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June 29, 2014

2497.ポリス・ストーリー/レジェンド

Img585_640 香港映画「ポリス・ストーリー」シリーズ、第一話「香港国際警察」から30年、10年ぶりにジャッキー・チェンが帰ってきた。
 スピンオフではないかなど異論はあるが、原題が「警察故事」とあるからシリーズ6作目と数えていいだろう。

348509_100x100_003 ただ今回は中国映画である。ジャッキー刑事も転勤したのか、舞台も香港から北京に移る。
 そして内容も、シリアスで始終重々しい人間ドラマとなっている。
 あのニコッと笑うジャッキーの顔も、ワイヤーアクション・早回しも登場しない。

 ジャッキー誕生60年記念作品でもある。国際的なアクションスターのジャーキー・チェンが、演技派へと俳優人生を切り替えた作品ともいえる。
 「自らの刑事人生(ポリス・ストーリー)に決着をつけるために帰ってきた」と、邦題は「レジェンド」の副題をつけた。

348509_100x100_005 お話は、仕事熱心のために家庭を顧みなかったジャッキー刑事が、一人娘との確執を解こうとナイトクラブを訪ねた。
 ところが、突然殴り倒されて監禁されてしまう。娘と10人近い客、彼らはなぜ人質となったのか。
 それは、彼も関わった5年前の事件に遡る。

348509_100x100_006 監督、そして脚本を書いたのは中国映画界の中堅ディン・シェン。
 4年前に、ジャッキーが企画・製作総指揮・主演した「ラスト・ソルジャー」に抜擢した監督である。

 この作品は中国古代が舞台だったが今回は現代、そのうえ「人気シリーズ」という過去を意識しながら新しい展開をはかる、その難しさをサスペンス映画に仕上げる事で乗り越えた。
 シエン監督は、ジャッキーが前作「ライジング・ドラゴン」('12)で、アクション映画からの引退を表明した事を、十分意識したようだ。

348509_100x100_004 共演者は香港の俳優ではなく、中国のスターたち。

 人質事件の主犯格、ナイトクラブの支配人は「山の郵便配達」('99)でスクリーンに初登場したリュウ・イエ。
 過去を背負った陰のある悪役として味のある演技を見せた。

348509_100x100_002_3 ジャッキーの一人娘は「7日間の恋人」('12)のジン・ティエン、ウイグル族の女優グリー・ナーザーは主犯の妹。

 もちろんアクション・シーン用に、中国の格闘技「散打」のチャンピオンが登場して60歳のジャッキーを痛めつける。

348509_100x100_007_2 泥臭く渋い初老のオヤジ刑事が、暴力に対して優しさで立ち向かう「ポリス・ストーリー」。
 そういえば最近は、往年の大スターたちが元気に悪と戦う映画が流行っている。

 ロバート・デ・ニーロ、マイケル・ダグラス、モーガン・フリーマン、ジョン・マルコヴィッチ・・・・、そして現在上映中のケビン・コスナー(「ラスト・ミッション」)。
 彼らとほぼ同世代の連れ合いが是非見たいというので、この映画に続いて一緒に出掛けることにしよう。

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June 27, 2014

2496.私の男

Img583_640 久しぶりの日本映画である。前回の「そこのみにて光輝く」(2475号)と同様、北海道を舞台にした重く哀しい作品である。

 原作は女流作家・桜庭一樹の、直木賞を受賞した同名小説。
 彼女らしく孤独な女性の情念が、怖くなるほど綴られていく。
 二階堂ふみが扮するヒロインにとって「私の男」とは、「それは誰にも、言えない」父親だった。

347874_100x100_001 原作では、舞台が東京~紋別~奥尻と過去に遡るが、映画は奥尻島の「北海道南西沖地震」から始まる。
 北海道出身の熊切和嘉監督とコンビの脚本家宇治田隆史は、東日本大震災の事も懸念して、大津波をクライマックスではなくプロローグに持ってきた。

 そのせいか、ミステリアスな部分は薄まる。しかし「北の果て」「流氷」「血」「疑似親子」「男と女」と、原作が表現したドラマチックな要素は凝縮されて生きる。

347874_100x100_006_3 1993年、奥尻島を襲った大津波で孤児となった10歳のヒロイン(少女時代は山田望叶)を、紋別から駆けつけた親戚の青年(浅野忠信)が引き取る。
 それから6年、冬のオホーツク海、流氷の上で殺人事件が起こった。 

 その流氷の街を、逃げるように出ていった養父と娘。大都会の片隅で暮らす二人の世界、そこには理屈を超えた濃密な愛が繰り広げられていく。

347874_100x100_009 「ヒズミ」('11)でヴェネチア国際映画祭最優秀新人女優賞を受賞した、二階堂ふみが作品の全てを支える。

347874_100x100_003 彼女は、中学生からOLまで、年代に応じた微妙な女心を上手く見せていく。

 養父の恋人(河井青葉)を、完全に呑みこむ小悪魔的なキャラ。
 養父に家族的な愛を求める少女から、男としての愛を求める思春期。
 さらにラストは、若い恋人たち(高良健吾・三浦貴大)だけでなく父親をも翻弄する、女として登場する。

347874_100x100_008 「海炭市叙景]('10)「夏の終わり」('12)など、大阪芸大時代から監督・脚本家とトリオを組んできた撮影の近藤竜人は、奥尻時代を16ミリ、紋別時代を35ミリ、そして現代の東京をデジタルで撮る。

 とくにオホーツクの流氷の映像はすごい、それは美しくて残酷。
 その流氷に、ヒロインが海中から這い上がるシーンがトップ。

347874_100x100_011_2 流氷に閉じ込められることは、北国の街に閉じ込められること。
 禁断のセックスシーンに降り注ぐ血の雨と、殺害される刑事の血吹き。
 大津波でゴミの山となった家々と、ゴミ屋敷化した男女の隠れ家。

 「香り」と「臭い」、熊切のイメージと近藤の映像は、説明を排して観客を挑発する。

モスクワ国際映画祭グランプリ・主演男優賞ダブル受賞!

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June 25, 2014

2495.梅雨時・清澄庭園

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 梅雨時の花を代表するのは「紫陽花」と「花菖蒲」。

 花菖蒲では葛飾の「水元公園」や綾瀬川沿いの「堀切菖蒲園」が有名だが、ご近所の「清澄庭園」も隠れた名所である。

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 江戸系(町娘)・肥後系(舞扇)・伊勢系(藤袴)・・・・・、と庭園の菖蒲田にはいろいろな品種が入り混じって咲いている。

058_640046_640 清澄庭園は、江戸の豪商・紀伊国屋文左衛門の屋敷跡。
 享保年間に、下総・関宿藩主久世大和守の下屋敷となり、庭園の原型が造られた。

056_640013_640 明治に入ると、岩崎彌太郎がこの一帯を買い取り迎賓館「深川親睦園」を開園、隅田川の水を引いた大泉水をはじめ、築山には全国から取り寄せた名石を配するなど、明治を代表する「回遊式林泉庭園」を完成させた。

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 庭園は、関東大震災で大きな被害を受けたが、損傷の少なかった東半分を岩崎家は東京市に寄付。
 1932(昭和7)年、整備・復旧された庭園は「清澄」の名を冠して一般に公開された。

004_640_2110611_014_320039_640110611_009_320  梅雨時は、「花菖蒲」と並んで「紫陽花」も見ごろ。
 広い庭園を散策すると、様々な品種の「紫陽花」を楽しむことが出来る。

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June 23, 2014

2494.ハミングバード

Img582_640 トルコ移民の女性(オドレ・トトウ)を主役に、イギリスの裏社会を描いた処女作「墜天使のパスポート」('03)でアカデミー賞脚本賞にノミネイトされたスティーヴン・ナイト。
 彼の脚本による「イースタン・プロミス」('07)も、ヴィゴ・モーテッセンを主役にイギリス裏社会に蠢くロシア・マフィアの話だった。

348581_100x100_002 今回の「ハミングバード」も舞台は同じ、ロンドンの暗黒街でどん底生活をおくるホームレス(ジェイソン・スティサム)が、一人の少女の仇を討つため復讐の鬼になる話。
 ナイトは、脚本だけでなく自らメガホンも執った監督デビュー作品である。

300pxboeing_a160_hummingbird_vtolua タイトルの「ハミングバード」とは「ハチドリ」のこと、この名前がついたボーイング社の無人偵察機A160に、アフガンの戦線で監視されていたのが主人公、イギリス軍特殊部隊の軍曹である。

348581_100x100_004_2 軍曹は、射殺された仲間の復讐のために住民を無差別に殺したという「トラウマ」を抱える。
 送還されて軍法会議にかけられる直前脱走し、ホームレスの世界に潜り込んだ。
 ダンボールの中で一緒に助け合っていた少女が、チンピラに拉致されて売春宿に売られる。
 その彼女が、サディストの証券マンに虐殺された。永遠のアウトロー・ステイサムが、ついに立ち上がる。

348581_100x100_003 ここでヒロイン(アガタ・ブゼク)も登場。ホームレスへの給食活動を続ける修道女、貧困街の天使と呼ばれる。
 彼女もまた、母国ポーランドでの少女時代に、教師から性的虐待を受けたトラウマを抱える。
 アウトローと天使の淡い恋が、物語に花を添える。

348581_100x100_001 主役のジェイソン・スティサムは国際的なアクション・スター、「トランスポーター・シリーズ」('02~'08)「エクスペンダブル・シリーズ」('10~'14)と、元高飛び込み選手時代に鍛えた肉体を披露する。
 ただ今回はアクション・シーンは抑え、怒り苦しみ、泣き悲しむという、人間らしい感情もじっくりと見せる。

348581_01_05_03 初監督のスティーブン・ナイトを支えるスタッフは、イギリス映画界の超ベテランたち。

 例えば、撮影のクリス・メンゲスはアカデミー賞撮影賞に4回ノミネイト、「キリング・フィールド」('84)「ミッション」('86)と2回オスカー受賞。
 「ワールド・アパート」('86)では、監督としてカンヌ国際映画祭グランプリ(審査員特別賞)も受賞している。

348581_100x100_005 また音楽のダリオ・マリアネッツ(「つぐない」'07ほか2回)、美術のマイケル・カーリン(「ある侯爵夫人の生涯」'08)などアカデミー賞にノミネイトされた経験を持つスタッフたちが参加した。

 映画は2年前に製作された古いものだが、アメリカで公開中のナイト監督の次回作「Locke」がヒットしているので、急遽輸入したのか。
 またはジェイソン・ステイサムの主演映画「バトルフロント」の公開が近いので、その前宣伝なのか、両作品とも配給会社は同じである。

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June 21, 2014

2493.グランド・ブダペスト・ホテル

Img579_640 今年の「ベルリン国際映画祭」で銀熊賞(審査員特別賞)を受賞した「グランド・ブタペスト・ホテル」、ウェス・アンダーソン監督の長編9本目の作品。

6 今年45歳の彼、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」('01)「ムーンライズ・キングダム]('12)など、アカデミー賞でも脚本賞ほか3回ノミネイトされた奇才、コミカルで洗練されたミステリーは彼ならではの作品である。

 今回の舞台となったのはヨーロッパ・ズブロフカ共和国、その山岳地帯にある超高級ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」。
 第二次世界大戦前夜、「伝説のコンシェルジュ」と呼ばれた男(レイフ・ファインズ)が、伯爵未亡人(ティルダ・スィントン)の遺産相続事件に巻き込まれ、弟子のベル・ボーイ(トニー・レヴォリオ)とヨーロッパ大陸を逃避行しながら、身の潔白を明かそうというお話である。

3 ズブロフカは、大戦でファシストに占領され戦後は共産圏に吸収されたとされるが、これはあくまでも架空の国。
 オーストリアでありチェコであり、またはリヒテンシュタインと思ってもいい。
 ファシズムとコミュニズムの波に洗われ、数奇な運命を辿った「ホテル」への追慕がベースにある。

348087_100x100_003 作品の語り口が面白い。

 大作家(トム・ウイルキンソン)が書いたベストセラー「グランド・ブタベスト・ホテル」から映画は始まる。
 50年ほど前このホテルに泊まった大作家(ジュード・ロウ)は、オーナー(F・マーレイ・エイブラハム)と知り合い、若き頃の思い出話を聞く。
 このオーナーこそ、「伝説のコンシェルジュ」を助け逃避行を続けたベル・ボーイだったのだ。

4 彼の話す遺産相続事件は、ルネサンスの絵画をめぐる連続殺人事件となってスリリングな展開を見せていく。
 スタイリッシュな映像、一癖も二癖もある登場人物、ユーモアあふれる語り口、観客はアンダーソン監督の魔術に酔わされていく。

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 その登場人物たち、豪華な顔ぶれである。

 オスカー俳優は、F・マーレイ・エイブラハム(「アマデゥス」'84)、エイドリアン・ブロディ(「戦場のピアニスト」'02)、ティルダ・スウイントン(「フィクサー」'07)。

 アカデミー賞ノミネイトは、レイフ・ファインズ(「イングリッシュ・ペイシェント」'96など2回)、エドワード・ノートン(「アメリカン・ヒストリー」'98など2回)、シアーシャ・ローナン(「つぐない」'07)、ウイレム・デフォー(「プラトーン」'86など2回)、ジュード・ロウ(「コールド・マウンテン」'03など2回)、ハーヴェイ・カイテル(「バグジー」'91)、トム・ウイルキンソン(「フィクサー」'07など2回)、ビル・マーレイ(「ロスト・イン・トランスレーション」'03)。

348087_100x100_004 そして主役のひとり若き頃のベル・ボーイ、トニー・レヴォロリだけは、オーディションで選ばれたグアテマラ系の少年である。

 スタッフもまた、錚々たる顔ぶれだ。

2 ドイツ・ドレスデンに残る古いデパートを大改造して、豪勢なホテル・ロビーにしたのは、「それでも夜は明ける」('14)でアカデミー賞美術賞にノミネイトされたアダム・ストックハウゼン。

348087_100x100_008 ’30年代のヨーロッパのファッションを再現した衣装のミレーナ・カノネロは、「マリー・アントワネット]('06)など3回のアカデミー賞受賞歴のあるトップ・デザイナー。

Photo_2 「アルゴ」('12)など6回のノミネイト実績のある作曲家アレクサンドル・デスプラが、「モルダビア人のシンバロン」「アルペイン・ホルン」「ヨーデル」「バラライカ」で歴史を紡ぐ。

 上映時間は100分、戦前・戦後・現在と話は交錯する。
 そしてスリーンは、1.37:1の四角(戦前)、アナモルフイック・ワイド(戦後)、1.85:1(現代)と変わる。
 アンダーソン監督は、その時代の映画に使われたサイズを再現して、時代への郷愁を誘った。

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June 19, 2014

2492.美しい絵の崩壊

Img578_640 昨年94歳で亡くなった女流作家、ドリス・レッシングの短編小説「グランド・マザーズ」が原作。
 現代イギリス文学を代表する作家といわれる彼女は、2007年にノーベル文学賞を受賞している。88歳、史上最高齢だった。

Img577_640_2 この短編を映画化したのは、アンヌ・フォンテーヌ(監督)とクリストファー・ハンプトン(脚本)のコンビ。

 フォンテーヌは、「ココ・アヴァン・シャネル」('09)を撮ったフランスの女流監督、官能的な愛を抑制のきいた演出で描くのが上手い。
 一方のハンプトンはイギリス出身、「危険な関係」('88)でアカデミー賞脚色賞にもノミネイトされた劇作家・監督であり、大人のラブストーリーを得意とする。

348514_100x100_010_2 舞台はオーストラリアの東海岸にある風光明媚な別荘地、それぞれが幼馴染で親友でもある2組の親子が主人公。
 家族ぐるみの付き合いの中で、美しく成長した息子たちを互いに愛してしまったのは、母親たちだった。

348514_100x100_011348514_100x100_003 それは不倫でも近親相姦でもないのだが、家族同然の熟女と10代の青年が一線を超えるところに、アンモラルのサスペンスが生まれる。

348514_100x100_007 姉妹のように育った母親を演じたのが、演技派女優ナオミ・ワッツ(「インポッシブル」'12)とロビン・ライト(「声をかくす人]'11)。
 ナオミはオーストラリアの女優で45歳、ロビンはアメリカの女優で48歳、ノーメイクで熟女の裸体をさらす。

348514_100x100_005 恋人になってしまった息子たち、セイヴィア・サミュエル(「トワイライト・サーガ」'10)とジェームズ・フレッシュブル(「アニマル・キングダム」'10)は、イケメンで肉体美を備えたオーストラリアの若手俳優である。
 

348514_100x100_008 観客がストーリーにひきつけられるのは、純粋ゆえに禁断の愛となる4人の行く末である。
 ワガママな子どもをリードする年上の女という「甘美な構図」は、やがて崩れるのではないかと。
 彼らが若い伴侶を持った時に。

941fbb9c1830803e42bbfbc96d07329f_2 レッシングの原作「グランド・マザーズ」は、その構図を冒頭に描く。
 「海辺でくつろぐ二人の女とその息子と《孫》たち」、この幸せに満ちた「美しい絵」がなぜ「崩壊」したかが、次に語られる。
 そして「Grand・moth・ers」と「Grand Mothers」の物語が展開していく。

 映画の原題はそれを「Two Mothers」とストレートに、邦題は「美しい絵の崩壊」とタイトルに凝った。

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June 17, 2014

2491.初夏・上高地(2)

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 「上高地帝国ホテル」、1933(昭和8)年に開業した日本初の山岳リゾートホテルである。

 日々の喧騒を離れ、ここでくつろぎの時を過ごすのが、上高地を訪ねるもう一つの目的だった。

 他のホテルより宿泊代は高いが、飛行機に弱く海外旅行には出かけない連れ合いの、唯一の贅沢なのだ。

006_640007_640 今年は、久しぶりにベランダ付きのツインを確保した。
 2月1日の予約受付日に、ほとんど埋まってしまう「ベランダ付き」だが、今年入会した「クラブ」の特典だった。

058_640200522_011_640_640 今回は霧がかかって見えなかったが、晴れた日にはウグイスの囀りを聞きながら、穂高連峰の雄大な峰々を眺めることが出来る。(穂高の写真は一昨年撮ったもの)

046_640017_640 デイナー前のひと時を、カクテルで楽しむのも毎年の事。
 吹き抜けのロビーラウンジ、中央にあるマントルピースが山小屋の雰囲気を醸し出す。
 夜になると気温が10度を割るので、この季節も薪が燃える。

062_640061_640 ホテルは、上高地が国定公園に指定された翌年にオープンし、昨年80周年を迎えた。
 その経緯についてはブログ2372号('13.10.24)で紹介したので省く。

 そこで今回は、ご希望の声があったディナーのメニューを並べる。

030_640033_640 〈ダイニングルームのフランス料理〉

 「ラングスティーヌを柔らかく仕上げて、安曇野産山葵のピュレと鱒の卵を合わせて」
 「ビーフコンソメに蕎麦の新芽と蓴菜を浮かべて」
 「平目にゆっくり火を通してクレソンのムースとキャヴィアを添えて」

034_640031_640 「帝国ホテル伝統のローストビーフ、ポテトのグラタンと共に」
 「フロマージュブランのムースとシャンパンジュレ、フランボワーズのソルベと共に」

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 〈あずさ庵の懐石〉

 「前菜・鯛昆布〆酒蒸 豆腐 山茶茸 春菊 ちり酢」
 「御椀・冬瓜丸吸」
 「造里・鮪 鱧 海胆」

209_640207_640 「箸休・分葱 炙り烏賊 ぬた」
 「焼物・安曇野産岩魚焼揚」
 「焚合・南京饅頭 アスパラ」
 「御飯・鮎御飯 赤だし 香の物」
 「水菓子・わらび餅 こし餡クリーム 黒蜜」

 もちろん、それぞれお酒もいただいたが、そちらは省略する。

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June 15, 2014

2490.初夏・上高地

080_640081_640 ここ10数年、季節を変えて上高地を訪ねている。昨年は「晩秋」だったので、今年は「初夏」にした。
 これまでの旅では、初めて雨に煙る風景に出会った。

 上高地は、日本を代表する「自然の聖地」。
 穂高の山並みと梓川、新緑の息吹を見せる森、自然が築き上げた美しい風景を求めて、多くの人たちがここを訪ねる。

116_640_2115_640_2 上高地のシンボル「河童橋」、芥川龍之介の小説「河童」の舞台となった名所である。
 ところが今回、人っ子一人もいない橋に出会った。春と夏の観光シーズンの狭間なのか、静かな梓川河畔を独り占めしたような嬉しいひと時だった。

200522_098_640_640200522_100_640_640 それでも6月は、一年間で最も花の多い季節だそうだ。
 
 遅い春を代表する「ニリンソウ」も、6月上旬まではその可憐な姿を見せる。
 一本の茎から二輪の花茎を伸ばすこの高山植物は、河童橋から明神・徳澤へ抜ける道で群生に出会う。

068_640077_640 右は「エゾムラサキ」、河辺林や水辺に群生する「ワスレナグサ」の仲間。
 7月上旬までは、鑑賞できる。

 左は「ラショウモンカズラ」、渡辺綱が羅生門で鬼の腕を切り落とした物語にちなむ。
 花の形が、鬼の腕を連想させる。

177_640175_640 河童橋の先、「小梨平」の由来となった「コナシ」(左)の花も、今が見ごろ。
 
 ただ「カラマツ」の植林が進み、「コナシ」の数は減ってきた。

 その木陰で、「アマドコロ」(右)を見つけた。地下茎が「トコロ」に似て、甘味があるのでこの名が付いた。

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 「ベニバナイチヤクソウ」「ニッコウキスゲ」「レンゲツツジ」「ヤグルマソウ」「マイヅルソウ」「イワカガミ」「シロバナヘビイチゴ」「サンカヨウ」・・・・・・。
 春の花と夏の花がオーバーラップして、水辺と森を彩る。

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 自然が築く造形を楽しみながら、梓川右岸の木道を歩く。
   あまり人は訪れない「岳沢湿原」が目的である。

138_640_2200522_055_640_640 ここは、奥穂高や西穂高からの雪解け水が、岳沢を経て流れ込んで出来た湿原。
 その木道側は、ヤナギやレンゲツツジが入り込み、湿地が乾燥して森に移行する様子が観察できる。
 上高地の自然も、年毎に変化していくのが面白い。

140_640_3143_640151_640160_640 静かな「岳沢湿原」では、3羽のヒナを加えた鴛一家と鴨が水草を突っつきながら泳ぎ回っていた。

162_640200522_010_640_640 
 
 霧の向こうには、「西穂高岳(2909m)」「天狗のコル」「ジャングルダム(3163m)」「ロバの耳」「奥穂高岳(3190m)」「吊屋根」「前穂高岳(3090m)」「明神岳(2931m)」が見える筈、右は一昨年5月に撮った写真である。

 来年は「晩秋」、それも冬直前を考えている。黄金色の「カラマツ林」と「ケショウヤナギの乱舞」を。

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June 13, 2014

2489.インサイド・ルーウィン・デイヴィス

Img576_640 「ファーゴ」('96)「ノーカントリー」('07)などアカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞など31回ノミネイト、計6部門でオスカーを受賞しているジョエル&イーサン・コーエンの最新作は、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」。
 昨年のカンヌ国際映画祭では、グランプリ(審査員特別賞)を獲り、今年のアカデミー賞では撮影・録音賞にノミネイトされた。

347687_100x100_013_2 1961年の冬、ニューヨーク・グリニッジ・ヴィレッジのライブ・ハウスを舞台に、「名もなき男の歌」の一週間が綴られる。

 主人公の「名もなき男」(オスカー・アイザック)は住所不定、生きることに不器用で才能はあるが妥協を拒み、レコードは売れない。知人の家を泊まり歩き、ただひたむきにフォークを歌う。

347687_100x100_014 妊娠させた歌手(キャリー・マリガン)やフォーク仲間(ジャスティン・ティンバーレイク)の助けも断り、シカゴのプロダクションを訪ねたが・・・・。
 ボブ・ディランという天才シンガーの出現により、フォークが世界的ブームになる「その狭間の物語」である。

Cover ボブ・ディランが憧れた伝説のシンガー、デイヴ・ヴァン・ロングの回想録をもと、にコーエン兄弟が自由に脚本を書いた。
 そして主人公として声をかけたのが、オスカー・アイザック。

 「ボーン・レガシー」('12)などに出演したグアテマラ出身の俳優、実はジュリアード音楽院を出た音楽家でもある。
 今回は演奏シーンはすべて編集なしで、見事なギタープレイと歌声を披露した。

347687_100x100_012_2 アイザックが唄う「ハングミー、オー・ハング・ミー」「フエア・ジー・ウエル」「グリーン、グリーン・ロッキー・ロード」から、ティンバーレイクとアダム・ドネムーとのトリオでの「プリーズ、ミスター・ケネディ」と、作品に流れるフォークはT・ボーン・バーネットが編曲する。

347687_100x100_006 バーネットは、イーサン兄弟と組んでグラミー賞受賞作品「オー・ブラザー!」('00)のサウンド・プロデューサーを務めた音楽家。
 ボブ・ディランとのツアーも経験しており、今回も音楽プロデューサーとして総指揮を執った。

347687_100x100_001 映画のもう一人(一匹)の主人公が、トラ猫「ユリシーズ」。
 ひょんなことからアイザックの相棒となったが、見事な「演技」で「名もなき男」のインサイドを見せる。
 タイム誌をはじめニューヨーカー誌などが、「厚かましいほど、主役を食っている」(ローリングストーン誌)と絶賛している。

347687_100x100_011 理想と現実との落差に悩み、思うようにならない人生に悪戦苦闘している人々に、コーエン兄弟が贈るエール。
 ラストに流れるのは、デイヴ・ヴァン・ロック自身が唄う「グリーン・グリーン・ロッキー・ロード」。

 映像もすばらしく、曇った灰色の色調が物哀しい物語にあう。

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June 11, 2014

2488.マンデラ~自由への長い道~

Img575_640 「マンデラの名も無き看守」('07)「インビクタス/負けざる者たち」('09)に続く、南アフリカの英雄ネルソン・マンデラ(1948~2013)を主人公にした作品。

Nelson_mandela2008_edit マンデラが少年時代から大統領就任までを綴った自伝「自由への長い道」を原作に、「弱さも欠点もある等身大の人間マンデラ」が描かれる。

 昨年12月に逝去したマンデラについては、多くの人たちがさまざまなエピソードを通じて、その人柄や思想・理念、反アパルトヘイト(分離・隔離政策)闘争と27年間にわたる獄中生活など、おおよその事は知っている。

348131_100x100_006 しかしこの映画は、反アパルトヘイト闘争を軸とした黒人たちの抵抗史と、そのリーダーの家族ドラマをオーバーラップさせながら、丁寧に描いていく。
 いわば「マンデラ伝記・完全版」といえよう。

348131_100x100_007 16年前に大統領在任中のマンデラから、「決して美化して描かない」条件で映画化を許された、インド系南アフリカ人プロデューサーのアナント・シン。
 彼は、波乱万丈の生涯だったが「普通の男が偉大なことを成し遂げた」という事実に話を絞る。
 彼もまた、反アパルトヘイト闘争に加わった活動家だったからだ。

348131_100x100_005 アサン・シンが指名した監督は、イギリス出身のジャスティン・チャドック(「ブーリン家の姉妹」'08)。
 ケニアを舞台に描いた「おじいさんと草原の小学校」('11)を製作したコンビである。

348131_100x100_002_2 そしてマンデラ役にイギリスの俳優イドリス・エルバ(「プロメテウス」'12)を、ドラマのキーとなる2度目の妻ウィーニーに同じくイギリスの女優ナオミ・ハリス(「おじいさんと草原の小学校」)を配した。

348131_100x100_003 愛し合って結ばれたウイーニーとマンデラの、その後の確執も正直に描かれる。

 獄中にあって南アフリカの将来を見据えた彼は、釈放後は人種融和路線を進める。
 しかし圧政下の黒人社会の中で、夫に代わって27年間の黒人解放闘争を続けてきたウイーニーにとって、それは妥協にしか映らない。
 二人は生活だけでなく、闘争路線上も袂を分かつのである。

348131_100x100_010 映画は、南アフリカ近代史のテキストでもある。
 法制度として「アパルトヘイト」が確立したのは、1948年とそんなに古くはない。

 同じ白人でもイギリス系と対立していたアフリカーナ(オランダ系白人・ボーア人)が、その権力を確固たるものにしようと、300もあった様々な差別制度を体系化し、人種分離・隔離政策を進めた。

348131_100x100_012 「シャーブビル虐殺事件」('60)「ソウェト蜂起」('76)など、政府による抵抗運動弾圧に対し国際社会の反発は強く、毎年国連総会で非難決議が採択されるし、1973年には「人道に対する罪」と「アパルトヘイト」を処断し、南アフリカ産商品のボイコット運動も起こっている。
 

 こうした海外からの批判とマンデラ釈放の国際世論をうけ、1990年には当時の大統領デクラークによってマンデラと仲間たちは釈放、翌年アパルトヘイトそのものも廃止された。
 そして3年後の全人種による初の総選挙で、絶大な支持を受けた彼は大統領に就任するのである。

348131_100x100_008 「民族の槍」を率いての武装闘争で国家反逆罪の判決、終身刑で収監とされてから32年、名実共に彼は南アフリカのリーダーとなった。
 しかしノーベル平和賞をも受賞したマンデラの名が、アメリカ政府の「テロリスト・リスト」から削除されたのは、2008年だったという。

  マンデラを支援し親交の深かったU2のボノは、映画の主題歌「オーディナリー・ラブ」を手掛けて、「愛の喜びと苦しみ」を歌いあげた。

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June 09, 2014

2487.アジアギャラリー

024_640 改修のために長い間閉館していた東京国立博物館・東洋館が、「アジアギャラリー」の名のもと、昨年リニューアルオープンした。
 谷口吉郎氏による設計で46年前に建てられた外観は変わらないが、展示室の動線や展示ケース・照明などが全面的に改められた。

018_640 面白いのは、地上5階・地下1階の建物の構造が複雑になり、迷ったり、すぐ目的の展示室に辿りつけない「仕掛け」になった事である。

016_640 コンセプトが「旅するギャラリー」、中国・朝鮮半島・東南アジア・インド・西アジア・エジプトなど、アジア各地の美術をめぐる旅、はるか紀元前まで遡る歴史を辿る旅、そこに住む人たちの生活や思想に思いを馳せる旅、館内を迷いながら旅が楽しめる。

013_640_2014_640 4つのテーマに分かれた「旅」のスタートは、「仏像の旅」から。
 インドからアジアの国々に伝わった仏教は、仏像として具象化され歴史を伝える。
 インド・ガンダーラの彫刻から、中国の「菩薩立像」、朝鮮の「菩薩半跏像」、東南アジアの「宝冠如来」と並ぶ。

007_640008_640 
 「神々をめぐる旅」は、アジアで生まれた様々な宗教を歩く。
 神々を表現する方法も、絵画・彫刻・容器の文様とバラエティー豊か。
 西アジア・エジプトの美術からクメールの彫刻、東南アジアのクベーラ坐像まで、祈りに触れる旅が続く。

017_640005_640「人に出会う旅」は、古代インドの謎の造形から始まり、東南アジア・朝鮮・中国などの芸能や儀式へと辿る。
 中国の三彩、朝鮮の青磁・白磁が観覧者の目を楽しませてくれる。

010_640011_640 「動物をめぐる旅」も面白い。
 人間とともに生きてきた動物たちは、私たちの生活に様々な彩を与えてくれた。
 神様になった動物、文様になった動物、人間が創り出した空想上の動物・・・。
 そんな動物たちと、ギャラリーで会える。

 「4つの旅」はゆっくり歩くとそれぞれ30~40分、「平成館」で催される有料の「特別展」を鑑賞した後に、アジアギャラリーを訪ねるとよい。
 その度毎に「ひとつの旅」を選んで、館内を彷徨うのだ。もちろん入館料は無料になる。

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June 07, 2014

2486.CANNIBAL

Img573_640  ヨーロッパ映画の隠れた佳作を見つけてくるブロードメディア・スタジオ、友人が役員を務めている映画配給会社である。
 この「 CANNIBAL」もそんな作品のひとつ、スペインのアカデミー賞といわれる「ゴア賞」で作品賞・監督賞・主演男優賞など8部門にノミネイトされた。

348871view005  「カニバル」とは、人肉を食べる人を指す。
 タイトルからホラー映画や猟奇映画を想像するが、この映画はヨーロッパ独特の「空気感」をもったロマンス作品。
 グロテスクなシーンは一切排し、静謐な映像美で描かれる。

348871_100x100_004 主人公は生真面目な洋服屋(アントニオ・デ・ラ・トレ)、セレブを相手に高級服を仕立てる日々を過ごしている。
 しかし彼のもう一つの顔は、美しき女性を襲って喰う「カニバル」だった。

 その彼が出会ったのは、ルーマニアからやってきた一人の女性(オリンピア・メリンテ)。
 
 彼が殺して食べた女性の姉だった・・・・・・。
 物語は、初めて「愛」を知ったカニバルが、純愛と背徳の狭間で苦悩していく姿が綴られていく。

348871_100x100_008 「シネマスコープ」の横長い枠に切り取られるトップシーンから、映像は冴える。とくに雪山のシーンは見事だ。
 
 撮影監督のパウ・エステベ・ビルバは、この映像で「ゴア賞撮影賞」を受賞した。

348871_100x100_002  主役のアントニオ・デ・ラ・トレ(「チェ39歳、別れの手紙」'08)は、スペインの演技派俳優。
 受賞は逃したが、昨年に続いて2本の作品で「ゴア賞」にノミネイトされている。
 「初めて、獲物を愛してしまった」カニバルを演じて、「純愛」の深淵を寡黙のなかでもがく。

348871_100x100_007  ポスターで美しいヌードを見せるオリンピア・メリンテは、ルーマニアの新進女優。
 今作では「ゴア賞・新人女優賞」にノミネイトされた。

 監督・脚本・製作のマヌエル・マルティン・クエンカは、ドキュメンタリー作家。日本のスクリーンでは、初登場である。

988508_710840475625635_7997810662_2 カニバルは、キリスト教の世界でも仏教の世界でもタブーとされる。
 しかし芸術や文学の世界では、禁断であるがゆえにテーマとなる。
 そこから「人間の本性」を見出そうとするのである。

 日本では上田秋成の「雨月物語」の青頭巾で登場するし、外国文学ではトマス・ハリスの「ハンニバル・レクター」が有名だ。
 「ハンニバル」は、映画「レッド・ドラゴン」('86)「羊たちの沈黙」('91)で知られているし、最近ではティム・バートン監督の「スウィーニー・トッド」でカニバルが主人公として登場している。

348871_100x100_001_2  今回の映画のシーンで暗示されるキリスト教の儀式のいくつか、「洗礼」の赤ワインはキリストの血、パンはキリストの肉体。
 主人公は毎夜毎夜、赤ワインを飲みながらステーキを食す。

 日本でも最愛の人の死に際し、遺骨を口に咥える「骨噛み」の風習が残っているという。
 死者への愛着から魂を受け継ぐという、宗教儀礼である。

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June 05, 2014

2485.K2~初登頂の真実

Img572_640 ゛K゛はカラコルム山脈の頭文字、゛2゛イギリス統治下のインド測量局が付けた標識番号。
 麓の山岳民族フンザは、「チョゴリ(大きい山)」と呼ぶが正式名称は「K2」とされた。

Th  標高8611m、エベレスト(チョモランマ)8848mに次ぐ世界第2位の高峰、しかしエベレストより登頂は困難で「非情の山」と呼ばれた。 

 「K2」の山頂に初めて人が立ったのは1954年、イギリス登山隊が、エベレストを征服した翌年である。

348505_100x100_006  ミラノの自然科学者デジオ教授は、第二次世界大戦で疲弊したイタリア国民が誇りを取り戻すよう最強のアルピニスト・チームを結成、未踏峰「K2」にアタックした。

 アタックチームは精鋭12名、その中の2人アッキレ・コンパニョーニとリーノ・ラチェデッリが初登頂に成功したが、その名前は公表されなかった。
 エベレスト初登頂の栄冠を勝ち取ったイギリス遠征隊のエドモンド・ヒラリー(ニュージランド人)とテンジン・ノルゲイ(シェルパ)の名が、全世界で賛辞を浴びる中それは異様なことだった。

348505_100x100_001 国をあげて祝福されるはずの「初登頂の栄光」、その陰に何があったのか。
 50年後に明らかにされたクライマーたちの思惑、名誉欲や嫉妬、裁判沙汰、その真実が明らかにされていく。

348505_100x100_004 実話にもとずく山岳ドラマである。それも極めて人間臭いドラマである。
 極限状況のなかで、人間の本性が次々と露わにされていく。

 ドキュメンタリー映画を撮り続けてきた、ルーマニア出身のロバート・ドーンヘルム監督が「その真実」を淡々と明らかにしていく。
 そして人間の本性を笑うように、「K2」の威容が神々しく映し出される。

348505_100x100_003  「K2」が「非情の山」と呼ばれるのは、アタックした登山者の4人に一人が命を失っているからだ。
 これまでにエベレストに登頂した人の数5,104人に比べ、302人しか成功していない。

Th  集落から遠く、ベースキャンプを設営する場所がかなり奥地になる。気象の変化が激しく、氷塊崩落や雪崩が多いなどなど。
 6年前には、氷塊崩落によりオランダ・フランス・韓国などの登山家11名が遭難死しているし、10年前には登頂に成功した女性登山家5名が下山途中で遭難している。

 因みに日本人登山家では、1977年日本山岳協会のアタック隊・重廣恒夫、中村省爾が初登頂している。

 「K2」初登頂から60年、「エベレスト」は61年、夏から秋にかけて「天空の頂~歴史を変えたエベレスト初登頂」「アンナプルナ南壁~7,400mの男たち」など、山岳映画が公開を待っている。

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June 03, 2014

2484.プリズナーズ

Img570_640 「X-MEN」シリーズのスーパー・スター、ウルヴァリンのヒュー・ジャックマンが今までにない役柄に挑戦して、緊迫の「クライム・サスペンス」映画が誕生した。
 娘を誘拐された父親が、法とモラルの一線を踏み越え、狂気の世界へと暴走してしまう作品でる。

347703_100x100_003 舞台となったのはアメリカ北部ペンシルベニア州の田舎町、娘とその友達が誘拐された。

 容疑者として挙げられたのが知的障害をもつ青年(ポール・ダノ)、嫌疑不十分で釈放されたが父親(ヒュー・ジャックマン)は彼を拉致して拷問にかけ、娘の居所を白状させようとする。

347703_100x100_006  少女誘拐事件を担当したのは、冷静沈着な有能刑事(ジェイク・ギレンホール)。しかし別の重要参考人が自殺して、事件は深い闇の中に沈んでいく。

347703_100x100_002_2  娘の命の危機が迫り、ますます狂暴化する父親、不気味な闇に閉ざされていく町、そして迷走する捜査。
 伏線を次々と張りながら緻密に構成された脚本は、154分という長い上映時間を決して飽きさせない。

 アーロン・グジコウスキのオリジナル脚本を映画化したのは、カナダの俊英トゥニ・ヴィルヌーヴ監督。
 アカデミー賞にノミネイトされた「灼熱の魂」('10)に次ぐ、長篇力作となった。

347703_100x100_009 そして撮ったのは、今回で11回目のアカデミー賞撮影賞にノミネイトされたベテラン・カメラマン、ロジャー・A・ディーキンス。
 全体をモノトーンに近い色彩で抑え、アメリカ北部の田舎の不気味さと日常に潜む狂気を映像化した。

 タイトルとなった「プリズナーズ」は、「囚われ人」の複数型である。
 直接的には誘拐された二人の少女を指すが、拉致監禁された青年と父親、さらには雨・雪で閉ざされた町をも暗示する。

347703_100x100_005 冒頭から語られる聖書の言葉、迷路、蛇、フリーメーソン、我々には理解しがたい宗教的な要素もちりばめ、神の前では全ての人が「囚われ人」であることを、作品は語る。
 一年間に80万人の子どもが行方不明になるアメリカ、それは神の御業なのかと。

 ヒュー・ジャックマンは「レ・ミゼラブル」('12)で、ジェイク・ギレンホールは「ブロークバック・マウンテン」('05)でアカデミー賞にノミネイトされているが、この映画の脇役もメリッサ・レオ(「ザ・ファイター」'10でオスカー受賞)、マリア・ベロ(「ヘルプ~心がつなぐストーリー」'11でノミネイト)、ヴィオラ・ディヴィス(「ハッスル&フロウ」'05でノミネイト)と、ベテランが顔を揃えている。

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June 01, 2014

2483.たつのおとしご

Img574_640 平均年齢は優に70代後半を超える演劇集団「たつのおとしご」。
 最近は蜷川劇団など高齢者メインの演劇も流行っているが、彼らはそのパイオニアといえよう。

006_640_2 その彼らが、ここ25年間一度も休まず年一回の公演を、日本橋劇場で続けているのだから感服する。

 もともとこの劇団は、学習院大学演劇部のOB・OGたちを中心に、作家の故・吉村昭さんが1990年に立ち上げたものだ。

 発足当時は定年60歳を迎えた人たちが主要メンバーだったので、今では80代半ばの方々が主役級である。

 若手は少ないが、戯曲の選択はバライティーに富む。
 フランスのモリエールの喜劇にアガサ・クリスティのミステリー、昨年はロベール・トマの「殺人同盟」だった。

002_640 そして今回は珍しく、イタリアの劇作家アルド・ニコライの「水の世界」。
 和田誠一の翻訳集「戯曲名作選」に「水族館」の題で収められている作品だが、日本で公演されるのは劇団「NLT」による銀座みゆき座以来3年ぶりである。

 主人公は漁師を夢見て、今日も養魚槽の前で日々時間を過ごす若い男。
 そんな彼に呆れて義兄は就職口を、母親は嫁さんを見つけてくる。
 頑ななまでに頑固さを持つ男なのだが、心の優しさがそうした家族の「強制」に妥協してしまう。その上に、7か月で赤ん坊まで出来た。
 夢を諦めてサラリーマンになってしまった若い父親、さてその行先は・・・・。
 それが「龍の落し子」だった。
 ほろ苦い大人の喜劇、現代社会への風刺劇である。

004_640 演じているのは、主婦・元テレビ局政治記者・元商社役員・元出版社編集長・ペンクラブ会員に大学名誉教授。
 不自由な足はそのまま役に活かし、忘れたセリフは度胸で隠し、皆嬉々としてそれぞれの役を演じていた。

 今年も中央区・日本橋劇場で昨日までの5回公演だったが、今回で一旦幕を閉じるのだそうだ。
 四半世紀にわたる公演、熟練を通り越した役者たち、一休みすることにした。

003_640 劇団を主宰し演出を担当する昔の職場の先輩は、「今後はまた別な形での公演を」と語る。
 まだまだ、演劇にかける情熱は失っていないようだ。

 今回の演目、イタリアでは「水の世界」、フランスでは「水族館」、そしてスエーデンでは「たつのおとしご」の題名で上演された。

 演劇集団「たつのおとしご」にふさわしく、フィナーレの演目は「水の世界~たつのおとしご~」である。

 皆さん、お疲れ様でした。

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