« April 2014 | Main | June 2014 »

May 30, 2014

2482.ブルージャスミン

Img555_640 「それでも恋するバルセロナ」('08)「恋のロンドン狂騒曲」('10)「ミッドナイト・イン・パリ」('11)「ローマでアモーレ」('12)と、ヨーロッパで撮り続けてきた巨匠ウディ・アレン監督が、ニューヨークに帰ってきた。
 そしてサンフランシスコと、2か所を舞台にして映画を撮った。

Img551_640  ロマンチック・コメディを得意とするアレン監督にしては、珍しくシリアスな作品である。

 ヒロインは、憂鬱(ブルー)なジャスミン夫人」。
 その病んだヒロインを痛々しいほどリアルに演じたケイト・ブランシェットは、アカデミー賞主演女優賞を受賞した。

 また脚本を書いたウディ・アレンも16回目のノミネイト、妹役のサリー・ホーキンスは助演女優賞にノミネイトされた。

347358_100x100_001  シャネルの服、エルメスのバッグにロジェ・ヴィヴィエの靴、ニューヨークでセレブな日々を楽しんできた富豪夫人のジャスミン。
 詐欺と脱税で夫(アレック・ボールドウイン)がFBIに捕まり、資産の全てを没収されて無一文になる。
 仕方なく、サンフランシスコに住むシングルマザーの妹のところに転がり込んだ。

347358_100x100_002  シスコでキャッチしたのが、エリート外交官の独身男(ピーター・サースガード)。
 再びセレブへの道が見えてきたのだが、彼女の虚栄心が落とし穴となった・・・・。

347358_100x100_005  スーパーのレジ係での貧乏暮らしをしている妹の男漁りと、虚言と現実逃避を繰り返す姉との対比が面白い。

 アレン監督は、虚栄心とプライドで塗り固められたヒロインの華麗なる「過去」(ニューヨーク)と、痛々しすぎるほど悲惨な「現在」(サンフランシスコ)を映像で交錯させながら、ヒロインが身も心も破たんしていく様を、炙りだす。

200pxwoody_allen_at_the_premiere_of  もともと皮肉屋のアレン監督だが、これほどヒロインを残酷に描く作品は珍しい。
 アレンは、同棲していた愛人・ミア・ファローの養女で韓国人のスン・イーに手を付けたと、ファローに告訴された。
 結局は養女を籍にいれたが、過去の女性関係もふくめセレブ女性に対する反感や恐怖心が、今回の作品には強く影響しているのではと、もっぱらの噂だ。

347358_100x100_004_2 テーマ音楽となったのが、ジャズの名曲「ブルームーン」。
 歌詞はハハッピーエンドだが、アレンの手になるともの悲しい。

 アカデミー賞主演男優賞にノミネイトされた「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は、レオナルド・ディカプリオが破滅する映画。
 「ブルージャスミン」もケイト・ブランシェットが破滅する映画だが、こちらは主演女優賞を受賞することができた。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 28, 2014

2481.とらわれて夏

Img556_640 「JUNO/ジュノ」('07)「マイレージ、マイライフ」('09)でアカデミー賞作品賞や監督賞などにノミネイトされたカナダ出身の監督、ジェイソン・ライトマンの5本目の長篇映画。
 「許されない愛を激しく静かに描いた」ラブロマンスである。

346919_100x100_006_640  アメリカ・ニューハンプシャー州の静かな田舎町、心に傷を負ったシングルマザー(ケイト・ウインスレット)と13歳の息子(ガトリン・グリフィス)の前に現れたのは、刑務所を脱獄した男(ジョッシュ・ブローリン)だった。

 強要されて自宅に匿うようになった男と親子、3人の共同生活の中で芽生えたのは「切ない愛」だった。
 子供を産めなくなり夫に去られた女と、妻を誤って殺してしまった男、その二人を健気に見守る息子、夏の終わりの5日間がサスペンスフルに綴られる。

Img549_640  思春期の息子の目線でストーリーは描かれるだけに、大人の愛に「濡れ場」はない。
 しかし文学の香りが漂う「官能的なシーン」が、美しくちりばめられていく。

346919_100x100_003_640_2  なかでも3人一緒に「パイ」を作る場面は、母親と男のラブシーンであり、息子にとっても新しい家族の誕生を予感させるシーンとなる。

 3人の俳優それぞれが、複雑な心の襞を丁寧に演じていく。

Img554_640  世界的大ヒットした「タイタニック」('97)のヒロインから17年、オスカー女優のケイト・ウインスレットは、再び愛される喜びを取り戻す女の情念を、緊張感をもって見せる。

 「ミルク」('08)でアカデミー賞にノミネイトされたジョシュ・ブローリンは、男の本当の強さと優しさを体現する。

346919_100x100_002_640  「チェンジリング」('08)で誘拐された坊やを演じたガトリン・グリフィスは、春思期の少年の危い心情を素直に演じていく。
 その彼が大人になったシーンでは、「スパイダーマン・シリーズ」の主役トビー・マグワイアに替る。

346919_100x100_005_640  原作は、アメリカの女流作家ジョイス・メイナードの「Labor Day」。
 「ライ麦畑でつかまえて」で知られるサリンジャーの元恋人、彼女の小説「ライ麦畑の迷路を抜けて」も、この映画のベースに組み込まれている。

 映画の原題も「Labor Day」だが、9月第1月曜日がアメリカでは「労働休日」、日本の「メイデー」にあたる。
 翌日から新学期が始まるので、子供たちにとっても土~月の3連休は「夏の終り」である。
 3連休を挟んだ5日間が、この映画の舞台となっているのに意味がある。

 なぜか「シェーン」('53)と「マディソン郡の橋」('95)を想い出した。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 26, 2014

2480.ネイチャー

347955_02_01_03 「ディープ・ブルー」('03)「アース」('07)「ライフ~いのちをつなぐ物語」('11)に続く、BBCの自然ドキュメンタリー映画。
 今回は「水」をテーマに、アフリカ各地をロケした。

 87分の映画は、7つのカテゴリーから構成される。

347955_01_03_03  「謎めいた森」・熱帯雨林に生きる動植物たちの生存のための闘い。
 「燃え盛る地下世界」・活火山ニーラゴンゴ、有毒ガスのなかで生きるもの。
 「異国の砂」・世界最古の砂漠ナビブに生きる動物のサバイバル術。
 「灼熱の平原」・古の知恵で秘密の水源を目指す象の家族。

Th 347955_100x100_002_2  「魅惑の海中都市」・カラフルなサンゴ礁の、豊かな環境に生きるアオウミガメとライオンフィッシュ。
 「凍てつく山」・赤道直下のケニア山(5.200m)は昼は夏だが夜は極寒に。
 「荒れ狂う激流」・ヴィクトリア滝を落下する激流と、水面下に息を潜めるアフリカ最大の爬虫類。

 
 映画を製作したのは、イギリス「BBCワールド」の代表的なドキュメンタリー・ブランド「BBC EARTH」。
 「ライフ」でも製作総指揮を執ったニール・ナイチンゲールとフリーのドキュメンタリー作家パトリック・モリスを中心に、4年間573日に渡ってロケを敢行した。

347955_04_03_03_3  今回のロケでBBCは、ハリウッドが開発した「4K3Dテクノロジー」を、初めてアフリカの大自然に持ち込んだ。
 湿度100%、50度℃を超える気温、5200mの高度、砂漠の微細な砂、有毒ガスそして水中撮影、精密な3D機材がどこまで耐えうるかのトライでもあった。

347955_01_21_03_3  作品は、一般的な2Dでも上映されているが今回だけは3Dをすすめる。
 「マウンテンゴリラの家族の生活」「アフリカ象一家の大移動」「フラミンゴの求愛ダンス」「ムーを襲うワニ」「子象を襲うライオン」など、すでに映画やテレビでおなじみのシーンが多く、2Dでは感動が薄い。

347955_01_22_03  特殊カメラや装置を駆使した「これまで誰もが見たことのない自然」を、3Dでぜひ体験してほしい。
 超低速撮影・超高速撮影による「自然」も、また新しい感動を呼ぶ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 23, 2014

2479.バルテュス展

Img557_640 「20世紀最後の巨匠」と、ピカソが賛辞を贈った画家バルテュスの大回顧展が、東京・上野の東京都美術館で開催されている。

002_640_2  国内での開催は20年ぶり、2001年に92歳で亡くなって以来はじめての展覧会である。
 彼が生涯描いた作品350点のなかから、油彩画53点と素描等53点が並ぶ。

 作品は、メトロポリタン美術館やポンピドゥー・センター、フィラデルフィア美術館など世界の名だたる美術館コレクション、さらには公開される機会の少ない個人所有のものから選んで出品された。

Img563_640 バルテュス(1908~2001)は、ポーランド貴族の血を引く美術史家と画家の母のもとパリで生まれる。
 少年時代に描いた絵本が母の愛人だった詩人リルケの目に留まり、彼の序文付きで出版され、画家の道をスタートする。

Img560_640  時代はキュービズムやシュールレアリスムの芸術運動が盛んなころ、しかし彼はその潮流とは一線を画し、生涯独特の「具象絵画」の世界を追求した。

 彼が画壇に登場したのは、1934年パリで開いた最初の個展。
 観る者を挑発するような煽情的なポーズをとる少女像の数々、それはスキャンダルを生むと同時に知識人たちの熱烈な支持を集めた。(右は彼の最初の妻となった、アントワネットをモデルに描いた《キャーシーの化粧》1933)

Img558_640  「目を閉じ頭上で手を組み、片膝を立てスカートの下を無防備に曝す少女」(左上のポスター《夢みるテレーズ》1938)。
 「手鏡を持ち、右の胸をのぞかせ、すらりと足を伸ばす少女」(左《美しい日々》1944)。
Img568_640  「性器をさらしながら夢みる少女のポーズ」(右《猫と少女》1945)。

 彼が生涯モチーフとして描き続けた「少女像」は、一見不自然なポーズでありながらも幾何学的な構成で描かれ、どこか神秘的で緊張感に溢れる。

Img569_640 「夢みるテレーズ」や「猫と少女」もそうだが、彼の作品には猫が登場するものが多い。
 猫は、バルテュスの化身といわれる。

 左の《地中海の猫》(1949)などは、猫そのものが主人公となって観る者の笑いを誘う。

Img562_640 バルテュスは、日本とも縁の深い画家である。
 ローマにあったアカデミー・ド・フランスの館長として1962年に来日しているが、右の《トランプ遊びをする人々》はこの時に鑑賞した「歌舞伎の見得」に想をを得て描いた作品である。

Img566_640  また、来日のおりに通訳を担当した出田節子さんと5年後に結婚、彼女をモデルにした数点の作品も今回展示されている。(左は《朱色の机と日本の女》1967~76)

Img565_640  画家でもありエッセイストとして知られる節子夫人は、晩年のバルテュスを公私ともに支えてきた人。
 今回の大回顧展では、自らメトロポリタン美術館などに足を運び、作品の借用交渉に立ち会うなど、全面的に協力している。

 スイスのグラン・シャレにある彼の最後のアトリエが、世界ではじめて都美術館の展覧会場に再現出来たのも、彼女の協力の賜物である。

 「バルテュス展」は来月22日まで東京都美術館で。そのあと京都市美術館に巡回する。観覧料は1,600円。 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 21, 2014

2478.そこのみにて光輝く

Img522_640  函館で「ロック喫茶」を経営、自主上映グループ「アイリス・イン」から函館市民映画館「シネマ・アイリス」を設立した菅原和博が、「海炭市叙景」('10)に続いて企画・製作した作品。
 今回も、多くの函館市民によるヒト・モノ・カネの協力で、「市民映画」は実現した。

347492_100x100_006  ここ1~2年静かなブームとなっている函館出身の作家・佐藤泰志の作品で、唯一の長篇小説が原作。
 三島由紀夫賞の候補作にもなったが、原作者は23年前に41歳で自死した。

 採石場での事故で、仲間を爆死させてしまったトラウマを抱える男(綾野剛)が主人公。
 パチンコ屋で偶然知り合った若い男(菅田将暉)に誘われ、バッラックを訪ねた男が出会ったのは、人生を諦めた彼の姉(池脇千鶴)だった。

347492_100x100_011 「愛を捨てた男と、愛を諦めた女」が、函館の短い夏に紡ぎ出したものは・・・・・・・。
 底辺に生きる男と女が、絶望の中から「そこのみに輝く光」を求めていく姿を鮮明に描く。

347492_100x100_002  主役たち3人の存在感が、作品を重厚にした。

 「夏の終わり」('10)以来、ヒット作品に出演している旬の俳優・綾野剛が寡黙に、池脇千鶴(「ジョゼと虎と魚たち」'04)が薄幸の女を体当たりの演技で。

347492_100x100_010  直情径行・単細胞の青年を演じ、これまでにない顔を見せた菅田将暉(「共食い」'13)。
 もう一人、池脇の腐れ縁の男を演じた高橋和也(「そして父になる」'13)も見逃せない。

347492_100x100_008  前作「海炭市叙景」は、北海道出身の熊切和嘉が監督を引き受けたが、今回は呉美保。
 大林宣彦監督のスクリプター出身で、「酒井家のしあわせ」('05)で監督デビューした。

 二作目の「オカンの嫁入り」('10)で新藤兼人賞を受賞するなど、アットホームな作品で知られた彼女が、はじめて「ダークな作品」を高田亮の脚本で撮った。

347492_100x100_005_3  呉は、物語のキーポイントとなる二つのセックスシーンを、男性監督では描き切れないハードでリアルに撮り、池脇の大胆な演技を生かした。

 閉塞感のある「狭い港町」、うらぶれた飲み屋街、決して美しくはない浜辺、修道院や五稜郭など函館の観光名所は一つも登場しない作品。
347492_100x100_003_2
 函館の市民たちが、地元出身の作家の作品で、もう一つの「故郷」を凝視することで「街起こし」にトライしていく姿が、作品にオーバーラップする。
 ラストの「そこのみに光輝く」シーンは、市民たちの明日への希望を象徴している。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 19, 2014

2477.テルマエ・ロマエⅡ

Img538_640  「世紀のSF(すごい風呂)超大作」だそうだ。
 映画が公開された「お風呂の日」(4月26日)の全国紙には、10ページにわたっての全面広告。

 「入ってから観るか、観てから入るか」
 「髪よ、奇跡だ」
 「傑作か否か、答えは民のみぞ知る」
 「磨け、さもなくば朽ちるであろう」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「さ、劇場へ急げ」

347375_100x100_001  10社がスポンサーとなったこの広告、これだけでも2億円は超えそうだが、フジテレビ・東宝・電通の宣伝攻勢は凄まじい。
 第1作目で60億円という歴史的大ヒットを飛ばし、主演の阿部寛が「日本アカデミー賞最優秀主演男優賞」を受賞しただけに、製作陣の鼻息はすごい。

Img539_640  
 原作は、イタリア在住の漫画家ヤマザキマリの「お風呂ギャグ漫画」。
 「すべての゛風呂゛はローマに通ず」と、「古代ローマおたく」のイタリア人・夫から薀蓄を拝借して描いた。

 古代ローマ帝国の浴場(テルマエ)設計技師が、日本の銭湯や温泉にタイムスリップして現れ、「大衆を喜ばすお風呂作り」の技術を勝手に持ち帰るというストーリー。

 古代ローマと21世紀の日本という奇天烈なプロットで、時空を超えた「カルチャー・ギャップ」を見せて、報復絶倒の喜劇となった。

347375_100x100_003  そのプロットも出演者も、「壮大なフェイク」で押し通すのも笑いの基となる。

 主役のお風呂技師・阿部寛はもちろん、皇帝の市村正親に息子の北村一輝、皇帝参謀・宍戸開も、ヨーロッパの役者やエキストラに交じって違和感がない。
 いずれも「彫が深く濃い」役者たちだからだ。

347375_100x100_002  一方の日本では、「平たい顔」の役者が並ぶ。
 原作者が変身したような上戸彩や、その両親の笹野高史・キムラ緑、 素人とは思えない役者ぶりを発揮した幕下の相撲取りたち。
 この対比もまた、カルチャー・ギャップを増幅していく。

347375_100x100_004  前作のヒットで稼いだせいか、今回はさらに金をかけて大掛かりなセットを組んだ。
 撮影場所は、世界一広いブルガリアの「ヌ・ボヤナ・フイルム・スタジオ」。ここに古代ローマの街並みと50mの高さをもつ「コロッセオ」を忠実に再現した。

 そしてその「コロッセオ」で戦うグラディエイター(奴隷剣闘士)は、アケボニウス=曙でありコトオウシュヌス=琴欧州たちなのだ。

347375_100x100_006  「壮大なフェイク」ではあるが、土台となる背景は歴史に忠実である。

200pxbust_hadrian_musei_capitolini_  古代ローマ帝国が最も栄えたというアントニヌス朝(96~192)、五賢帝のひとりである皇帝・ハドリアヌスと元老院の対立が作品のベースになる。
 平和を希求する理想主義者の皇帝と、強いローマ帝国の復活をもくろむ現実主義者との争いである。

Img541_640  「お風呂設計技師」(阿部寛)に「テルマエ・ローマ」造りを命じたのが、まさにその皇帝ハドリアヌス(市村正親)で、皇帝が目指したユートピアのひとつが「テルマエ」だったのだ。
 事実この時代に、「レプティス・マグナの浴場」は建設されている。

 ギャグの連打に笑い転げながらも、「古代ローマ史」を勉強できるのが、この映画の「ミソ」かもしれない。

 タイムスリップするたびに歌われる「オペラ」と、ラストに流れる北島三郎の「与作」は、ギャップはあるがその哀歓はどこか似ている。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 17, 2014

2476.センチメンタル・ジャーニー(3)

192_640191_640_2  「九州新幹線」、鹿児島中央駅から博多駅まで全線開通して3年(新八代までの部分開通から10年)経つが、乗車したのは初めてである。

 といっても川内駅までのたった12分間、乗車券+特急券合わせると1,790円だった。
 在来線だと50分・940円だからどちらを選ぶか、新幹線はほとんどトンネルなので車窓も楽しめなかったが。

Img546_640  薩摩川内市、平成の大合併(2004年)で1市4町4村が一つになり、鹿児島県では最も広い自治体となった。
 人口は10万人弱、県下では4番目である。

194_640_2 195_640_2  駅を降りると、大伴家持の銅像を目にする。
 702(大宝)年、この地に国府と国分寺が置かれ薩摩国の「首都」となった。

 直接赴任したかどうかは定かでないが、万葉集の編者・三十六歌仙のひとり家持は「薩摩守」に任じられているのだ。(「続日本書紀」)

Thvotpesou2_640  川内を訪ねたのは、たぶん50年ぶりか。鹿児島在勤中、名物の「川内大綱引き」の取材だったと記憶している。
 今回「センチメンタル・ジャーニー」の最後として川内に時間をさいたのは、私が6歳の時に亡くした父の故郷だったからだ。

Img545_640  市役所から取り寄せた「除籍謄本」と、若いころに父の友人からもらった数葉の写真を頼りに、その微かな足跡を辿ってみようと思ったのだ。

 謄本によると、生まれたのは「隈之城村」。
 1942(昭和4)年に、周辺の村と合併して川内町向田になる。
 5歳の時に父親(私にとっては祖父)を亡くした後は、母親の実家・平佐村で幼年期を過ごしたらしい。

229_640_2 227_640  向田は市の中心街、市街地再編成で幾つかの町名に分かれているが、どうも川内川に架かる「太平橋」のほぼ近くらしい。
 訪ね歩いたが、父の生誕地は国道拡張で跡形もなくなっていた。

216_640 219_640  市街地から少し離れたところにある小高い山「神亀山」。
 この山頂には「可愛山陵(えのやまのみささぎ)」がある。
 明治の初めに「瓊瓊杵尊」の陵と定められ、宮内庁が管理している。

Img543_640  手元にある写真には、その可愛山陵に集う旧制中学時代の父や同級生たちが写っている。
 学校(現・川内高校)は山陵の麓にあり、地名も「御陵下町」となっている。

 
212_640 211_640  山陵と隣り合わせの「新田神社」は、薩摩国一之宮。
 もともとは平安時代に、国家鎮護のため全国5か所に創建された八幡宮のひとつである。

 明治になってからは山陵に因んで、「瓊瓊杵尊」や「天照大神」を祀る神社になった。
 社殿は400年前に建てられたというから、父や祖父母たちもお参りしたに違いない。

203_640_2 224_640_3  全長137km九州では筑後川に次いで長い川、川内川の堤防に沿って河口まで足を運んだ。
 ご先祖が「水運業」を営んでいたと、昔聞いていたからだ。

 大隅半島を治めていた肝属一族で、鎌倉時代に地頭として薩摩に南下した島津氏との戦いに敗れ、川内川流域に落ちのびてきたと、「地誌」に記されている。

198_640201_640 この春から「甑島」への高速船が就航した川内港新ターミナルの対岸、「想夫恋」の踊りで有名な久見崎に屋敷や倉庫を構えていたらしい。

 その久見崎の向こうに見えるのが「川内原子力発電所」。
 今、その再稼働の是非が問われている「原発」である。

 祖父母や父親の足跡を残す確かなものはないが、もう二度と訪れることはない「川内」を一人で旅した。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 15, 2014

2475.センチメンタル・ジャーニー(2)

Img542_640 故郷・南さつまで毎年開催される「砂の祭典」、27年前に県立吹上浜海浜公園のオープンを記念してスタートした。
 吹上浜の「白砂」を生かした「砂像」が並ぶ、一大ページェントである。

101_640 当初の企画段階では相談も受け、東京でのPR砂像作りも手伝ったが、実物を見るのは今回が初めてなのだ。

 初めの頃は海浜公園で開かれた真夏のイベントだったが、10年ほど前からゴールデン・ウイークに開催し、会場も3年前から「砂丘の杜きんぽう」に替った。
 広い会場と駐車場を整備して、多くの観客を呼ぶためである。

065_640 067_640 069_640 071_640  会場入り口で迎えてくれたのは、制作の過程を毎日発信してくれたフェイスブック仲間の前園幾人さんの「やまとなでしこ」や、後輩たちの作品「妖」(草田末治)「忍」(小田原純也)。
 今年の砂像テーマ「和んだふるジャパン~砂で描く日本の宝~」への導入である。

083_640_3 085_640 087_640 089_640_5  子どもたちの作品も含め砂像は90基。
 6m級のメイン砂像群は、地元市役所の職員や消防団員たちが総出で制作した。

 その一部、左から「日本の夜明け」「世界遺産姫路城」「ワンダフルジャパン」「古典芸能」。

093_640095_640 左の作品は、高校後輩・茶園勝彦さんの「浮世絵・母子像」。
 彼は世界各地の砂像選手権大会で活躍する、日本ではただ一人のプロの砂像彫刻家。

 茶園さんは、「砂の祭典」スタート時から砂像作りを指導し、世界各国の仲間たちにも呼びかけ、大会を盛り上げてきた。
 ニューズウイークが選んだ「世界が尊敬する100人の日本人」のひとりでもある。

075_640109_640113_640114_640
 世界で活躍する茶園さんの仲間たち「招待作家砂像群」。

 左から「アメリカンスポーツ」(ダニエル・ベルチャー、アメリカ出身)、「オランダの巨匠」(ハネッケ・サプライ、オランダ出身)、「リトルマーメイド」(マーティン・トゥリニウス、デンマーク出身)、「シャトー・フロンテナック」(ブルース・フィリップス、アメリカ出身)。

120_640 118_640  国内選手権大会の入賞作品は、まず鹿児島県知事賞の「KABUKI」。
 地元のチーム「かっとも」が制作した。

122_640130_640 南さつま市長賞は、鳥取砂丘砂像連盟制作の「花鳥風月」。

 砂の祭典実行委員会会長賞は、隣町の枕崎砂像クラブ制作「かぶき」が受賞した。

Thjburayn9134_640 面白かったのは、会場出口近くにあった「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」(制作・松木由子)。
 右側の絵が北斎の描いたものだが、砂像の浪の真ん中の穴からは、遠くの富士山の砂像が見える仕掛けとなっている。

102_640_2 103_640  「2014吹上浜・砂の祭典」は、夜の「音と光のファンタジー」も行われた「ゴールデンステージ」(2日~6日)を終え、今月31日までは「セカンドステージ」として午前9時から午後5時まで開催されている。

 早朝、郷里の友人の案内で会場をゆっくりと散策し写真を撮る事ができた。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

May 13, 2014

2474.センチメンタル・ジャーニー(1)

036_640035_640  鳥取・遠州灘と並ぶ日本三大砂丘「吹上浜」。

 鹿児島・薩摩半島西海岸に面した吹上浜は、串木野から加世田までの47キロに及ぶ日本最長の砂丘である。

031_640_2 028_640_2  そのほぼ中間にある「入来浜」を訪ねたのは50年ぶり、国民宿舎「吹上砂丘荘」にボストンバックを預け、自転車を借りてサイクリングロードを走った。

 海岸の北部は東シナ海から打ち寄せる波で浸食され、南部は砂が堆積する。
 こうして美しい「弓形」の海岸線が形成された。

042_640 043_640  強い風と砂地のために、植物は地を這うようにしか育たない。

 海岸から少し離れた松林も大きくは育たず、幹も風に抗して斜に伸びる。

051_640 048_640_2  幅は2キロから5キロの松林が、防風林となって内陸を砂と強風から守る。
 マツクイムシによる被害から松林を守るため、地元の苦労は大きかったと聞く。

053_640  1978年8月、ここ吹上浜キャンプ場から若い男女が消えた。
 拉致事件、36年経った今もまだ解決されてはいない。
 松林の中に建てられた立て看板を見て、その事件を思い出す。

059_640_3058_640_4  砂丘によって海から切り離された堰止湖「さつま湖(旧中原池)」。
 高校時代、私たちは加世田からさつま湖往復のおよそ20キロを走った。
 年1回の恒例行事である。

 さつま湖は、その昔賑やかな観光地だった。
 しかし30年前に傍らを走る南薩線が廃止、今は人影もなく静かに眠っているようだ。

062_640_2 063_640_2  今回久しぶりに帰省したのは、吹上砂丘荘で開かれた中学校の同窓会(同級生)に出席するためだった。
 5年に一度の集まり、前回の「古希同窓会」は100人を超えたが今回は43人。

 鬼籍に入った仲間も増えてきたが、次回「80歳同窓会」までは元気で頑張ろうと、乾杯の音頭を頼まれた私は祈念のエールを贈った。 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 11, 2014

2473.レイルウェイ~運命の旅路

Img523_640 1995年にイギリスの「エスクァイア」誌ノンフィクション大賞を受賞した、エリック・ローマスクの自叙伝「The Railway Man」が原作。

 第二次世界大戦中、シンガポールで日本軍の捕虜となったイギリス軍のローマスク中尉が、タイとビルマを結ぶ「泰緬鉄道」建設に駆り出された過酷な体験と、その後の驚くべき人生を綴ったノンフィクションである。

Photo011  「泰緬鉄道」は海上輸送路を失った日本軍が、ビルマ戦線への物資輸送のため、中国~インドを結ぶ鉄道として1942年に建設を始めた。

 なかでもタイ~ビルマの415キロは、山を削りジャングルを切り開くなど工事は難攻し、労働に従事した連合軍捕虜を中心に多くの犠牲者を出し、「死の鉄道」と呼ばれた。

Photo01  物語は、スパイの汚名を着せられ拷問を受けながらも辛うじて生き残り、イギリスに帰国した原作者が主人公。
 戦争で負った深い心の傷を、妻の愛情で乗り越えていく日々が描かれる。
 とくに当時の日本軍通訳との間に残る、トラウマとしての強い憎しみと赦しが綴られていく。

346914_100x100_004_2 主人公夫妻を、オスカー俳優が演じる。
 コリン・ファース(「英国王のスピーチ」'10)とニコール・キッドマン(「めぐりあう時間たち」'02)。

346914_100x100_003  運命の出会いとなる日本軍通訳は真田真之、そして二人の現役時代をジェレミー・アーヴァイン(「戦火の馬」'11)と石田淡明(「モネゲーム」'12)の若手、という顔ぶれ。

 とくに能・狂言役者からイギリスの舞台俳優となった石田の演技は、印象に残る。

 オーストラリアの俊英ジョナサンテプリッキーは、高齢の原作者とその妻パトリシアと丁寧に会話を重ね、「事実そのもの」をクールに描いた。

346914_100x100_002_2  罪の意識無く人を殺したり虐殺する人間、一方憎しみ合いながらも赦しあえる崇高な人間、この作品は人類の希望をそこに託す。

 戦後再びタイに渡り、残りの人生を彼の地で「贖罪」にかけた通訳・永瀬は2011年に逝去。
 その彼と最後まで交遊した原作者も、映画の完成を待たずにこの世を去っている。 

| | Comments (1) | TrackBack (0)

May 09, 2014

2472.「法隆寺~祈りとかたち」展

001_640  聖徳太子が創建し、日本仏教建築・美術の原点となった奈良・法隆寺。
 その法隆寺の至宝約70件を紹介する展覧会が、上野・東京藝術大学美術館で催されている。
 東京では、世界遺産に登録された事を記念して開かれた展示以来、20年ぶりの総合展である。

Th_640 法隆寺は奈良・斑鳩にある聖徳宗総本山。
 607(推古15)年に、聖徳太子と推古天皇が用明天皇の病気平癒を発願して建立した。

 飛鳥時代の建築様式を伝える木造建築物として世界的に有名で、1933年に日本では初めての世界文化遺産に登録されている。

Img524_640_2 今回は、東日本大震災復興祈念・中越地震復興10年を記念して開催されたもので、先月は仙台で7月~8月は新潟を巡回する。

Thdh9mvhhn1_640  展覧会の見どころは、「法隆寺金堂(国宝)から、国宝・毘沙門天と国宝・吉祥天を出陳」、そして「飛鳥後期の至宝・金堂壁画を貴重な模写で再現展示」の二つ。

 毘沙門天と吉祥天の立像は平安時代の作品で、金堂の「釈迦三尊蔵」の両脇にたつ。

3_640_2  両像は、法隆寺で毎年1月に営まれる「吉祥悔過」法要の本尊で、人々は「五穀豊穣と防災、そして平和と幸せ」を祈念する。
 今回は震災復興を祈願して特別に出品された。

Img533_640_2  仏像を囲む金堂の壁画は、1949(昭和24)年の修復作業の時の火災で焼損したが、多くの日本画家たちの手で模写復元された。

 この模写の手本となったのが、焼損以前(1932~36)にたった一人で12面の原寸大模写に取り組んだ、孤高の画家・鈴木空如の作品である。
 今回はそのうち8面が出品されていた。

Okakura_tenshin_640_2  今回、展覧会が藝大美術館で開催されたのは、大学と法隆寺との明治以来の交流の歴史が背景にある。

 東京美術学校(藝大)の創立者のひとり岡倉天心は、「廃仏毀釈」によって荒れ果てた法隆寺の宝物を調査して、文化財として高く評価した。
 1884年の第1回目の調査にはフェノロサも同行し、夢殿を開扉して秘仏・救世観音の存在と美を明らかにした。

Img526_640 それ以来、天心の美術学校の弟子たちは法隆寺に伝わる法具や古仏を研究し、新たに製作した品々を奉納している。
 今回展示されている高村光雲や平櫛田中の「聖徳太子像(摂政像)」、香取秀真や清水南山の仏具がそれである。

 天心が美術学校の校長を退任した後創設した日本美術院の画家たちも、法隆寺の景観や仏像・仏具・聖徳太子を描いている。

 和田英作「金堂落慶之図」・安田靫彦「太子孝養像」・吉田善彦「五重塔図」・杉山寧「救」など、近代日本美術の名品が並ぶ。

Img530_640 また別棟の陳列館では「別品の祈り」と題した、最先端デジタル技術による金堂壁画の「超高精細映像作品」も併展されている。

Img531_640 この作品は、焼損前に撮影されたガラス乾板やコロタイプ印刷、画家たちの模写をデジタル技術によって統合、藝大の「壁画複製特許技術」を用いて製作したもので、東京美術学校から受け継いできた「伝統」に、「現代」を織り込む新しい試みである。

 「法隆寺展」は、6月22日まで上野・東京藝術大学美術館で。入館料は1500円。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

May 07, 2014

2471.8月の家族たち

Img521_640 脚本家・俳優のトレイシー・レッツが書いた傑作舞台劇「August:OsageCounty」が原作。
 7年前に初演された舞台は、トニー賞・ピュリッツァー賞をW受賞した。
 映画化にあたってはレッツ自身が、脚本を書いた。

347843_100x100_005 突然失踪して溺死体になって見つかった父親。
 葬儀のためオクラホマの片田舎に住む母親のもとで再会した3人の娘と家族、愛人や叔母一家も加わったランチは、壮絶なバトルとなった。

 生活も思惑もバラバラな家族たち、口に出る「本音」はあり得ない「隠し事」を露わにしていく。

347843_100x100_006 「夫婦とは」「親子とは」「姉妹とは」、普遍的なテーマを描く「ヒューマンドラマ」であり、「壮絶な家族劇」そして「ブラックコメディ」でもある。

347843_100x100_002 6人のオスカー俳優を含む豪華キャストが、顔を並べる。

 失踪した父親(サム・シェバード)は詩人で大学教授、薬物依存症で情緒不安定な母親(メリル・ストリーブ)はガン治療中。

 生真面目で世渡り下手な長女(ジュリア・ロバーツ)は、別居中の夫(ユアン・マクレガー)と生意気盛りの一人娘(アビゲイル・プレスリン)を連れて駆け参じた。

347843_100x100_004 ひとり地元にすむ不器用な次女(ジュリアン・ニコルソン)と自由奔放な三女(ジュリエット・ルイス)、三女は愛人(ダーモット・マローニー)同伴。

 陽気な叔母(マーゴ・マーティンデイル)は優しい旦那(クリス・クーパー)と頼りない息子(ベネディクト・カンバーバッチ)と一緒に。

347843view001  舞台劇の映画化だけに、完成された激しいセリフの応酬が圧巻。
 なかでもハリウッドを代表する二大オスカー女優が、激しく本音を言い合い取っ組み合いまでする複雑な母・娘を演じているのが見ものだ。

 母親役、メリル・ストリーブは今回もアカデミー賞にノミネイト、受賞は逃したが18回目とハリウッド記録を持つ。
 初共演となった娘役のジュリア・ロバーツも、同じくノミネイトされている。

347843_100x100_003 「秘め事をバクロする」のも悲劇、「隠し通す」のも悲劇、「真実を告げる」のも悲劇、トレイシー・レッツの筆は家族のタブーを次々と暴露していく。

 監督は、製作に加わったジョージ・クルーニの盟友ジョン・ウエルズ。
 オクラホマの荒野にポツンと建つ古い家を買い取り、キャスト・スタッフが共同生活を送りながら撮影した。

 カントリー・ロックの名曲、そして出演者の一人でもあるベネディクト・カンバーバッチの優しい歌声が印象に残る。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 05, 2014

2470.團菊祭五月大歌舞伎

Kabukiza_201405f3_640  明治の名優・九代目市川團十郎と五代目尾上菊之助の偉業を顕彰するために、1936(昭和11)年から始まった「團菊祭」。
 歌舞伎座では6年ぶりの公演である。

Image  今回は、昨年2月に急逝した十二代團十郎を偲ぶ「一年祭」として上演、先月に引き続き若い友人に誘われて「夜の部」を鑑賞した。

 最初の演目は「矢の根」、原名題を「扇恵方曽我(すえひろえほうそが)」といい、曽我狂言のひとつ。
 1729(享保14)年江戸・中村座で二代目團十郎が初演した。
 その後、七代目が家の芸「歌舞伎十八番」に加えた。

008_640  曽我五郎(尾上松緑)が宝船を枕絵にして一寝入り、夢枕に現れたのは兄・十郎(澤村田之助)、親の敵・工藤祐経の館に捕らわれているという。
 夢から覚めた五郎は、通りかかった馬士・畑右衛門(市村橘太郎)の馬を奪い、大根を鞭に救出へ。

 全体に洒落っ気のある芝居、セリフもウイットにとんでいる。
 「虎とみて、石に田作り掻膾(かきなます)、矢立の酢牛蒡煮こごり大根、一寸の鮒に昆布の魂・・・」
 正月気分横溢に、松緑の典型的な荒事拵えである。

 初演でこの芝居は大当たりしたので、座元は小道具の「やじり(矢の根)」をもじって題名にして、「矢の根蔵」を建てたというエピソードが残っている。

007_640  次の演目は 「極付幡随長兵衛(きわめつけばんずいちょうべえ)」の三幕。
 幡随(院)長兵衛を取り上げた歌舞伎の中でも、決定版なので「極付」。

 
 江戸末期に活躍した河竹黙阿弥が、引退直前に書いた作品で、1881(明治14)年に東京・春木座で初演された。

Img537  ご存じ旗本・水野十郎左衛門(尾上菊五郎)率いる白柄組と、侠客・幡随長兵衛(市川海老蔵)ら町奴との争いを描いた純歌舞伎である。

 水野家の酒宴にひとり招待された長兵衛は覚悟を決めて乗り込み、最後は風呂場で水野の槍で殺される筋書。

Img536_640  「人は一代、名は末代の幡随長兵衛・・・」、亭主の覚悟の出立にあたり仕立下ろしの紋服をだし仕付け糸を抜く女房(中村時蔵)、見送る息子との別れが見せ場で、湯殿で水野を相手にしての長い啖呵もなかなかのもの。

 水野・菊五郎、長兵衛・故團十郎で度々上演されたが、今回は団十郎の息子・海老蔵が初めて菊五郎の相手役となる。
 時の流れを感じさせる演目だった。

005_640  脇題に「公平法問諍(きんぴらほうもんあらそい)」とあるのは、江戸・村山座でのその舞台が序幕で、客席から長兵衛が登場するという仕掛け。
 歌舞伎では珍しい劇中劇で、河竹の弟子・新七が10年後に書き加えたシーンである。

006_640  最後の幕は「春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)」。
 こちらは九代目團十郎が、娘の「枕獅子」踊りの稽古をみて作り直し、「新歌舞伎十八番」に加えた舞踊劇である。

 大奥勤めをする小姓の弥生(尾上菊之助)が、獅子に変じて彼岸で戯れる。
 女と男、柔と剛、此岸と彼岸の踊り分けがなかなか。
 格調高い長唄舞踊の大曲を楽しんだ。

 ただ「胡蝶の精」がちょっと。以前見たときは可愛い子供の胡蝶で、獅子の勇壮な舞とうまくマッチしていたが。

 昼の部は、「毛抜」「勧進帳」「魚屋宗五郎」と、歌舞伎十八番と黙阿弥の名作が並ぶ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 03, 2014

2469.80回記念「東光展」

003_640 ゴールデンウイークの一日、上野公園に出かける。毎年このシーズンに「東光展」が開催されるからだ。

017_640 ブログでも毎回紹介しているが、この絵画展には高校の先輩と大学の後輩の作品が並ぶ。
 お二人とも東光会会員、女流画家である。

016_640  左の作品が、先輩の阿久根律子さんの「残雪」。
 静物画「蓮」をライフワークにしている彼女だが、東光展では「日本アルプス」を主題にした風景画も隔年で出品している。

013_640 014_640 40代になってから絵の世界にのめり込み、主婦画家として話題を集めた。
 80に近い彼女だが、その筆さばきは若々しい。

005_640  後輩の木原容子さんの作品は「残暑」。
 大学で美術を学び、高校で教えていた彼女は大病を患って退職、長い間筆を折っていたが10年前から再び描きはじめた。

007_640_2 006_640_2  以来、彼女の画材は「枯れたひまわり」。
 体調が回復するにつれ、明るいトーンになっていくのがうれしい。
 昨年「日展」に入選した折、「枯れたひまわりは、これが最後」と話していたが、やはり拘りは続く。

022_640 021_640  「光は東方より、輝かしい夜明け」を合言葉に、1932(昭和7)年に結成された美術団体も、今年で80回目の公募展となった。

 それを記念して、今回は「東光会歴代主要作家展」も併催されている。

 80回記念「東光展」は今月10日まで、上野公園・東京都美術館で開催。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 01, 2014

2468.ウォルト・ディズニーの約束

Img480_640 ジュリー・アンドリュースがアカデミー賞主演女優賞を受賞した、ミュージカル映画「メリー・ポピンズ」(1964)。
 製作したウォルト・ディズニーが、自ら最高傑作と語るこの映画が誕生して50年になる。

30000000003876_m  映画は、ウオルトが娘ダイアンとの約束を実現するために、映画化を拒む原作者パメラ・トラヴァースに対し、20年間も諦めずにオファーし続け誕生したものだった。

 なぜパメラは頑なに映画化を拒んだのか、そして映画化実現のためにウオルトは彼女に何を「約束」したのか、映画誕生に隠された「出会いと奇跡」の実話である。

347796_100x100_003  物語は、1907年のオーストラリア・クイーンズランドでのパメラの幼少時代と、1961年のロサンゼルスでの映画化交渉過程の二つが交錯しながら展開していく。

 オスカー女優エマ・トンプソン(「ハワーズ・エンド」'92)が演ずる原作者パメラ・トラヴァース(幼少時代はアニー・ローズ・バックリー)のトラウマは、アル中で死んだだらしない父親(コリン・ファイル)と自殺未遂の母親(ルース・ウイルソン)の思い出。

347796view005_2  しかパメラは多くの「夢の世界を」、ダメ親父からプレゼントされた。
 
 「メリー・ポピンズ」に登場するミスター・バンクスは、作者の父親への想いが反映されている。

347796_100x100_004  オスカー俳優トム・ハンクス(「フォレスト・ガンプ」'94)が演ずるウォルト・ディズニーは、貧しかった少年時代の夢を「メリー・ポピンズ」に重ね合わす。
 それは娘との約束の実現だった。

347796_100x100_002  ミュージカルの作詞・作曲を担当したシャーマン兄弟(ジェイソン・シュワルッツマン、B・J・ノヴァク)と脚本家(ブラッドリー・ウイントフオード)にとことん注文を付ける作家パメラ、当時の録音記録を再現しながら彼女とウオルトの想いが、時にはユーモラスに綴られていく。

347796_100x100_001  もともとは、ドキュメンタリー映画「メリー・ポピンズの影」を製作したオーストラリアのプロデューサー、イアン・コリーが企画した「伝記映画」だが、イギリスのBBC映画が参画してデズニー・エンタプライスが製作・配給した。
 監督は、「しあわせの隠れ場所」('09)のジョン・リー・ハンコック。

 夢の王国を築いたウォルト・ディズニーが主役となる映画は、これが初めてである。
 映画は、昨年亡くなったウォルトの娘、ダイアン・ディズニー・ミラーに捧げられた。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

« April 2014 | Main | June 2014 »