« February 2014 | Main | April 2014 »

March 30, 2014

2452.あなたを抱きしめるまで

Img473_640 昨年ローマ法王フランシスコは、アイルランド出身の80歳の女性フィロミナ・リーをヴァチカンに招き、かってカソリック教会が犯した偽善行為について遺憾の意を伝えたという。

346801_100x100_007  そのきっかけとなった映画が、フィロミナを主人公に描いた「あなたを抱きしめるまで」(原題・フィロミナ)。
 今年のアカデミー賞「作品賞」「主演女優賞(ジュディ・ディンチ)」「脚色賞(スチーブ・クーガン&ジェフ・ポープ)」「作曲賞(アレクサンドル・デプラ)」にノミネイトされた。

 原作は、元BBC記者でブレア首相の広報担当も務めた マーティン・シックススミスが書いた「フィロミナ・リーの失われた子ども」(2009年刊)。
 10代でシングルマザーとなり、引き離された息子を捜す女性の実話である。

346801_100x100_008 舞台はアイルランドの田舎町、男に弄ばれて妊娠した主人公は世間の冷たい視線から逃れるため、父親の手によって修道院に預けられた。
 ここで生まれ3歳になった息子を、修道院は金銭と引き換えにアメリカ人の養子に出す。
 50年間隠し続けてきた息子の存在に耐えかね、彼女は元記者マーティンと息子捜しの旅に出かける・・・・・・。

346801_100x100_005 原作を読んで感動し映画化を進めたのは、イギリスの俳優でマーティン役を演じたスティーブ・クーガン(「メイジーの瞳」'14)。
 彼は自ら脚本も書き(ヴェネチア国際映画祭脚本賞受賞)、「クイーン」('06)でアカデミー賞作品賞ノミネイトのベテラン監督、スティーヴン・フリアースに託した。
 

346801_100x100_004 フリアース監督は、信心深い田舎の平凡な主婦と無神論者でインテリのジャーナリスという、全く共通点ゼロの二人のロード・ムービーに仕上げた。
 その旅は、シリアスな事実を背負いながらもユーモアたっぷりの珍道中で、イギリスらしい皮肉と優しさに溢れる。

346801_100x100_006  映画の見どころは、何といってもイギリスを代表する女優ジュディ・ディンチの演技だろう。
 子供を想う母親の愛・不安・戸惑い・贖罪、自分を騙した修道女を怒りでなく赦す事で子供に報いる姿、モデルとなったフィロミナに何回も会って役のイメージを膨らませたという。

346801_100x100_003  この映画が浮き彫りにするのは、現代におけるカトリック教会の姿勢である。
 本来、弱者・貧困者に寄り添い人間を救済すべき宗教が、硬直化し保守的になってしまった現実である。

 2年前に、同じくイギリスの監督ジム・ローチが告発した映画「オレンジと太陽」。
 こちらはイギリスの養護施設に預けられていた子どもたちが、オーストラリアに強制移民させられ、修道院で性奴隷的な扱いを受けている事実を暴いた。

 そしてアイルランド、今もなお子供に逢えない母親の数は、6万人といわれている。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

March 28, 2014

2451.アンディ・ウォーホル展

Img481_640 ポップアートの旗手アンディ・ウォーホルの没後25周年をきっかけに、3年前から始まった「永遠の15分」アジア巡回展。
 シンガポール~香港~上海~北京を経て、先月から最終地の東京で開催されている。

002_640 会場は六本木・森ビル53Fにある森美術館、ウォーホルのアイコン的存在といわれるシルクスクリーンを中心に、初期から晩年までの作品700点が並んだ。

006_640 005_640 会場入り口には彼自身がペイントしたBMWアート・カーが置かれ、当時の映像が映し出されていた。

Th6_640  アンディ・ウォーホル(1928~1987)は、20世紀を代表するマルチ・アーチスト。
 スロバキアからの移民の子としてアメリカ・ピッツバーグで生まれ、カーネギーメロン大学で広告芸術を学ぶ。

Th1_640  卒業後(1949年)は、雑誌「ヴォーグ」などで商業デザイナーとして働き、60年代に入るとシルクスクリーンの手法を生かしたポップアートの世界に進む。

Th_640  その代表的な作品が「マリリン・モンロー」(左)、1962年急死したモンローをモチーフに、写真をシルクスクリーンでカンバスに転写した。

 反響を呼んだこの作品をはじめとして、エリザベス・テイラーやジャクリーヌ・ケネディを扱った「スターの肖像シリーズ」を発表する。

Img482_640_2Img486_640  さらに大量生産・大量消費を象徴とする「キャンベル・スープ」や「ドル紙幣」シリーズ、木にプリントを施して大量生産された日用品のダンボール箱そっくりに再現した彫刻作品(1964年)など、現代美術史に残る作品を次々と生み出していった。

 彼が時代に敏感だったことを表している作品の一つが、Th3_640_5 「毛沢東のポートレイト」(右)。
 1972年のニクソンの訪中に合わせて、さっそく製作したもの。

Img483_640_2 左は、レノックス・ミュージアム・ボードにスクリーンプリントした「ムーンウォーク」、彼の晩年の作品である。

 面白かったのは、会場内の一部屋を占めて並んだ私的アーカイブ「タイムカプセル」。
 彼は書簡や雑誌、贈り物など毎日の生活で目にするものを、同じ形のダンボール箱に保管している。

Img488_640_3  その中には、1974年に来日した折に蒐集した日本関連の品々があった。
 当時の週刊誌、歌舞伎や能のプログラム、北斎漫画や写楽の浮世絵、富士山に仏像、浅草の写真とぎっしりと詰まっている。

Img489_640  ここでウォーホルに関するエピソードをひとつ。
 1968年、彼はサロンの仲間で映画の脚本も書いてもらったこともあるバレリー・ソナラスに狙撃され、瀕死の重傷を負っている。

 事件は、極左フェミニストでもあった彼女のポップアート的な行為で、一連の出来事は「アンディ・ウォーホルを撃った女」のタイトルで'95年に映画化された。

 ミック・ジャガー(ローリング・ストーン)やトルーマン・カポーティ(作家)など、幅広い交遊をもち、時代の寵児として君臨した彼らしい事件である。

013_640 008_640_2  およそ1時間、ポップアートの世界にひたったあとは、ニューヨークスタイルの「アンディ・ウォーホル・カフェ」で一休み。
 「将来、誰でも15分は世界的な有名人になれるだろう」と語る、彼のセリフをコンセプトにした展覧会を反芻した。

 「アンディ・ウォーホル~永遠の15分~」展は、5月6日まで六本木・森美術館で。入場料は1500円。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

March 26, 2014

2450.グロリアの青春

Img469_640  アメリカの女性歌手ローラ・ブラニガン(1957~2004)のデビューアルバム「グロリア」(1982年)。
 一人の女性の日常を優しくやるせなく綴ったこの唄は、とくにラテン・アメリカで大ヒットした。

347685_100x100_012_2  この唄に乗せて、「一人の中年女性」の前向きの生き方をパワフルに描いたのが「グロリアの青春」。
 
 日本では上映される機会の少ない、南米チリの作品である。

 58歳のヒロイン・グロリアを演じたのは、劇作家・舞台監督でもあるチリの大スターのバウリーナ・ガルシア。
 ラテン・アメリカのメリル・ストリープといわれる彼女は、ヌードや赤裸々なセックスシーンも厭わない演技で、ベルリン国際映画祭銀熊賞(主演女優賞)を受賞した。

347685_100x100_005 チリの首都サンチャゴ、キャリアウーマンのグロリアは一人アパートで暮らす。
 夫とは10数年前に離婚、息子も娘も独立して家を離れた。

347685_100x100_002  楽しみは、会社帰りに立ち寄るクラブでの酒とダンス。
 中年独身者だけのクラブで、意気投合し一夜を過ごしたのが元海軍将校の実業家(セルビオ・エルナンデス)、二人は理想的なパートナーとして互いに「青春」を楽しむはずだったが・・・・。

347685_100x100_004 脚本を書き製作・監督を務めたのは、チリの俊英セバステャン・レリオ39歳。
 厳しい時代の中で、戦い、唄い、踊り、決して人生をあきらめなかった自分の母親たちの世代を、大女優ガルシアに託した。
 彼のデビュー作「聖家族」('05)に続くシリーズ4作目である。

347685_100x100_003_2  キス・セックス・ヌード、嫉妬・裏切り・ナンパ、切ないラブロマンスは、決して若者たちだけの「特権」ではないことを、レリオ監督は強調する。
 孤独を恐れず、誰に媚びることなく「第2の青春」を生きてきた母親たちへのオマージュ、バウリーナ・ガルシアが体当たりで演じたのも、そんな仲間たちを見てきたからだろう。

347685_100x100_011 ボレロ、ロマンチック・バラード、サルサ、クンピア、ロック、ボサノバと、グロリアが口ずさむ唄は80年代のヒット曲。
 ローラ・ブラニガンの「グロリア」が、時代の空気を伝えていく。

 「可笑しくて、希望に溢れる作品。素晴らしい!」と評したのは、ハリウッド・リポーター誌。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

March 24, 2014

2449.グランドピアノ

Img468_640  至高のグランドピアノ「インペリアル」、このミステリー映画の鍵を握るのはその「Model1290」である。
 音楽の都ウイーンで1828年に創業された、ベーゼンドルファー社の最上級モデルで、通常の88鍵の下に11鍵の低音部を持つ。
 この鍵盤は、誤演奏を防ぐために黒く塗られているのだ。

 物語は、シカゴのコンサートホールという「密室空間」で展開する。
 恩師の追討コンサートで5年ぶりに「インペリアル」を弾く天才ピアニストが主人公。

348008_100x100_002_2  彼は、恩師と自分でしか弾くことの出来ない難曲「ラ・シンケッテ」を、一音でも間違えたら命はないと、姿なきスナイパーに脅迫された。

 この曲は、5年前にミスがあってステージ恐怖症に陥った作品、彼はこの究極の難曲を完奏出来るのだろうか。
 貴賓席で聞く愛妻を前に、彼の指は「黒鍵盤」の上に・・・・。
 「狙われた黒鍵」、邦題はそれが副題になる。

348008_100x100_005_2 ストーリーは単純だが、コンサートとピアノに隠された謎というアイディアは面白い。
 音楽がクライマックスを迎えると同時に、映画もまたクライマックスになる。

 アメリカの脚本家ダミアン・チャゼルのオリジナルだが、版権を買ったのは「レッド・ライト」('12)を製作したスペインのプロダクション。
 その際に監督を務めたロドリゴ・コルテスが今回はプロデューサーとなり、出演者だったエウヘニオ・ミラが監督にまわった。
 ミラは音楽家・作曲家の方が本業で、問題曲「ラ・シンケッテ」は彼自身が作曲したピアノソロである。

348008_100x100_001 スタッフがスペイン人たちで撮影もバルセロナで行われたが、出演者にはハリウッドで活躍している俳優を配した。

 主人公の天才ピアニストはイライジャ・ウッド(「ロード・オブ・ザ・リング」'01の主役)、女優の妻がケリー・ピシエ(「アルゴ」'12)。

348008_100x100_004  映画の前半は声だけの出演だったが、脅迫者のスナイパーをジョン・キューザックが演じている。
 このブログ2442号で紹介した「大統領執事の涙」で、ニクソン役だった彼である。

 本物の交響楽団に交じってピアノソロを弾くイライジャ・ウッド、音楽家でもある監督のレッスンを受けて、吹き替えなしでこの役をこなした。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

March 22, 2014

2448.春・浜離宮

002_640130319_003_640120315_067_640 

 浜離宮恩賜庭園の「菜の花」。
左から今年・昨年・一昨年の写真。

 毎年、春分の日前後に浜離宮を散策して、春の花々を撮る。
 その年の「季節」の様子が、比較できるからだ。

 庭園の係員によると、一昨年に比べて20日ほど早かった昨年並みだが、春の大雪で押しつぶされてしまった場所があるという。(写真右下部分)

023_640_2 085_640_3 071_640
 「ハモクレン」「カンヒザクラ」「サンシュ」。
ここ数日の晴天で、一斉に花開いた。


008_640 077_640 020_640 032_640
 今日は、「ミラーレス・カメラ」(PENTAX Q)でボケコントロールのテスト。
センサーが小さいので、きれいに背景をボカすのは難しい。

040_640 041_640 042_640 043_640
 今回も、「ナチュラル」「極彩」「モノカラー」「クロスプロセス」など、フイルターをかけて、同じ映像を比べみた。

 レンズは、ZOOM 5~15mmF2.8~4.5、35mm判に換算すると27~83mm相当。

090_640056_640 日当たりのよい場所の「ソメイヨシノ」は、あと数日で開花する。
 4月中旬には他の「サトザクラ」も満開となるので、また出かけよう。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 20, 2014

2447.それでも夜は明ける

Img467_640_2 左のポスターに書かれた通り、今年のアカデミー賞で「作品賞」を受賞した映画「それでも夜は明ける」。
 9部門にノミネイトされ、作品賞のほか「助演女優賞」(ルピタ・ニョンゴ)「脚色賞」(ジョン・リドリー)にも選ばれた。

Stevemaqueen  撮ったのはカリブ海奴隷の末裔、イギリス出身の黒人監督スティーブ・マックイーン、数々の賞を受賞した「SHAME」('11)に続く長篇3作目だった。
 黒人監督の作品が選ばれたのは、アカデミー賞史上初めてである。

 原作は南北戦争8年前の1853年に出版されて、ベストセラーになったアフリカ系アメリカ人ソロモン・ノーサップの回想録である。

Pic4  生まれながらの「自由黒人」だったバイオリン演奏家の彼が、ワシントンで拉致され南部の農場で奴隷としてこき使われる。
 その過酷な12年間の生きざまを、怒りをもって記した手記である。

 そこには「絶望の中での生きる力」「人間として拒否された中での従属の意味」、そして「人間の残酷さ」が描かれていた。

Pic2 主人公ソロモンに扮したのは、イギリスの俳優キウェテル・イジョフォー (「ソルト」'10)。
 アカデミー賞主演男優賞にもノミネイトされた彼は、悲惨な日々の中でも雇い主にも一目置かせる、品性と知性を備えた黒人を演じた。

347686_100x100_006_2  奴隷を酷使する白人農場主を、二つのパターンで見せた。
 牧師でもあり奴隷に同情を寄せる最初の雇用主をベネディクト・カンバーバッチ(「8月の家族たち」'13)、残虐無比・選民意識の強い異常性格者の農場主をマイケル・ファスペンダー(「SHME」'11)と、イギリス人・アイルランド人俳優でキャスティングした。

347686_100x100_004 奴隷制がキリスト教徒の道徳に反していると頭では理解しながらも、基本的には制度を支持する牧師。
 優秀な奴隷と認める心の弱さと自らの無能さを隠すため、奴隷を鞭打つことでしか生きられない白人。
 二人の俳優が、対比して演じる。

347686_100x100_003  そして奴隷制度の非人間性の極みとして、農場主に性的虐待を受け続ける女奴隷を配する。

 その役、アカデミー賞助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴは、1000人近いオーディションの中から選ばれたケニアの女性。
 ドキュメンタリー映画監督でもある彼女は、長篇初出演の名演技だった。

347686_100x100_007_2  アメリカ南部のねっとりとした自然と実在する農場で撮ったた映像は、19世紀のアメリカを見せると同時に、それは決して過去の事ではないことを示唆する。

 「奴隷犠牲者追悼国際デー」(3月25日)を記念して、先日この作品が国連本部で上映された。
 終了後のシンポジュウムでは、現在世界各地で奴隷状態に置かれている人々は2.100万人いることが明らかにされた。
 とくにアフリカでの内戦で、無理やり兵士にさせられている子供たちなど、さまざまな形で非人間的な生活が強要されている実情が明らかにされている。

347686_100x100_001_3  「それでも夜は明ける」は、プラッド・ピットらハリウッドのリベラル派映画人たちがプロデュースした作品である。
 しかし「アメリカの恥部」を隠さず見せるために、キャスト・スタッフをイギリス人とせざるを得ない現実も、見え隠れする。

 それだけにこの作品が、今年の「アカデミー賞」を受賞した意味は大きい。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

March 18, 2014

2446.LOVELACE

Img459_640 アメリカのポルノ映画史上最もヒットした作品「ディープ・スロート」。
 1972年に公開された時は、ジャクリーヌ・ケネディやサミー・デイヴィスJrなどセレブがこぞって観た伝説の作品といわれる。

Th その主役を演じたのが、敬虔なカトリック教徒の家に育ったリンダ・ラヴレース(1949~2002)。
 夫に強要されて出演した7日間だけの撮影で、「セックス革命のシンボル」という「一生の刻印」を負ってしまう。

 
 DV加害者だった夫と離婚後、「反ポルノ」「DV被害者救援」の社会活動家となった彼女の切ない生きざまを、自叙伝をもとに映画化した。

347500_100x100_002  話題となったのは、ラヴレースに扮したアマンダ・セイフライドの体当たり演技。
 「レ・ミゼラブル」('12)のコゼット役など、清純な女優として知られる彼女は、複数の女優が断ったこの役を「大胆」に、そして「勇敢」に演じた。

 監督がロバート・エブスタン&ジェフリー・フリードマンのコンビだったのも、話題のひとつである。
 アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を2回も受賞した彼らは、実在する関係者を徹底的に取材し、変態的なセックスを強要され性奴隷とされたポルノ女優の真実に迫った。

347500_100x100_004  ラヴレースに関わる脇役には、ベテラン俳優たちが配される。

 雑誌「プレイボーイ」の当時の編集長ヒュー・ヘフナーにジェームズ・フランコ(「127時間」'10でアカデミー賞ノミネイト)、DV夫にピーター・サースガード(「17歳の肖像」'09)。

 母親は、かってセクシー女優として有名だったシャローン・ストーン(「カジノ」'95でアカデミー賞ノミネイト)。
 女性ジャーナリストにクロエ・セヴィニー(「ボーイズ・ドント・クライ」'99で同じくノミネイト)。

347500_100x100_003  「ディプ・スロート」は、女性の喉の奥にあったもう一つの「コア」をめぐって話が展開するいわばパロディ、或いはコメディ映画といっていいが、製作費はわずか550万円。
 ところが世界中で話題となって大ヒッして600億円を稼いだが、その大部分がマフィアのコロンボ一家の懐に入ったという。

 因みに、セイフライドの出演料は12万円、相手役のポルノ男優ハリー・リームスはわずか10万円の出演料だったらしい。

347500_100x100_005  またこの映画が日本で公開されたのは3年後の1975年、ズタズタにカットされ「ミス・ジョーンズの背徳」と繋いで上映された。
 私も勤務地の札幌で見たが、ラストの「花火」「洪水」「教会の鐘」シーンしか覚えていない。

 映画がアメリカで公開された同じ年に、ニクソン大統領の「ウオーターゲート事件」が発生した。
 事件を暴露した「ワシントン・ポスト」の編集長は、ホワイトハウスの内部告発者を映画に因んで「ディープ・スロート」と名付けている。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 16, 2014

2445.歌集「平城山」

002_640 歌集「平城山」が届いた。
 歌人・森秀人が、奈良・大和を舞台に詠んだ歌を中心に、自ら精選した作品500首が並ぶ。

 「横たわる乳房のごとき古墳群
       闇をはらみてひそかに息づく」

 「箸墓は雪化粧して静まれり
      女王卑弥呼に秘めたる恋は」

 「サンスクリットの音伝うとう
      達陀(だったん)の炎は時空を超えて弾ける」

 「凛凛たる寒気を底に法華堂
       吐く息白く仏に向かえり」

 「美しき寡婦のごとくに東塔は
      裳階スカートひらめかせ立つ」

 「古墳群」「阿修羅像」「箸墓古墳」「斑鳩」「お水取り」「練行衆」「若草山」など、50のタイトルに10首づつ2000年から2009年までの作が、ほぼ年代を遡るような形で配置される。

 森秀人は元放送局の社会部記者、早稲田大学卒業後初めて赴任したのが奈良だった。
 そしてこの地に10年住む。
 定年が近づいたころ、彼は希望して再び奈良へ転勤した。そして奈良放送局長を最後に退職する。

Img470_640       
 「リタイアが秒読みレベルに入ってきた
        心静かに古事記なぞ読む」

 「誰もないパンとコーヒーの朝もよい
       三十四年の勤めを終える」

 「団塊の末端世代に列なりて
       定年列にも静かに並ぶ」

 石舞台を訪ね、大仏殿を詠みながら、その行間に並ぶいくつかの歌。
 忙しい記者から管理部門にかわり、久々に歌を詠み始めた彼の心情が伺える。

Img472_640 「竹島も独島(トクト)もなく泳いでいる
      魚眼に映る人間世界」

 「日本とアジアの思いは交わらず
      戦後還暦の山茶花は咲く」

 「拉致のこと帰国船のことこの海は
         見つるすべてを群青に消す」

 韓国・朝鮮に関心を持った元社会部記者の片鱗が、彼の地と古代から結びついていた「平城山」を詠む。
 歌人・森秀人、私より10年若い元同僚である。

 表紙の「斑鳩・法起寺暮秋」と裏表紙「路傍の石仏」の写真は、元映像カメラマンの友人・白石文人が撮ったもの。
 彼もまた、「平城山」の自然と仏に惚れ込み、毎年この地に通う。

 歌集「平城山」は、東京図書出版刊。定価1000円(税別)。

 (歌集ではそれぞれ一行に収められている歌だが、ブログ画面の都合上、私の判断で行替えした)                       

| | Comments (1) | TrackBack (0)

March 14, 2014

2444.ネブラスカ

Img458_640_2 「アバウト・シュミット」('02)で世界中を笑いで包み、「サイドウエイ」('04)「ファミリー・ツリー」('11)ではアカデミー賞5部門ノミネイト、脚色賞をそれぞれ受賞したアレクサンダー・ペイン監督。
 欲や愛憎、見栄や劣等感など人間の感情の襞を、シニカルな笑いで綴るヒューマン・ドラマの名手である。

347524_100x100_003  その彼が故郷ネブラスカを舞台に、父と息子の愛すべき旅を描いたロード・ムービーが、今回の作品だ。

 100万ドルの賞金に当たったと信じ込み、モンタナ州から1200キロはなれたネブラスカ州まで歩いていこうとする父親。
 まだらボケの父親を何回も家に連れ帰った次男は、父親に「インチキ」を理解させようと車でネブラスカへ向かう。

 途中立ち寄った両親の故郷、父親の旧友や親せきと遭遇する中で「両親の秘密」「父親の青春」を知る。
 
 それは「幻の100万ドル」に拘った父親の、本当の気持ちを理解するきっかけとなった。

347524_100x100_006 この作品で、カンヌ国際映画祭最優秀主演男優賞を受賞したブルース・ダーン(77歳)の、演技を超えた「演技」が光る。
 それは戦争で傷つきながらも黙々と働いてきた老人たち、アメリカの田舎のどこにでもいる老人たちの姿である。
 

347524_100x100_005 「肝っ玉かあさん」のジューン・スキップ(84歳)も素晴らしい。「アバウト・シュミット」にも出演した彼女は、ブロードウエイで活躍した舞台女優だけに、その演技力は確かだ。

 そして息子ウイル・フォーテ(「ロック・オブ・エイジス」'12)、旧友ステイシー・キーチ(「ボーン・レガシー」'12)。

347524_100x100_002 全編モノクロ映像で描かれる。
 アメリカ中西部の広大な大地、山と平原と空、老人の目に映る光景にはモノクロがふさわしい。

 その中をひたすら走る息子の車は、日本製の「スバル・レガシー」。
 老いた父親が100万ドルを手にして買いたかったのは、フォードの「ピックアップ・トラック」。
 そこに、アメリカ社会の底辺を支えてきた人たちの「誇り」を見る。

347524_100x100_004  受賞は逃したが、この作品はアカデミー賞主要6部門にノミネイトされた。
 作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞、そして主演男優賞のブルース・ダーンは「帰郷」('78)以来の久々のノミネイト、助演女優賞のジューン・スキップは初めてである。

 「あなたは、お父さんのことを、どれだけ知ってますか」

| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 12, 2014

2443.オーシャンドリーム号

Img466_640 明日13日、横浜港を出港して「地球一周の旅」に出る「オーシャンドリーム号」。

 今回はシンガポール~コロンボ~スエズ運河~ドブロブニク~カサブランカ~パナマ運河~ホノルル~横浜と、104日かけて地球を西回りする。

051_640052_640048_640 029_640_2
 そのオーシャンドリーム号が、先週東京・晴海ふ頭に寄港したので見学に出かけた。

 33年前にデンマークで建造されたこの船はパナマ船籍、総トン数35.265t、全長205m幅26.5m、.1,422人の客と約400人のクルーを乗せる。

 チャーターしているのは国際交流NGOの「ピースボート」、2年前からこれまで6回地球を周遊した。

045_640034_640 011_640 043_640
 5層に分かれた船室はおよそ500、シングルから4人の相部屋まで予算に応じて選べる。

 シングルスタンダードが300万円、4人部屋のフレンドリータイプは一人当たり130万弱、最も高いのが最上階にあるバルコニー付きのペアタイプの400万弱となる。
 船籍日本の豪華客船「飛鳥Ⅱ」が、112日間の「世界一周」で2.800万~430万だから確かに安い。

025_640 017_640 024_640 022_640
 オーシャンドリーム号は、2年前まで主としてカリブ海をクルージングしてきた。
 そのせいか室内装飾などは南のムード。
 プールも三つあるし、スポーツデッキなどゆったりとってある。

 30年前から始まった「ピースボート」の船旅、「地球一周」をメインに約4万5千人が参加したという。
 10数年前には私の娘も参加しており、たまたま出張で滞在していたシンガポールで、上陸した娘や友人たちを街に案内した事を思い出す。

1_640 ここ10年、日本でも船旅はポピュラーになってきた。
 今日の午後、横浜大桟橋を出港する「飛鳥Ⅱ」など平均乗船料が1、000万円を超える豪華客船でも、満席になるという。
 こちらは総トン数50,142tとオーシャンドリーム号の1.5倍、定員872人というからサービスは段違いだろう。

220pxoasis_of_the_seas_640  ところで世界最大の客船はというと、フロリダをベースにカリブ海を巡る「オアシス・オブ・ザ・シーズ」だろう。
 総トン数は225.282tと「飛鳥Ⅱ」の4倍、全長361m幅65m、乗客定員5,400人、クルーの数は2,200人と桁違いだ。
 パナマ運河の拡張工事が終わって、ギリギリ通過できるようになった。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

March 10, 2014

2442.大統領の執事の涙

347351_02_01_03 今年のオスカー作品賞に輝いた「それでも夜は明ける」、黒人差別を描いたこの映画と同じく「大統領の執事の涙」も、公民権運動を背景にある黒人家族を描いた「反差別歴史ドラマ」である。

347351_100x100_004  2008年オバマ大統領の就任式に特別招待された、ユージン・アレンがモデル。
 南部綿花農場の奴隷からホワイトハウスの執事となり、アイゼンハワーからレーガンまで7人の大統領に仕えた黒人である。

 ワシントン・ポストに掲載されたこの記事を読んだ著名なハリウッドのプロデューサー、ローラ・ジスキンが映画化を企画して製作資金を集めた。
 しかし映画化を前に彼が逝去、その遺志を気鋭の黒人監督リー・ダニエルが引き継いで完成させた。
 ダニエルは、現代に生きる黒人少女の過酷な環境を描いた「プレシャス」('09)を監督し、アカデミー賞作品賞にノミネイトされたほか、脚色賞・助演女優賞を受賞している。

347351_100x100_011 作品は、アメリカ近・現代史を忠実に追う。
 1926年に父親を農場主に射殺された奴隷少年が、南部の農場を抜け出してワシントンのレストランで働くまでの過酷な体験が前半。

347351_100x100_005  偶然にもホワイトハウスの料理人に採用され、やがて執事として大統領の家族を世話する成功物語。

 しかし白人に従順な執事の父親に反発して公民権運動にのめり込んでいく長男と、ベトナム戦争で戦死する次男、子供を巡っての夫婦の確執を描く家族ドラマ。

 その黒人執事の役をオスカー俳優(「ラストキング・オブ・スコットランド」'06)フォレスト・ウィテカーが、妻を有名なテレビ司会者で「プレシャス」のプロデューサーを務めたオプラ・ウインフリーが演じた。

347351_100x100_002 歴代の大統領夫妻に、名優たちが顔を並べた。多くがギャラ返上で協力したという。

 アイゼンハウアー、ロビン・ウイリアムズ(「グッド・ウイル・ハンティング」'97でオスカー)。
 ケネディ、ジェームズ・マースデン(「ヘアースプレー」'09)。
 ケネディ夫人ジャッキー、ミンカ・ケリー(「ザ・ルームメイト」'11)。
347351_100x100_009
 ジョンソン、リーヴ・シュレイヴァー(「ソルト」'10)。
 ニクソン、ジョン・キューザック(「ペーパーボーイ」'12)。
 カーター、キューバ・グッディング(「ザ・エージェント」'96でオスカー)。

 レーガン、アラン・リックマン(「ハリー・ポッター」シリーズ)。
 レーガン夫人ナンシー、ジェーン・フォンダ(「コール・ガール」'71でオスカー)。

347351_100x100_007  ドキュメント映像で映し出される歴史的事実は、「キューバ危機」(1962)「ケネディ暗殺」(1963)「ベトナム戦争」(1964~73)「キング牧師暗殺」(1968)「ウオーターゲート事件」(1972)・・・・。
 黒人執事は、こうしたアメリカ近・現代史をホワイトハウスの中から見つめるのだ。

347351_100x100_006    右のシーンは、ケネディ一家がはじめてホワイトハウスに着いたところ。
 左から二人目の子どもが、現駐日アメリカ大使のキャロライン・ケネディ。
 黒人執事とキャロラインが、公民権法の成立に努める叔父のロバート・ケネディのことを語り合うシーンが微笑ましい。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 08, 2014

2441.ダラス・バイヤーズクラブ

Img451_640 「『くたばれ!』と社会は言った。『くたばるか!』と男はたった一人で戦いを挑んだ。」

 今年のアカデミー賞の目玉のひとつとなった作品、なかで主演男優賞を受賞したマシュー・マコノヒーの「体を張った」熱演が大いに注目された。
 彼の役は余命いくばくもないエイズ患者、マコノヒーは体重を21㌔減じて謙虚に演じきった。

Img452_640_4  タイトルの「ダラス・バイヤーズクラブ」とは、未認可のクスリを密売する会員組織の名前。
 HIV陽性と診断され「余命30日」を宣告された男が、生き延びるため買い集めたクスリや栄養剤を、同じエイズ患者に分け与える。
 それはあくまでもビジネスで、善意のボランティアでは決してない。

 そのエイズ男、1992年に地元のテレビ局で紹介された実在の人物ロン・ウッドルーフである。
 その彼が「余命30日」を乗り越え、「生きる権利」のために闘った7年の記録が、この作品である。

347390_100x100_001_2  ロデオ・カウボーイ、賭博と酒と女の日々を送るデタラメ男だったロン、彼がエイズを宣告されたのが1985年である。
 ロック・ハドソンがゲイであることと、エイズに感染していることを明らかにした年、その難病に対して治療法はなく、差別や偏見があった時代である。

347390_100x100_002_2  「余命」を宣告されたそのダメ男だが、彼は落ち込む暇もなく特効薬を求めて東奔西走する。
 抗ウイルス薬AZT(アジドチミジン)しか認可されていないアメリカにあって、彼は各国で開発されつつあった未認可のクスリを手にするのだ。
 それは「生きるため」だったが、そのアクションが認可権をもつ政府と製薬業界、医師を敵に回すことになっていく。

347390_100x100_003_2  主要な登場人物は、マコノヒー演ずるロンと彼のビジネス・パートナーとなったゲイの青年(ジャレッド・レト)、彼をサポートした医師(ジェニファー・ガーナー)である。

 そのゲイ役、若きドラッグクイーンになり切ったジャレッド・レトも、マコノヒーに倣って13㌔減量した。妖艶で儚いレトの演技もまた見事で、アカデミー賞助演男優賞を受賞している。

Img457 監督は「ヴィクトリア女王・世紀の愛」('09)のジャン=マルク・ヴァレ、脚本は今作でアカデミー賞脚本賞にノミネイトされたクレイグ・ボーデンとメリッサ・ウオーラック。

 ラストシーン、猛牛を乗りこなすマコノヒーのロデオが清々しい。
 アメリカン・アンチヒーローの誕生である。

 ロンのビジネス相手として、抗ガン剤用のインターフェロンを開発・販売した岡山の林原生物化学研究所も登場するが、3年前その会社は倒産している。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 06, 2014

2440.日本美術の祭典(4)

Img401_640 上野の杜で一月から開かれている「日本美術の祭典」、東京国立博物館と東京都美術館で開催される四つの展覧会を結ぶ特別展である。

001_640 その最後のイベントが、先週から開かれている特別展「世紀の日本画(後期)」である。
 日本美術院再興100年を記念して、都美術館で開催されている展覧会は前期・後期に分かれての催し、前期については既にこのブログ2426号(2.06)で紹介した。

 展示されている作品が、全て入れ替えられているのは珍しい。6点の重要文化財作品も、3点ずつに分けられた。

Img386_640 会場入り口に展示されているのが、その重要文化財作品の「悲母観音」(東京藝術大学蔵)。
 江戸時代と明治時代を橋渡しした近代日本画の父・狩野芳崖(1835~1888)の絶筆である。

 この作品は日本美術院が創設される10年前に描かれたものだが、近代日本画の出発点に位置づけられるとともに、日本美術院の原点ともみなされてきた。
 芳崖は、狩野派の伝統を引き継ぎながらも、西洋絵画の写実や空間表現、鮮やかな色彩感覚を新たに取り入れている。

Img464_640_2  右は、芳崖の盟友・橋本雅邦(1835~1908)の作品、重要文化財「龍虎図」(静嘉堂文庫蔵)。
 

 雅邦は、岡倉天心とともに東京美術学校を辞職して、日本美術院を創設している。

Img387_640  左は、東京美術学校一期生で、天心や雅邦の教えを受けた横山大観(1868~1958)のデビュー作「無我」(東京国立博物館蔵)。
 天心に連帯して美術学校の助教授の職を辞し、日本美術院の創設に参画した。

 天心没後の1914年に、美術院を再興したのも彼をリーダーとする下村観山(1873~1930)、菱田春草(1874~1911)たちだった。

 展覧会は、全国から集められた近代日本画家「院展オールスターズ」の作品60点が並ぶ。
 日本美術院の歴史や「世紀の日本画」展の構成については、ブログ2426号で紹介したので省くが、創設者・岡倉天心についてのエピソードなど若干触れておきたい。

Th_640  岡倉天心(1863~1913)、美術史家・美術評論家。
 東京外国語学校(東京外大の前身)、東京開成所(東大の前身)で学んだのち(1880年)、東大教授だったフェノロサの助手となり日本美術品の収集・研究を手伝う。

 1889年の東京美術学校(東京藝大の前身)創立に貢献して、翌年には27歳にして校長に就任して大観や観山らを育てる。
 しかし、美術学校の西洋画派との確執もあって排斥運動を起こされ1898年に辞職、同時に連帯辞職した日本画家たちと日本美術院を創設した。

Img463_640  この排斥運動の陰には、天心のスポンサーでもあった文部官僚・九鬼男爵夫人との不倫スキャンダルもある。

Ths4fcc4sg_640  天心生誕150周年・没後100年を記念して、昨年製作・公開された映画「天心」にもその経緯が描かれているが、1906年には茨城・五浦海岸に美術院を移し、ここで大観らと起居を同じくして創作活動を続けた。
 東日本大震災で流失した「六角堂」は、天心らが建立したものである。

1011337_021_640  1910年、ボストン美術館中国・日本美術部長。
 1943年、新潟・赤倉の山荘にて永眠。

 1914年、天心の一周忌を期して大観らが日本美術院を再興、今日まで続く。
 

Img461_640_3  右の作品は展覧会場最後の一枚、平山郁夫の描いた「日本美術院血脈図」(茨城大学蔵)。
 日本美術院を背景にして、真ん中で馬に乗っている人物が岡倉天心。彼を取り囲むように、雅邦、大観、春草、観山の顔が並ぶ。
 手前には安田靫彦、奥村土牛、前田青邨、小林古径らが。

 「世紀の日本画」展は、東京都美術館で4月1日まで。観覧料は1400円。
 なお今月19日と21日には、館内で映画「天心」も上映される(有料)。
 出演は、天心・竹中直人、大観・中村獅童、芳崖・温水洋一ほか。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 04, 2014

2439.メイジーの瞳

Img450_640 近代英米文学を代表する作家として知られる、アイルランド系アメリカ人ヘンリー・ジェームズ(1843~1916)。
 女性の心理描写を上手く描いた彼の小説のいくつかは、これまでもたびたび映画化されている。「女相続人」('49)「ある貴婦人の肖像」('96)「覗かれる女」('06)など、印象に残る名作だった。

200pxhenry_james_by_john_singer_sar その彼が1897年に書いた舞台劇「What Maisie Knew」を、現代のニューヨークに舞台を移して映画化したのが「メイジーの瞳」(邦題)である。

 離婚した両親の家を10日ごとに往き来することになったメイジーは、6歳の女の子。
 再婚した親たちの顔色をうかがいながら、全てを我慢して受け入れようとするメイジー。
 しかしその瞳は大人の愚かさを、鋭く告発する。
 作品は、メイジーの繊細な心の動きを、彼女の視点から丁寧に描いていく。

Img453_2  
 映画を成功させたのは、ヒロイン役のオナタ・アプリールの自然な演技だった。
 日本人の血も引く彼女だけに、ヤンキー娘とはちょっと異なる顔立ち。母親が製作する短編映画に4歳のころから出演、3年後の今回はセリフは少なかったが、見つめうなずくその表情と、円らな瞳が全てを語っていた。

345264_100x100_002  彼女が紹介する登場人物たち。

 「ママは飛んでるロック歌手、お酒が好きで朝寝坊」
 「エデンの彼方に」('02)などアカデミー賞4回ノミネイトのジュリアン・ムーア。

 「パパはアートディーラー、いつも忙しくて気分屋」
 今年のアカデミー賞作品賞にノミネイトされた「あなたを抱きしめる日まで」に出演、脚本も書いて脚色賞にノミネイトされたイギリスの俳優スティーヴ・クーガン。

345264_100x100_006 「ママの新しい旦那さんは、心優しいバーテンダー」
 「ザ・イースト」でも紹介したスエーデンの俳優、アレキサンダー・スカルスガルド。

345264_100x100_009_3  「パパの新しい奥さんは、私のベビーシッターだった仲良しのお姉さん」
 スコットランドのTV女優で映画初出演の、ジョアンナ・ヴァンダー・ハム。

 そして製作は、ジュリアン・ムーアも主演した「キッズ・オールライト」('11)のスタッフたちで、監督はスコット・マクギー&デヴィド・シーゲルのコンビである。

345264_100x100_005_2  「アイラブユー」の言葉だけを売り物に、親としての責任感皆無の父親と母親。
 離婚王国アメリカだけでなく、最近の日本の新聞記事でも見かける愚かな大人たち、メイジーは「I Like You」と「I Love You」をきちんと使い分けて応ずるのだ。

 「メイジーは何を知ったか?」(原題)、それは「人生とは自分の居場所を見つけ、愛を求める旅」だという事。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 02, 2014

2438.エヴァの告白

Img448_640 アメリカ映画ではあるが、ヨーロッパ・テイストのある作品。批評家筋には評判がいい。
 カンヌ国際映画祭パルム・ドールにノミネイトされた。

347717_100x100_001 原題は「THE IMMIGRANT(移民)」。
 1921年、戦火のポーランドから夢を抱いてニューヨークにたどり着いた、一人の移民女性の物語である。

 同じ頃に、ロシアから移住してきたユダヤ系の祖父母を持つジェームズ・グレイ監督が脚本を書き製作した。
 ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞したデビュー作「リトル・オデッサ」('94)も、ロシア系移民街を舞台にした家族の物語だった。

347717_100x100_008 グレイ監督は、「エディット・ピアフ~愛の賛歌」('07)でオスカーを受賞したフランスの女優マリオン・コティーヤールをイメージして、脚本を書く。

 両親をソ連兵に殺されたヒロイン・エヴァが、妹とニューヨーク沖合のエリス島(移民収容所)に着いたものの、病弱の妹は引き離され強制送還されようとする。
 その彼女を袖の下で救ったのが「ポン引き」の男、妹を救い生き延びるために選んだ道は春を売る生活だった。
 敬虔なカソリック教徒のエヴァにとって、それは神に対する裏切りだったが・・・。

347717_100x100_007 エヴァを食い物にしながらも、彼女を愛してしまった男をホアキン・フェニックスが演じる。
 
 「ザ・マスター」('12)などアカデミー賞に3回ノミネイトされている、プエルトリコ出身の俳優である。
 彼はこれまでに「アンダーカヴァー」('07)など、グレイ監督とは4回タッグを組んでいる。

 実在人物のモデルもいるが、グレイ監督はフェニックスに「不器用にしか生きることの出来ない男の哀愁」を託した。

347717_100x100_006_2 もう一人主演級の役者が、ポン引きの従兄弟でマジュシャン役のジェレミー・レナー。
 彼も「ハート・ロッカー」('09)など2回アカデミー賞にノミネイトされた実力派俳優で、ブログ2431号で紹介した「アメリカン・ハッスル」でも汚職市長役で登場している。

347717_100x100_009  モノトーンを基調とした色調で描くニューヨークの街並み、「愛、アムール」('12)を撮ったイラン系フランス人カメラマンのダリウス・コンジの映像である。
 そのなかでヒロイン・エヴァを始めとする娼婦たちの衣装と化粧だけが、煌びやかで物哀しい。

347717_100x100_010_2  グレイ監督は、アメリカン・ドリームが悪夢に変わっていく「世界恐慌」前のアメリカを、逞しく生きる一人の女性を通して鋭く抉っていく。
  現代のアメリカ社会でも、メキシコやコロンビアなど中南米からの密入国者が引き切らない現実の「ドリーム」が続くが、この作品はそれをダブルイメージとして見せてくれる。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

« February 2014 | Main | April 2014 »