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July 30, 2015

2633.シネマ'15(洋画・上半期③)

 この半年に鑑賞した映画のクロニクル、洋画部門4作品③。

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   「ラスト5イヤーズ」(5月12日)

 オフ・ブロードウエイで大ヒットしたジェイソン・ロバート・ブラウンの同名ミュージカルを、「P.S.アイラブユー」('07)のリチャード・ラグラヴェネーズ監督が映画化した。

 女優を夢見るヒロイン(アナ・ケンドリック)と小説家として成功した恋人(ジェレミー・ジョーダン)との出会いと別れを切なく描いた作品。

 「ジェイミーは出て行ってしまった。そして私はまだ傷ついたまま・・・」との歌声から始まり、ヒロインの過去5年間を遡って綴っていく。

 一方、彼の物語は出会いから始まる。恋し夢を追うが、やがて二人の想いはすれ違っていく。
 5年間の愛の軌跡は、「逆行する時間軸」によって描かれ、一瞬の交錯が愛の切なさを歌う。

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   「フオーカス」(5月22日)

 「ALIアリ」('01)「幸せのちから」('06)と2回アカデミー賞にノミネイトされ、最も稼ぐ俳優と呼ばれるウイル・スミスが、天才的な詐欺師としてスクリーンの中でも稼ぎまくる。

 「世界最高の天才スリ師」として有名なアポロ・ロビンスを技術指導者!として招き、人間行動学に基ずく騙しのテクニックを次々と披露していく。

 ヒロインは若手セクシー女優のマーゴット・ロビー(「ウルフ・オブ・ウオールストリート」('13)、新人詐欺師としてウイル・スミスの腕と知能を盗み取ろうとする。

 人間の視線(フォーカス)をどこに向けさせるか、それが騙しのコツである。
 監督は、グレン・フイーカーラとジョン・レクアのいつものコンビ。

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   「サンドラの週末」(6月8日)

 「ある子供」('05)などカンヌ国際映画祭で2回のパルムドール(最高賞)を受賞しているベルギーの名監督兄弟、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの最新作。
 今回を含め、カンヌのコンペ出品は6回連続である。

 仕事をリストラされた主人公(マリオン・コティヤール)が家族に支えられながら、同僚たちを訪ね復帰の賛同を願う週末を描く。

 人と人の絆、人間の強さと弱さ、そして善意、オスカー女優(「エディット・ピアフ」'07)コティヤールの演技が光る。
 今年のアカデミー賞でもベルギー代表となった作品。

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   「チャッピー」(6月17日)

 「第9地区」('10)「エリジュウム」('13)と、アパルトヘイトをモチーフにした「SF映画」の傑作を撮り続けている南アフリカのニール・ブロムカス監督の5作品目。

 今回は人工知能(AI)を搭載したロボット兵器「チャッピー」を主人公に、2016年のヨハネスブルグの犯罪都市を描く。

 ロボットを造った科学者(デーヴ・パテル)、奪ったギャング夫婦(ニンジャ&ヨーランディ)、目の敵にする科学者(ヒュー・ジャックマン)。
 無垢の可愛いロボットが、武器の使い方を教え込まれ泥棒する姿は、南アフリカの貧困家庭の現実を示唆する。

 人間の心そして死、知能とは、チャッピーが究極の状況を突き付ける。

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July 27, 2015

2632.シネマ'15(洋画・上半期②)

 この半年に鑑賞した映画のクロニクル、洋画部門4作品の②。

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   「ジュピター」(4月6日)

 「マトリックス・シリーズ」('99~'03)でヒットを飛ばし世界中の注目を浴びたウオシャウスキー姉弟、「クラウドアトラス」('12)に続いて二人で脚本を書き監督した作品。

 シカゴで清掃員として働く平凡な女(ミラ・クニス)が、実は全宇宙を支配する一族の王女ジュピターだった。
 兄に襲われた彼女を救ったのが、宇宙ハンター(チャニング・ティタム)。
 彼女自身に隠された全銀河を揺るがす秘密、ジュピターの冒険と闘いの旅が始まる。

 古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」にヒントを得て描かれた、壮大なSF映画。

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   「カフェ・ド・フロール」

 「ダラス・バイヤーズクラブ」('14)でアカデミー賞3部門を制したカナダの俊英ジャン=マルク・ヴァレが監督したカナダ・フランスの合作映画。

 '60年代のパリと現代のモントリオールを舞台に、二つの時代を生きる母と障害を持つ息子(ヴァネッサ・パラディ+マラン・ゲリエ)、バツイチの男と女(ケヴィン・パラン+エヴリーヌ・ブロッシュ)。
 時を超えて惹かれあう奇蹟のラブ・ストーリーである。

 二つの物語を紡ぐのが、マシュー・ハーバートの名曲「カフェ・ド・ロール」。
 歌手・モデルとしても活躍するフランスの女優パラディの演技に世界が絶賛した。

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   「ギリシャに消えた嘘」(4月14日)

 「太陽がいっぱい」の原作者として名高いパトリシア・ハイスミス(1921~1995)が書いたクラッシック・サスペンス「殺意の迷宮」の映画化。
 イラン出身の脚本家ホセイイン・アミニ(「ドライヴ」'11)が、初めてメガホンを執った。

 止む得ず人を殺めた詐欺師(ヴィゴ・モーテンセン)と美貌の妻(キャスティン・ダンスト)。
 そして殺人を目撃してしまい、彼らの逃避行に付き合ってしまう青年(オスカー・アイザック)。

 男女3人の逃避行がもたらす愛と欲望の結末を、ギリシャの古代遺跡の中で描く。

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   「セッション」(5月11日)

 今年のアカデミー賞で作品賞など5部門にノミネイト、助演男優賞(J・K・シモンズ)など3部門が受賞した作品。

 名門音楽学校に入学したドラマー志望の青年(マイルズ・テラー)が主人公。
 そこに待ち受けていたのが完璧を求める狂気のレッスン、自分が叶えられなかった夢を実現しようとする教授(J・K・シモンズ)だった。

 家族・恋人・人生さえ投げ打って教授の目指す極みへ這い上がろうとした主人公だったが・・・。
 監督・脚本・原案のディミアン・チャゼルは、ハーバード大出身28歳の新人。

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July 24, 2015

2631.シネマ'15(洋画・上半期①)

 この半年鑑賞した映画で、個別にブログで紹介出来なかった作品のクロニクルです。
 前号に続いて「洋画①」4作品を。

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   「天才スピヴェット」(1月12日)

 「アメリ」('01)でアカデミー賞5部門にノミネイトされたフランスの奇才、ジャン=ピエール・ジュネ監督が初めて撮った3D映画。

 舞台はアメリカ、山と緑に囲まれたモンタナの牧場に住む10歳の天才科学者スピヴェットが、科学賞授賞式に出席するために家出してワシントンに向かうロードムービーである。

 ジュネ監督は、最新鋭のおもちゃで遊ぶかのように、豊かで自由な発想で3Dを駆使し独自の世界観を映像で紡ぐ。

 初デビューした主人公役のカイル・キャトレットが、天才科学者ならぬ天才俳優の冴えを見せる。
 天才を生んだ風変わりな母親、昆虫!研究者に「英国王のスピーチ」('11)でアカデミー賞にノミネイトされたヘレナ・ボナム=カーターが顔を。

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  「チャーリー・モルデカイ」(2月12日)

 「エージェント:ライアン」('14)など、数々のヒット作品を撮るデヴィッド・コープ監督が、「シークレットウインドウ」('04)に続いて怪優ジョニー・ディップと組んだ痛快アクション・アドベンチャー。

 インチキくさいセレブ美術商モルデカイが、自慢のウンチクとカイゼル髭のはったりで、大富豪・マフィア・国際テロリスト・警察を相手に謎の名画を追う。

 イギリス~アメリカ~ロシア~香港と伝説の財宝の謎が隠された名画を追うモルデカイ、「パイレーツ・オブ・カビリアン」を凌ぐジョニー・デップの新キャラクター誕生である。

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   「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」
                  (2月20日)

 ロンドンに住む主婦がネットに投稿した「マミー・ポルノ小説」が原作。
 クチコミによる評判を聞いて大手出版社が書籍化、瞬く間に50ヵ国以上で出版され1億人の若い女性のハートに火をつけた。

 女子大生の主人公が、大富豪の青年と知り合い恋におちいる。ところが青年はサディズムの性的嗜好を持ち、彼女に「BDSM」の主従契約を持ちかける・・・・。

 ヒロインは、スーパースターのドン・ジョンソンの娘ダコタ。赤裸々な性描写に多くの役者が降板した中、彼女の体を張った演技が話題となった。
 相手役のジェイミー・ドーナンも、長い脇役生活から一躍銀幕を席巻、多くの女性ファンを虜にしたという。

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   「パーフェクト・プラン」(3月2日)

 デンマークの監督ヘンリウ・ルーベン・ゲンツが、アカデミー賞にノミネイトされた演技派俳優たちと組んで撮った、初めてのイギリス映画。

 偶然手にした3.500万円、それは決して手を出してはいけない「黒金」だった。
 シカゴからロンドンに移住して貧乏生活から逃れようとした若い夫婦の前に、マフィア・麻薬密売組織の手が伸びる。

 冒頭からクライマックスまで緊迫感が続く、クライム・サスペンスである。

 若い夫婦にジェームズ・フランコ(「127時間」'10)とケイト・ハドソン(「あの頃ペニー・レインと」'00)。
 冷酷なフレンチ・マフィアに「最強の二人」('11)のオマール・シーが出演。

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July 21, 2015

2630.世界報道写真展

157_041_640157_039_640_2 世界を巡回中の「世界報道写真展2015」が、今年は池袋の東京芸術劇場ギャラリーで開催中。
 いつもは恵比寿の東京都写真美術館だが、現在改装中のため会場が変わった。

 131の国と地域から5、692名のフォトグラファーが応募した97,912点の応募作品の中から、大賞をはじめ8部門の入賞作品69組・42人の写真パネルが展示されている。

Img086_640 右の写真が、今年の「世界報道写真大賞」作品。
 レスビアンやゲイなどLGBTの生き方に、様々な圧力を加えているロシアの現実を、一枚の写真で切り取ったデンマークのマッズ・ニッセンのショット。
 「現代社会の問題」の部で、単写真一位となった。

Img089_640_2 「現代社会の問題」の部・単写真2位は、中国の陳栄輝が撮った中国の労働者。
 赤い塗料が漂う中、マスクとサンタ帽を身に付けて乾燥中のクリスマス飾りのそばにたたずむ。
 数時間で全身が赤く染まるため、1日に6枚のマスクを交換する。

Img085_640 「スポットニュース」の部・単写真1位は、トルコのピュレント・クルチの作品。
 機動隊と反政府デモ隊との衝突で負傷した若い女性。トルコ・イスタンブールで犠牲となった少年の葬儀デモに、催涙ガスと放水銃が襲いかかった。

Img084_640 「一般ニュース」の部・単写真2位は、地中海の難民たちの写真。
 イタリアのマッシモ・セスティ-ニが、イタリア海軍巡洋艦に救助された難民たちをリビア沖で撮った。

Img083_640 「自然」の部では、ポスターの写真となった「サイの初めて出逢ったサンブル族の若者たち」。
 アメリカのアミ・ヴィタールがケニア北部・レワダウンズ自然保護区で撮った。
 「ナショナルジオグラフィック」誌に掲載されたこの写真は、野生動物密漁阻止の前線に立つ先住民たちへの支援を訴えている。単写真2位。

Img087_640 左の写真は、「スポーツ」の部・単写真1位。
 W杯の決勝戦でドイツに敗れたアルゼンチン、優勝トロフィーを眺めるのはアルゼンチンのスター・メッシ選手である。
 中国の鮑泰良カメラマンが、リオデジャネイロで撮った。

Img088_640 最後に右の写真、オーストラリアのラファエラ・ロゼッラの撮った「ポートレート」の部・1位。
 先住民の子供たちは、今でも根強く残る人種差別・貧困、それがもたらすトラウマの連鎖に晒されている。

157_038_640157_040_640 同時代に生きる人たちの、普通は目にすることが少ない現実。
 世界で起きている紛争や現代社会の問題、奇跡的なスポーツの瞬間や壊されていく自然の姿。
 展示されている62枚の写真が、観る者に訴える。

 今年は残念ながら、日本人フォトグラファーの写真はない。アジアからは、6人の中国人カメラマンが入賞していた。

 「世界報道写真展2015」は8月9日まで、池袋・東京芸術劇場で。観覧料は、800円。

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July 18, 2015

2629.シネマ'15(邦画・上半期)

 この半年鑑賞した映画で、ブログで個別に紹介出来なかった作品のクロニクルです。
 まず「邦画」から。

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   「繕い裁つ人」(2月3日)

 渡辺葵の同名コミックの映画化。
 「しあわせのパン」('12)「ぶどうのなみだ」('14)など、職人をテーマに映画を撮ってきた三島有紀子監督が8年間温めてきた企画である。

 祖母が作った服の仕立て直しとサイズ直し、あとは祖母のデザインを流用した数点の新作だけ。
 「世界で一着だけの、一生もの」に拘る洋裁職人(中谷美紀)を描く。

 前作・前前作は北海道オールロケだったが、今回は神戸が舞台。
 出演は、ほかに三浦貴大・片桐はいり・中尾ミエ・伊武雅刀・余貴美子。
 三島監督は、NHKでドキュメンタリーを撮ってきたディレクター出身。

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   「ソロモンの偽証」(前篇3月9日・後編4月30日)

 宮部みゆき原作のヒューマン・ミステリー超大作を、「ふしぎな岬の物語」('14)の成島出監督が撮った。

 学校内で発生した同級生の転落事故の謎を、大人たちの反対を押し切って、生徒だけの「校内裁判」で明らかにしようとする中学生たちを描く。
 原作は「事件」「決意」「法廷」の3部構成だったが、映画は「前篇・事件」「後編・裁判の2部作。

 生徒役はオーディションによって選び、多くの演技未経験者が出演している。
 ヒロインとなる藤野涼子も役名を芸名として本作デビュー、脇を固める教師や父母役に佐々木蔵之介・夏川結衣・永作博美・黒木華・小日向文世・松重豊らが出演。
 後にこの中学校の教師として赴任したヒロイン(尾野真千子)が、物語を紡ぐ。

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   「龍三と七人の子分たち」(5月4日)

 「アウトレイジビヨンド」('12)以来、久々の北野武監督の作品。
 相変わらずヤクザが主人公だが、いずれもOBのジジイたちというのが、今回のウリ。
 北野監督にしては珍しく、とことんコメディに徹した映画である。

 引退した親分・龍三(藤竜也)が、オレオレ詐欺に引っかかった。
 そこで駆けつけたのが舎弟のマサ(近藤正臣)に、はばかりのモキチ(中尾彬)・早打ちマック(品川徹)・ステッキのイチゾウ(樋浦勉)・五寸釘のヒデさん(伊東孝純)・カミソリのタカ(吉沢健)・神風のヤス(小野寺昭)の面々。

 「金なし、先無し、怖いもの無し!俺たちに明日なんかいらない!!」と、詐欺を生業としている新興ヤクザ(安田謙・下條アトム)らに闘いを挑む。
 刑事役として監督(ビートたけし)が、いつもの様に嬉しそうに登場する。
 高齢者必見の映画。

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   「駆け込み女と駆け出し男」(5月28日)

 井上ひさしが、晩年の11年間描き続けた連作時代小説「東慶寺花だより」が原案。
 「クライマーズ・ハイ」('08)の原田直人監督が、念願の時代劇に挑戦した。「ラスト・サムライ」('03)に俳優として出演して以来の時代劇である。

 「天保の改革」がすすむ江戸時代、離婚を望む女たちが駆け込む幕府公認の縁切り寺「東慶寺」が舞台。
 見習い医師で戯作者を夢見ている主人公(大泉洋)は、寄宿している寺御用宿で駆け込んできた女たちの事情聴取に当たるが・・・・。

 美しい日本の四季を背景に、女の強さとせつなさ、そしておかしさを、暖かい視点で描く人情時代劇である。

 一癖もふた癖もある駆け込み女に、満島ひかり・戸田恵梨香・内山里奈。
 宿の女主人公・ベテラン離縁調停人に樹木希林が出演している。

 ロケは姫路の円教寺など関西の寺々、残念ながら鎌倉の東慶寺は昔の面影を残していない。

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July 15, 2015

2628.ヘレン・シャルフベック展

Img094_640 ポスターの下の写真は、フィンランドの国宝級の絵画《回復期》(188年)。
 同じ国宝級の《黒い背景の自画像》(1915年・右下)は、国立アテネウム美術館の求めに応じて描いたもので、数々の自画像を代表する作品である。

Helen_640 ヘレン・シャルフベック(1862~1946)、フィンランドを代表する画家。
 東京芸術大学美術館で開催されている彼女の「大回顧展」は、私を含め多くの人たちが初めて彼女の作品に出会う機会となった。

 子供の頃の事故で足が不自由になった彼女は、奨学金をを得て18歳でパリに留学、画家としてスタートを切る。
 彼女の作品が、マネやセザンヌ、特にホイッスラーの影響を受けつつ、独自の世界を切り開いていったきっかけとなった。

Img100_640_2 シャルフベックの画業で何よりも注目すべきは、死の直前まで描き続けた自画像である。
 それは新しい絵画技法を試す場であり、自らの心情を記録する機会だった。(左は死の1年前の作品)

 「魂のまなざし」と副題を付けた「個展」は、彼女の画歴を追った84点の絵画で構成される。
 代表的な作品で紹介しよう。

Img099_640 「第1章・初期:ヘルシンキ」
 11歳で素描を学び始め、18歳の時描いた《雪の中の負傷兵》(1880年)でパリ留学の奨学金を得る。
 ブルタニュー地方を旅し、土地の子供たちと接した彼女は優しい眼差しの作品を残す。(右は《少女の頭部》1886年)
 上のポスターで紹介される《回復期》は、パリ万博で銅メタルを受賞した。

Img097_640 「第2章・フランス美術の影響と消化」
 フインランドに戻った彼女は、母の介護を兼ねヘルシンキ郊外に移り住む。
 フランスの美術雑誌を購読し、その影響を受けながら一気に花を開かせる。
 左の《お針子(働く女性)》(1905年)は、パリで活躍するホイッスラーの影響を受けた作品として知られる。

Img103_640 「第3章・肖像画と自画像」
 シャルフベックは、画家として自らを肖像画として表すと同時に好きな人たちの肖像画を描いた。
 どの肖像画も抽象的で明るい色調で描く。(右は《諸島から来た女性》1929年)
 ただ失恋した時描いた自画像は、ナイフで顔の部分を傷つけたものだった。(《未完成の自画像》1921年)

Img102_640 「第4章・自作の再解釈とエル・グレコの発見」
 歳を重ね体調も思わしくない中、彼女は美術雑誌や画集からインスピレーションを受けた作品を発表していく。
 その一つが、17世紀のスペインの画家エル・グレコの画集から想像を膨らませて描いた《天使断片》(1928年)。
 中世の宗教画は、現代的な感性で生まれ変わる。

Img101_640 「第5章・死に向かって:自画像と静物画」
 晩年療養ホテルに移った彼女の静物画《黒いりんごのある静物》(1944年)。
 おとろえていく自分と重ね合わせた、腐りゆくりんごが描かれている。
 彼女はホテルの一室で、最後の瞬間まで自分にまなざしを向け描きつづけた。
 その自画像は20点にのぼる。

Imgp8287_640_2 1946年逝去。享年83歳。

 「ヘレン・シャルフベック~魂のまなざし」は、今月26日まで東京藝術大学美術館で。観覧料は1.500円。
 そのあと、仙台~広島~神奈川県葉山と巡回する。

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July 12, 2015

2627.7月のシネマ(2)

 「マッドマックス」「アベンジャーズ」「ターミネーター」など、ハリウッド系は膨大な製作費をかけたSFアクション超大作が並んでいるが、こちらは「非ハリウッド」、それも縁の薄かったトルコとデンマークの作品、邦画(2625号)に続いてカンヌ出品作品である。

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   「雪の轍」

 今年のカンヌ国際映画祭で、パルム・ドール(最高賞)を受賞したトルコ(仏・独共同制作)の作品。

350928_002 監督・脚本のヌリ・ビルゲ・ジェイランは、これまでも「冬の街」('03)「スリー・モンキーズ」('08)「昔々、アナトリアで」('11)でグランプリや監督賞を受賞しており、国際的に高く評価されている映画作家である。

 しかし日本では、長篇7作品目となる「雪の轍」が初めての上映で、映画評論家以外には知られていなかった。

350928_004 舞台となったのは、トルコのカッパドキア。
 「美しい馬」が名前の由来だが、溶岩層が風雨にさらされて出来たキノコ状の奇岩の光景は世界遺産にも指定され、多くの日本人観光客もここを訪れている。

350928_005 主人公は初老の元舞台俳優(ハルク・ビルギネル)、親の遺産である洞穴ホテルを若く美しい妻(メリサ・ソゼン)と出戻り妹(デメット・アクバ)とで営む。

350928_003 生活に不自由はない3人だが、妻は夫の資産を当てに慈善事業にのめり込み、夫婦仲は冷え切っている。
 皮肉屋の妹は田舎の単調な生活を疎み、兄や年下の義姉につっかかる日々。
 そして、家賃を滞納している店子とのトラブルが、3人の感情を狂わせていく。

350928_001 文豪チェーホフの著作に着想を得た、「会話劇」である。
 カッパドキアの地名である美しい馬、シェイクスピアの舞台劇のセリフ、シューベルトの「ピアノソナタ第20番」の旋律が奏でる中、カッパドキアの奇岩の美しさとはうらはらに、閉塞感の満ちた部屋で、剥き出しの感情がぶつかり合う。

 196分という上映時間を長く感じなかったのは、私たちも密かに抱える心理的な葛藤と、主人公たちのそれが無縁ではなかったからだろう。

 出演者は、全員が初見のトルコの俳優たち。アカデミー賞外国語作品賞トルコ代表としても出品されたほか、数多くの映画賞を受賞した佳作である。

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   「悪党に粛清を」

 今年のカンヌ国際映画祭に正式出品されたほか、シカゴやロンドン・台湾・ノルウエーなどの映画祭に出品され、注目を集めたデンマーク(英・南アフリカ共同制作)の作品。

352120_001 プロダクション・ドグマ95を率いるクリスチャン・レヴィリングが、国際的に活躍する脚本家アナス・トマス・イエンセ(アカデミー賞受賞作品「未来を生きる君たちへ」'10)と共同で脚本を書き監督した。

352120_005 「偽りなき者」('12)でカンヌ主演男優賞を受賞したデンマークを代表する俳優、マッツ・ミケルセンを主人公にしたウエスタン・ノワールである。

352120_002 舞台はアメリカ中西部、第一次世界大戦で復員したデンマーク兵(ミケルセン)が、7年ぶりに呼び寄せた愛妻と息子を、ムショ帰りのならず者に虐殺される。
 相手を仕留めたものの、その兄貴が一帯を支配する騎兵隊の元隊長(ジェフリー・ディーン・モーガン)だった。

352120_003 弟の仇と配下とともに主人公を追う悪党たち、謎に包まれた悪党の情婦(エヴァ・グリーン)もからみ、孤独で壮絶な復讐のクライマックスとなる。

 南アフリカの砂漠で撮った西部劇、陰影に満ちたシャープな映像はマカロニ・ウエスタンを超えた「スカンジナビアン・ウエスタン」。
 「駅馬車」「荒野の七人」「OK牧場の決闘」など、数々の西部劇の名作をオマージュしてクールに撮る。

352120_004 先住民から奪い獲った女、悪党の情婦役エヴァ・グリーンはフランスの女優。
 「300~帝国の進撃~」('14)では主役も演じた彼女には、「許されざる者」('60)のオードリー・ヘプパーンのイメージとも重なる。

352120_006 原題は「The Salvation」、「救出」と訳すべきか「救い」と宗教的な意味を持たせるのか。

 「神はなぜ、復讐という業を背負わせたのか」との惹句。

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July 09, 2015

2626.雨の建長寺

004_640015_640 今月の「ひとまくウオーキング」は雨、それも豪雨だった。
 スタートは北鎌倉駅、びしょ濡れになりながら凡そ15分、建長寺の「天下門」をくぐる。

013_640 鎌倉五山(建長寺・円覚寺・寿福寺・浄智寺・浄妙寺)の「第一位」の寺、正式には巨福山建長興国禅寺、臨済宗の寺院である。

029_640024_640 山号は門前を通る「巨福坂(こぶくろさか)」から、寺名は創建された年「建長五年」(1253年)を記した。

 鎌倉幕府五代執権・北条時頼が、禅によって国の興隆を図ろうと、宋から高僧・蘭渓道隆を招いて創建した「興国禅寺」である。

016_640_3017_640_2 「三門」に掲げられた寺名の大額は、後深草天皇(1246~1259)の筆。
 この三門の楼上を、今回特別に観覧できるという事で、雨を予測したが鎌倉散策を企画したのだ。

032_640042_640 三門とは、「三解脱門(空門・無想門・無作門)」の略。
 狭く急な階段を登った楼上には、釈迦如来や五百羅漢が祀られている。

037_640045_640_2 三門は通称「狸の三門」とも呼ばれている。

 1775(安永4)年、度重なる戦火で焼失していた三門を再建しようと、二百一世の和尚は資金集めのために多くの雲水を諸国に派遣した。

046_640039_640 その中に、和尚が可愛いがってた裏山の古狸も雲水に化けて加わっていた。
 日頃の恩に報いようと、勧進の旅に出たのである。

049_640 しかし中山道・板橋宿で正体がばれ、殺されてしまう。
 ところが狸が背負っていた風呂敷には多くの浄財が。
 和尚は狸を手厚く葬り三門の再建資金にそれを加えた、という逸話が伝わる。

 和尚の名は萬拙碩誼(ばんせつせきぎ)、何故か顔が狸に似ていたので以後「狸和尚」と呼ばれた。

061_640068_640 本尊である「地蔵菩薩」を祀る「仏殿」、「先手観音像」を祀る「法堂(はっとう)」、いずれも江戸時代に再建された建物で、国の重要文化財に指定されている。

072_640065_640 「法堂」の天井には、創建750年を記念して日本画家・小泉淳作が描いた「雲龍図」がある。

 京都・建仁寺の「双龍図」と対をなすもので、「五爪の龍」である。
 中国伝来の教えで、五爪は中国の寺のみで日本は三爪しか許されていなかった。
 ただ建長寺も建仁寺も、宋の高僧・蘭渓(大覚禅師)が創建した寺という所以があるからだろう。

026_640083_640 創建当時のまま残っている国宝の「梵鐘」や増上寺から移設した「唐門」を巡って、雨の建長寺の散策を終えた。

078_640077_640 多くの寺院が、堂内や仏像は祈りの対象だからという理由で、撮影を禁止している。
 しかし建長寺は、日常は登楼を断っている三門の楼上でも、「仏さま」の撮影を認めた。
 これもまた「仏縁」だからという。

Th_64012_640_2 今月の「ひとまくウオーキング」、最後は建長寺の塔頭でもある「円応寺」。
 通称「閻魔堂」「十王堂」にお詣りして、日々の生活での「悪業」を懺悔することにした。

Th11_640 本尊は「閻魔大王坐像」(重要文化財)、地獄に落されそうになった仏師・運慶が悪行を悔いる代わりに「造らされた」閻魔様だそうだ。
 どことなく笑っているような顔は運慶の喜び、古来「笑い閻魔」と呼ばれている。

003_640 「我昔所造諸悪業」 「皆由無始貧瞋痴」
 「従身口意之所生」 「一切我今皆懺悔」
 ・・・・イッサイガコンカイザンゲ・・・・・。
 閻魔大王様の前にて心静かに三度唱え、今まで犯した罪を全て赦してもらった。

 今月の歩数は、4.225歩と例月より少ない。豪雨のため、帰途は鎌倉駅までバスにしたからだ。

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July 06, 2015

2625.7月のシネマ

 カンヌ国際映画祭の受賞監督二人、日本より海外で評価の高い是枝裕和と河瀬直美の最新作を見た。
 これまで原案・脚本を自ら手にしてきた二人の監督が、珍しく原作ものを撮っている。

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   「海街diary」

 「そして父になる」('13)でカンヌの審査員賞を受賞した是枝監督は、それ以前にも「空気人形」('09)が「ある視点部門」に正式出品され、今回の「海街diary」はコンペ部門に選ばれるなど、カンヌの常連と言われる。

349516_001 先鋭的な主題や演出が目立つ国際映画祭にあっては、珍しい静かな作品である。

 鎌倉の四季を背景に4姉妹の日常を丁寧に描いた小津安二郎的な作品として、受賞は逃したものの高く評価された。

 文化庁メディア芸術祭('13)でマンガ大賞を受賞した吉田秋生のコミックを原作に、監督自身が脚色した作品である。

349516_002 鎌倉に住む3人姉妹(綾瀬はるか・長澤まさみ・夏帆)のもとに、15年前に家を出ていった父親の訃報が届く。
 父には異母妹(広瀬すず)がいた。その彼女を鎌倉の家に引き取ることにしたが・・・・・。

349516_013 しっかりもので口うるさい長女・綾瀬と奔放でズケズケ文句を言う次女・長澤、そしてマイペースの三女・夏帆。
 古い家で食卓を囲む中、異母妹の彼女は姉たちから父親を奪った亡き母に拘る。

349516_014 4姉妹を取り巻く人々が、「豪華な演技派」である。
 再婚した母親(大竹しのぶ)、大叔母(樹木希林)、長女の不倫相手(堤真一)、次女の上司(加瀬亮)、食堂のおばちゃんたち(風吹ジュン・リリー・フランキー)ほか。

 毎月の「鎌倉ウオーキング」で歩く街並みや海岸を、大スクリーンで楽しむことも出来た。

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   「あん」

 「萌の朱雀」('97)でカンヌ・カメラドール賞(新人監督賞)を受賞してデビューした河瀬監督。

An 「殯の森」('07)がグランプリ(審査員特別賞)、さらには映画祭に貢献したとして「金の馬車賞」('09)、'13年にはコンペ部門の審査委員も務めた。
 そして今回の「あん」は、「ある視点部門」のオープニングを飾った。

 是枝作品と同じく、こちらも原作がある。
 放送作家やタレントとしても活躍しているドリアン助川の小説、河瀨監督が脚色する初めてのケースとなった。

351330_003 ドラ焼き屋の雇われ店長を務めるムショ帰りの男(永瀬正敏)、彼のもとでバイトを務めることになったお婆ちゃん(樹木希林)、二人の出会いは満開の「桜」の下だった。

351330_001 彼女の作る「あん(餡)」が評判となり店は行列となるが、彼女の過去が噂となっていく・・・・。

351330_002 撮影は、東京・東村山市にあるハンセン病療養所「多摩全生園」で行われた。

 河瀬監督は、「人間の尊厳を奪われてもなお゛生きよう゛とした人の物語」だという。
 「物いわぬものと向き合い、もの言わずともそれらが変化し始めるとき、その交歓を描く作品になれば」と記す。

351330_006_2 難解と敬遠されてか、興業的にはいまひとつと言われてきた河瀬作品。
 単館上映ではあるが、私が足を運んだ「シネスイッチ銀座」は、ほぼ満席だった。

351330_005 主人公になりきり飄々と演じる樹木の見事な演技、療養仲間の一人として市原悦子が初めて共演した。
 また樹木の孫娘・内田伽羅がオーディションで選ばれ、主人公と心を通わせる中学生役を演じいている。

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July 03, 2015

2624..特別展「花燃ゆ」

003_640 みずほのプレミアム内覧会の切符が手に入ったので、江戸東京博物館に出かける。
 NHK大河ドラマ関連の特別展「花燃ゆ」、休館日を利用した会員だけの内覧なので、ゆっくり見ることが出来た。

Img072_640 テレビをご覧の方は承知の通り、大河の主人公は思想家・吉田松陰の妹、杉文(後の楫取美和子)である。
 彼女は、松蔭の主宰する松下村塾の若い塾生たち、高杉晋作や伊藤博文らに妹の様に可愛がられ、塾生の久坂玄瑞と結婚する。

Img076_640_2 しかし久坂は、今週日曜日の大河でも描かれるように、「禁門の変」で自決。
 未亡人となった彼女は長州藩の毛利家に仕え、幕末の動乱を乗り越えていく。

 後半の人生は、松蔭の盟友で亡き姉の夫だった楫取素彦と再婚、夫が県令として赴任した群馬で産業や教育の普及に尽力した。

Img077_640 会場には、「文の物語」に添った松蔭や文、久坂の所縁の品々、同時代の貴重な歴史資料が並べられ、彼女や志士たちの生きた時代が浮き彫される。

 展示の構成は、大河ドラマの展開とオーバーラップしているので概略紹介しておこう。

・プロローグ「文の育った萩」
 長州藩主関連の史料や、伊能忠敬の地図で当時の城下町「萩」を紹介。

・第1章「兄・松陰と家族たち」
 文の家族たちの写真や松蔭の書簡で、彼が野山獄に投獄されるまでを。

Img078_640・第2章「兄の教えと松下村塾の仲間たち」
 村塾の史料や安政の大獄で処刑された松蔭の絶筆、自賛肖像画など。

・第3章「夫・玄端との別れ」
 玄端が自刃した禁門の変、馬関戦争、第一次長州出兵関連史料。

Sp201506_42_640・第4章「幕府との対決」
 幕長戦争で活躍した奇兵隊・高杉晋作愛用の品々や、討幕の密勅を展示。

・第5章「楫取とともに」
 楫取の功績を伝える史料、富岡製糸工場など文の尽力の様子が。

Img073_640 180点を超える展示資料の中で、最も印象に残ったのが「涙袖帖(るいしゅうちょう)」。
 京都を中心に各地を駆け回った久坂が文に送った手紙、いわばラブレターの数々である。
 文が大事に仕舞っておいた手紙を、楫取が表装した。

 文・松陰・楫取・久坂の友情と愛情と信頼の証である。

 特別展「花燃ゆ」は今月20日まで、江戸東京博物館で。観覧料は1.350円。

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