が出来るのだろうか。

 名画座「銀座シネパトス」では、21日まで「高倉健名作シリーズ」を上演している。16日には降籏監督のトークショーも予定されている。

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September 03, 2012

2158.バーナード・リーチ展

29_640  「生涯を通じて、私は東洋と西洋の間の、ひとりの使者でした」
 東西文化を融合したことで知られるイギリスの陶芸家、バーナード・リーチの生誕125年を記念する展覧会が、日本橋・高島屋で開催されている。

29_014_640  バーナード・リーチは、ロンドンで版画を学んだ後、明治末に22歳で来日した新進芸術家である。
 幼少のころ彦根や京都で過ごした彼は、日本文化に強い憧れを抱いていたからだった。

 来日後は、東京で柳宗悦、志賀直哉、里見弴ら「白樺派」の作家たちにエッチングを教えながら交流を深め、楽焼の絵付けの体験を契機に作陶を始める。

Img04Img11  左の「楽焼走兎図大皿」(1919年)はその時代の作品で、東京・麻布の自宅に作った窯で焼いたもの。
 その隣「灰釉鉄絵手付醤油注瓶」(1918年)とともに、今回会場に展示されている。

 後に人間国宝・文化勲章を受章した富本憲吉と知り合ったのもこの頃で、建築や室内装飾をロンドンで学び帰国した彼を誘って、6世尾形乾山に入門している。
 富本は、その後奈良に窯を築き著名な陶芸家として活動していく。彼が陶芸の道に転進したのは、バーナード・リーチとの交遊からだった。

29_015_640_2  リーチは、10年間日本で本格的な陶磁器作りを学んだ後、浜田庄司を伴って帰国する。
 そして、イングランド西南端の港町セント・アイヴスに東洋式の登り窯を築き、リーチ・ポタリーを開いた。

Img07Img10 左は「鉄絵組合陶板 生命の樹」(1928年)。セント・アイブスの窯で作陶した初期の作品。
 その隣「黒釉花瓶」(1965年)は、リーチ78歳頃のもの。

 「名もない工人たちのつくった日常の雑器にこそ本来の美がある」
 日本で柳宗悦が提唱した「民芸運動」に共鳴したリーチは、たびたび来日している。

29_003_640  1934年(昭和9)には、浜田庄司らと益子や京都・松江などで作陶。戦後になるとたびたび来日して、多くの陶工たちと交遊しながら、各地の窯で制作を重ねた。

 1979年、92歳で逝去。セント・アイヴスの工房は、今も彼の孫たちの手で維持されている。

29_007_640  今回の「バーナード・リーチ展」には、セント・アイヴスでの作品はもちろん、益子・出雲・小鹿田(おんだ)など日本各地で作陶した数々が、彼と親交の深かった個人が所有する物をふくめ、およそ100点が展示されている。

 またエッチングの大家でもあった彼の素描・版画20点も合わせて並んでいる。

 「生誕125年 バーナード・リーチ展」は、来月10日まで日本橋高島屋で。19日からは、横浜高島屋に巡回。入場料は800円。

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September 01, 2012

2157.プロメテウス

28_013_640_2  カンヌ国際映画祭で新人賞を受賞した「デュエリスト/決闘者」('77)に始まり、アカデミー賞作品賞受賞の「グラデュエイター」('00)、「ハンニバル」(''01)「ブラックホーク・ダウン」('01)「アメリカン・ギャングスター」('07)など、イギリスの巨匠リドリー・スコットの監督作品はよく見ている。
 ほぼ同年輩、BBC出身という事で、同業者としてのシンパシーを抱いているからだろう。

51pqpxdxvkl__sl160_  そのスコット監督のもう一本の問題作が、SFホラー映画「エイリアン」('79)だった。
 宇宙船に潜り込んだあの異星生物エイリアンに、乗組員達が犯されていく恐怖、タコの化け物のような軟体動物・・・を思い出す。
 「プロメテウス」は33年ぶりに登場した後日譚、いや前日譚である。

341641_100x100_001   「人類はどこから来たのか」と宣伝コピーは、人類起源の探索を強調するが、ストーリーはそれほど衝撃的ではない。

 「地球の人類」を創造した「異星の人類」が、生物兵器として開発したのが「エイリアン」。
 ところが異星の人類は、軍需工場だった惑星で自ら製造したエイリアンに滅ぼされてしまった。
 映画は、その惑星に着陸した宇宙船「プロメテウス」号の悲劇を描いていくのである。

341641_100x100_016_3 オープニングの幻想的なシーンから、洞窟壁画発見のシーン、話はメカニックな宇宙船とその船内へと流れ、未知なる宇宙へのロマンをと展開して行く。
 「パイレーツ・オブ・ザ・カビリアン」シリーズを撮った、ポーランド出身のカメラマン、ダリウス・ウオルスキーの映像は素晴らしい。

341641_100x100_012  しかし、ストーリーの方は陳腐だ。人類の起源などと宣伝文句に釣られて見た人ほど、消化不良になってしまう。

 それよりもこの30数年、いかに映画技術、VFXやCG技術が進化したか、その技術によって生み出される映像の素晴らしさに浸たる方が良い。

341641_100x100_008  国際色豊かな俳優たちが、「プロメテウス」号の乗組員を演じているので、その顔ぶれだけを紹介しておこう。

 主役の考古学者が、スエーデン女優のノミオ・ラバス(「ミレニアム・シリーズ」でドラゴン・タトゥーの女役)。
 その恋人の科学者、イギリス生まれでオーストラリアの俳優ガイ・ピアーズ(「英国王のスピーチ」'10)。
341641_100x100_003  宇宙船のスポンサーの娘で監督官、南アフリカ出身のオスカー女優のシャリーズ・セロン(「モンスター」'03)。
 スポンサー会社が造ったアンドロイド、ドイツの俳優マイケル・ファスペンダー(「シェイム」'11でヴェネチア国際映画祭男優賞)。

341641_100x100_004  以上4人の主要メンバーが、エイリアンとどう関わっていくかが、本題。

 宇宙船の名前、タイトルの「プロメテウス」とはギリシャ神話に登場する巨人神。
   人類に「火」という贈物を与えたため、神々から恐ろしい罰を与えられた。
 つまり人類が、神に逆らったらどうなるか、である。

341641_100x100_011  朝日新聞に、「プロメテウスの罠」と題する調査報道が昨年から掲載されている。
 人類が「火=原子力」を手にした時、神は何を怒ったのだろうか。

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