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November 25, 2012

2201.誓願の森

121119_023_640_3  霧島連山栗野岳の中腹標高750m、カシワやコナラの林の中に、「誓願の森」の碑がひっそりと立つ。
 その向かいにあった「栗野原農場」の看板は、もうほとんど読めない。

121119_002_640_2  今回の帰郷のもう一つの目的が、この地での墓参だった。
 8月にこの世を去った開拓農民にして求道者、薬師寺翁に別れを告げるためである。

121119_044_640  薬師寺忠澄、享年92歳。東大農学部に学ぶが、学徒で陸軍航空隊に。
 戦後北海道で酪農を修業、様々な障害を乗り越え1952(昭和27)年栗野岳中腹に入植。
 その年彼は32歳、妻新子25歳、根釧原野で生まれた二人の子供を抱えての入山だった。

 「農学を学んだ者として、農業を通じて社会に奉仕する事が使命。日本の農業から取り残された高原開拓、それを酪農で成し遂げよう」
 それが彼の「誓願」だった。

121119_015_640121119_021_640   水を山から引き、ランプだけの苦しい生活が12年も続く。
 その間夫妻は、馬一頭と人力だけで、ササやカヤの原野3haを開墾、乳牛を飼った。
 その牛から乳を搾り、麓まで函を担いで下りてきたのは、入植6年目だった。 

121119_009_640121119_004_640_2    薬師寺さんは「求道」の人だった。
 「人の念いは必ず達せられる。もし達せられないことがあれば、それはその人の念いが足りないからだ」
 それを「初一念」という。
 座禅を組み仏像を彫りながら、彼は私によく語ってくれた。

 彼の人望を慕って、多くの若者たちが山に登ってきた。国内だけでなく海外からも、人生に悩む人たちが訪れた。
 彼は、彼らを無条件で受け入れた。

121119_640   私が、薬師寺夫妻に始めて会ったのは1963年の秋だった。彼の高原開拓にかける「念」を、ラジオのドキュメンタリー・ドラマで紹介しようと企画したのだ。
 山道を10キロ登って夫妻の山小屋に泊り込み、ランプのもとで聞き書きを続けた。
 
 それから半世紀、鹿児島を離れてからも帰省するたびに栗野の山に登った。薪ストーブを囲み日本の農業の将来や若者への期待を夜を徹して語り合う。
 20回を超える訪問は、3年前が最後となった。翌年妻・新子さん逝去、そして今年彼は身罷った。(写真は10年前のお元気な夫妻と筆者)

121119_011_640  薬師寺忠澄、彼の生涯を綴るには、枚数が幾らあっても足りない。
 エピソードをふたつだけ記そう。

 地元の人たち懇請で、町長を一期だけ引き受けた。条件は、夜の宴席を全て断る事だった。「牛飼いの朝は早い」が口癖だった。

121119_020_640_2  10数年前、跡継ぎもいないので酪農を辞めた。牧場の半分を県に提供し、そこは鹿児島県立美術館「霧島アートの森」となった。
 残りの牧草地には、夫妻で毎年木を植えた。それはこの地を、再び森に還すためだった。それは自然を愛する妻・新子さんの願いだったという。 

121119_018_640_2   「わたしは名もない一高原開拓者
 若き日の念(おもい)に憑かれ
 果てしなくさまよう

 苦しみの日々、喜びの時々
 いずこからともなく聞こゆ
 『それでもなお』と

 移りゆく四季の流に
 小鳥のごとはたまた嵐のように
 わが生命(いのち)
 奏でよ画け
 四次の芸術を」

 この詩は、薬師寺さんが栗野高原に入植した時に詠った「念」。
 彼の半生を綴ったドキュメンタリー・ドラマ(連続12回)の冒頭は、必ずこの言葉から始まった。

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Comments

Webでたまたま見つけました。こどものころ、親父の高校時代の友人というの¥薬師寺さんの牧場にお邪魔し、一晩泊めていただきました。
とても懐かしく思います。
ドキュメンタリドラマの題名を教えていただけないでしょうか?
よろしくお願いいたします。

Posted by: 岩本憲俊 | August 14, 2017 03:34 PM

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